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    増える詐欺求人、その背景と罰則化への期待

    昨今、問題となっている「詐欺求人」をご存知でしょうか? さまざまな業界で人手不足が深刻になるなか、労働条件や待遇を実態よりも良く見えるように記載して、労働者を集めようとする手口のことです。ブラック企業への注意が呼びかけられて久しいですが、大学生や転職者らが、こうした詐欺求人の被害に遭うという問題が起こっています。

    詐欺求人とは何か?

    「詐欺求人」は、企業が求人を出す際、実態と異なる虚偽の好条件を示して応募者を多く集めて、入社させようとすることです。例えば「最大でも年収300万円のポジションを、年収600万円として記載する」、「技術職として採用されたのに、営業をやらされた」といったことが挙げられます。社員の待遇・働きやすさを顧みないブラック企業で多くみられる手口であることから、「ブラック求人」とも呼ばれています。

     

    もちろん、求人票・求人広告に記載されている条件よりも低い賃金で採用されることは珍しくありません。しかしこうしたケースでは、将来の昇給や待遇アップが約束されていることが前提です。また、事前の雇用契約書上で労使双方の合意が得られていれば、問題になることも少ないでしょう。

     

    しかし、詐欺求人の場合、求人に記載されていた福利厚生や社内制度がないなど、将来の改善が期待できないほどに実態と異なっている点が特徴です。さらに、雇用契約書の内容と異なる業務に従事させられるといった契約違反も見られます。

    詐欺求人を取り巻く実態と背景

    こうした詐欺求人は、2013年頃から、ハローワークや民間の就職サイトで見られるようになりました。賃金、就業時間などの労働条件から、職種などの業務内容に至るまで、求人条件と実態が大きく異なるケースが急増し、大きな問題となりました。入社してみたらブラック企業であっても、新卒の場合には何のキャリアも積まずに転職するのは難しい……。そんな理由から辞めるにやめられず、心身が疲弊してしまったり、体調を崩してしまったりする問題が増加したのです。

     

    日本国内の労働力が減少するなかで、この詐欺求人が社会問題に発展していきました。求人時の労働条件の明示を義務付けている「職業安定法」という法律はあるものの、詐欺求人を出した企業を直接処罰する規定はないのが現状です。厚労省の調査によると、ハローワークの求人内容が実際の労働条件と異なるとの相談は、調査を始めた平成24年度は7783件でしたが、平成25年度には9380件に増加、さらに平成26年度1万2252件にまで増加しました。なかでも、賃金をめぐるトラブルがもっとも多く、就業時間や仕事内容についても相談が寄せられているといいます。

     

    増加した背景としては……

     

    ・若年層人口の減少により、人手不足が深刻化。虚偽の条件を記載してでも人を集めようという企業が増加してした。

     

    ・企業がホームページなどで直接採用募集する際には、詐欺や誇大な求人条件をした場合に罰則規定がある。しかし、ハローワークなどの紹介業者への求人票に対する詐欺条件の記載については罰則がない。

     

    ・労働条件を記した「求人票」と、実際に働く条件の合意文書である「契約書」は法律上別物扱い。そのため、求人票と契約書の内容が異なっていても、「あとから条件が変更になりました」などと言えば、罰することができない。

     

    このような社会的な背景に押され、さらに法律的な抜け穴を使い、詐欺求人が増えていったのです。

    詐欺求人罰則化の動き

    こうした詐欺求人の増加を受けて、厚労省はハローワークや大学などの職業紹介事業者で詐欺求人を掲載した企業に対し、罰則規定を加える検討を始めました。具体的には、職業安定法に懲役刑を含む罰則を加えるものとしています。2016年秋以降の労働政策審議会で議論を本格させ、職業安定法の改正を目指す構えです。

     

    この罰則規定は、詐欺求人を出していたブラック企業の抑止力にはなると考えられています。しかし、それだけでは十分ではないという声もあがっています。例えば、残業代の未払い問題や過重労働の問題などの取り締まりにおいても、すべてを摘発できているとは言い難い状況です。刑事罰を与えるには、綿密に証拠を固めなければいけないので、不正を白日のもとに晒すのは時間がかかるからです。また、今回の罰則規定は、ハローワークや大学を対象としており、求人サイトに掲載された詐欺求人がどのように取り締まられるのか(そもそも取り締まりの対象になるのか)が明確化されていません。

    今後求められる対策

    ・企業側は、労働者と対等な存在であることを認識する必要があります。また、労働者との合意もなく、事前の説明と異なる待遇で採用することは、法的なリスクを抱えることになることも、しっかり知っておく必要があるでしょう。

     

    ・労働者は、採用企業が詐欺を行うケースがあるということを認知し、「怪しい会社かもしれない」というシビアな目で吟味することが重要です。「労働契約を交わす」という意識を一人ひとりが持つことが大切でしょう。そのためには、大学やハローワークなどで啓発活動を実施する必要があると考えられます。

     

    ・労働基準法15条を改正し、どの時点で「契約の際の書面(就業条件明示書)」で条件を交付するべきかを明確化する必要があります。これにより、あとから条件が変更になるといったことを防ぐことができるでしょう。

     

    ・現在は統一されていない求人情報の掲載について、国がフォーマットを統一する方法も有効だとされています。書式を統一することで、虚偽の情報を発見しやすくなります。また、チェック欄を設けるなどで、企業側への抑止力にもつながります。

     

     

    遅まきながらも対策が開始された「詐欺求人」。さまざまな角度から是正が進むことが求められているといえるでしょう。(ライター:香山とも)

     

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