このコーナー「仕事のエコノミクス」では、これまでの3回で、従業員の給与と企業の利益の関係について見てきた。
戦後ずっと上昇を続けてきた日本のサラリーマンの給与が、1997年から減少に転じた。大きな転換が、10年前に起きていたのだ。
ところがその一方で、企業の売り上げや利益では、まったく反対の動きが生じていた。サブプライムショックが起きる数年前まで、日本の全産業の売上高や利益は、80年代末のバブル経済期さえも上回って、過去最高になっていたのだ。つまり、企業の利益は、働く従業員たちに還元されず、別の場所へと消えていた。
この厳然とした事実と、一見すると不可解なメカニズムを、国税庁の「民間給与実態統計調査結果」や、財務省の「法人企業統計調査」をもとに解きほぐしてみたのが、前回までだ。
そこで今回から、いったん視点を変えて、一人ひとりの収入の実態に目を向けていく。ターゲットは「家計」。利用するのは、今度は総務省の「家計調査年報」である。
いま、この国の勤労世帯の収入は、どうなっているか。具体的な数字を見ながら、自分の実感との違いを確かめてみたい。

総務省の家計調査には、半世紀を超す歴史がある。現在は、全国4700万世帯のなかから9000世帯を抽出し、収支や貯蓄などを調査している。この国の勤労世帯の家計の実情が、ここから浮かび上がってくる。
その膨大なデータのなかで、世帯における収入の実態をわかりやすく示しているのが、「年間収入五分位階級別家計収支」という統計だ。
名前はなんともしかつめらしい。けれど、示される数字はシンプルで、実感にそう。この年間収入の「五分位階級」とは、世帯を年間収入の低いほうから順番に並べていったときに、5等分して5グループに分けたものだ。興味深いだろう。
総務省ではこれを、年間収入の低い方から「第1階級」「第2階級」「第3階級」……と呼んでいる。それぞれの階級が、年収としてどんな範囲になるかを示したのが、表1だ。
つまりこの国の勤労世帯は、下位の20%(100世帯のうち20世帯)が、年収367万円以下となっている。また、上位の20%は、年収が879万円以上ある。また、ちょうど中位の20%は、504~655万円におさまっている。数字はいずれも税込みだ。
◇
生活問題や貧困、格差の解決について研究している明星大学人文学部の馬場康彦教授は、著書『生活経済からみる福祉』で、この「家計調査年報」を分析している。おおむね10年区切りで、直近の統計を、1997年や1989年と比較し、低所得階層と高所得階層それぞれにどのような変化が起きたかを追っている。
それぞれの階層で、この20年間の変化には、共通する点と相違する点がある。低所得層にも高所得層にも共通しているのは、
「世帯収入におけるボーナスの比重と金額の低下」
という現象だ。
馬場教授によると、低所得階層にとっては、そもそも収入におけるボーナスの比率が低くて、89年は9%しかなかった。それがさらに97年には8%に下がり、05年には4%にまで落ちたという。高所得層にとっては収入に占めるボーナス比率は高いが、それでもやはり18%→17%→14%と下落つづきだ。
では、この両方の階層にとっての大きな相違点はなにか。それは、これだ。
「妻の収入」
低所得者層の世帯では、この20年間、家計における妻の収入はほぼ横ばいだった。比重も金額も伸びてはいない。一方、高所得者層では、妻の収入が1.5倍に上昇している。
「妻の収入が、収入階級間の『格差』を拡大している大きな要因であることは、もはや疑いない」
そう馬場教授は書く。
経済評論家の永野良佑にも、ユニークな著書『女房を質に入れるといくらになるのか?』において、会計学の視点から、結婚や妻の費用対効果を分析している。
「妻が働くこと」は、階層間の移動にとって、もっとも効果が大きい。身も蓋もないような、この厳然とした現実が、統計においても示されているのだ。
(記事:Bizトピックス編集部 → 編集記者募集中)
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