ハローワークの求人にブラック企業が多い理由
行政が運営する職業紹介所「ハローワーク」。企業の求人情報を多数保有しており、求職者の希望にあった求人情報を提供していますが、「ハローワークの求人はブラック企業ばかり」「ウソの求人票が多い」という批判も絶えません。いったいなぜでしょうか?
そもそもハローワークとは
ハローワークは、正式名称を公共職業安定所といい、求職者に安定した雇用機会を確保するために厚生労働省が設置・運営しているものです。「ハローワーク」はその愛称で、全国約540か所に設置されています。おもな役割は職業紹介事業で、求職者に対して希望に合う求人を紹介したり、企業からの求人案件を受け付けたりします。求人サイトと違って、応募する際はハローワークへ直接出向き、施設内の端末などから求人を探し、担当窓口を通じて応募することになります。
また、再就職支援のためのキャリアカウンセリングや職業訓練、雇用保険や失業保険の認定・給付などもおこなっています。求職者として利用する場合でも、あるいは企業が求人を掲載する場合でも、利用はすべて無料です。
なぜハローワークにはブラック企業の求人が多いのか
このように、行政サービスとして無料で利用できるのがハローワークの利点ですが、以下の理由から、ブラック企業の求人が多い傾向にあります。
1. 採用にコストをかけたくない企業が集まる
一般的な求人サイトと違い、企業がハローワークで求人票を掲載しても費用は一切かかりません。もちろん、実際にハローワーク経由で人材が採用できたとしても無料です。そのため、採用にコストをかけたくない企業が集まりやすくなります。
この「採用コストをかけたくない」という意図の裏には、何らかの理由ですぐに社員が辞めていく労働環境が想像されます。例えば「労働時間に見合った給与が支払われない」「コンプライアンス違反が続出している」など、ブラック企業と呼ぶに足る要因が隠されているかもしれません。「どうせすぐ辞める人が多いから、とにかく採用コストは無料がいい」……そんなブラック企業がハローワークを利用しているのです。
2. 事実と異なる求人票を出しても罰則がない
求人サイトの求人広告と、実際に提示された労働条件が異なるというのは、しばしばあることです。それ自体に違法性はありませんが、あまりにも事実とかけ離れている場合や、1つの企業が同様の事例を繰り返す場合、求人サイト側は、企業の求人広告掲載を拒否するなどの対処をおこなうでしょう。
しかし、ハローワークでは、「企業からの求人申し込みは原則的にすべて受け付けなければいけない」と法律で規定されているため、こうした対処が困難です。「求人票には月給25万円と書かれていたのに、実際には月給20万円だった」「求人票では完全に土日休みのはずが、サービス出勤を強制された」といった苦情が相次ぐ企業でも、明確に法律違反の内容でない限り、求人票を何度でも掲載することができるのです。そのため、ブラック企業にとって、ハローワークは“都合よく何度も人材を募集できる場”になり下がっているのです。
3. 助成金目当ての企業が一部存在する
ハローワークを通じて人材を採用すると、厚生労働省から助成金が支給される制度があります。例えば、既卒の若者や高齢者、障がい者などを雇用し、一定条件を満たした企業には数十万円の助成金が支払われます。ごく一部の企業に限った話ですが、この助成金目的で採用をかけている企業もあります。
ハローワークの改善が求められている
上記1~3のような事例に対し、ハローワーク側がほとんど対策を講じないことが指摘されていましたが、2016年3月からはブラック企業の求人を受け付けないような方針転換もおこなっています。具体的には、違法な長時間労働やサービス残業、育児・介護休業法違反などについて、労働基準監督署から1年間に2回以上、是正指導された企業は、ハローワークで求人募集できなくなります。
しかし、もとから労基署からの目をかいくぐっているブラック企業は、ハローワークでは見抜くことができません。また、是正指導にそって改善したように見せかける企業などについては、これまで通りにハローワークでも求人が受け付けられてしまうでしょう。実効性のある改善が、今後も継続的に求められています。
もちろん、ハローワークの全求人がブラック企業の求人というわけではありません。ごくまともな企業の求人も多数あります。しかし、上記のような問題がまだまだ残っている以上、ハローワークにブラック企業の求人が少なくないと肝に銘じておくべきでしょう。