外資系企業への転職、企業選びの3つの視点
転職先を考える上で、外国企業が日本に拠点を置く「外資系企業」は選択肢のひとつになりえます。ただし、ひとことで「外資系」といっても違いは大きく、企業選びにはチェックポイントがあります。今回は4つの観点を示すので、情報収集をする視点の参考になれば幸いです。
なお、例えば欧州系の企業の中でも「英国系」と「ゲルマン系(ドイツ・スイスなど)」と「ラテン系(フランス・イタリアなど)」では文化的な違いが目立ちます。国籍だけで一概に断定できるわけではありませんが、傾向として押さえておくと比較検討がしやすいでしょう。
本社の文化と地域性による違い
外資系企業は、本社の文化と地域性の影響を大きく受けます。
1.米国系企業
米国系企業は、実力主義・成果主義の色が非常に濃い傾向があります。ジョブディスクリプション(職務範囲)が明確で、達成すべき目標が数値化されており、個人の成果がはっきりと評価に反映されることが多いです。
キャリアパスや昇進・昇給の基準が透明性をもって示されるため、社内でのステップアップの見通しが立てやすいのも特徴です。英語でのコミュニケーションが標準となることが多く、海外の関連拠点や本社とのやり取りも頻繁に行われます。
2.欧州系企業(ゲルマン系)
ドイツ・スイスなどゲルマン系の企業は、長期的な視点での人材育成やプロセス重視の風土を持っていることが多いです。
品質管理や安全基準など、事前の計画や手続き、精緻な検証を重視するため、意思決定に時間をかける傾向があります。ただし、合意形成をしっかり行ったうえで決定するため、実行段階に入ると大きなブレが起こりにくいのも特徴です。
3.欧州系企業(ラテン系)
フランス系やイタリア系のラテン系企業では、長期休暇やフレキシブルな働き方など、ワークライフバランスを尊重するカルチャーが社内制度に反映されていることが多いです。階層性が比較的強めに残っているケースや、コミュニケーションにおいて社交的・人間関係を重んじる風土が見られます。
いわゆる典型的な外資系企業の「ドライ」なイメージには沿わないかもしれません。意思決定プロセスは「リーダーの裁量が大きい」場合や「合議制が強い」場合など会社ごとに差が出やすいため、企業の実態を見極めることが重要です。
4.英国系企業
英国系企業は、欧州大陸系とはやや異なるビジネス慣習を持っており、英語圏特有のフラットさと伝統的な文化をあわせ持つ傾向があります。コミュニケーションでは礼儀を重んじる一方で、グローバル展開のスピードや英語を基盤とした情報共有がしやすいため、国際的に活躍しやすい環境が整っていることが多いです。
米国系ほど短期成果にこだわらない場合もあり、長期的な信用や安定を重視するマネジメントが見られます。近年はブレグジット(EU離脱)の影響もあり、拠点再編や経営戦略の見直しが進められているため、転職を検討する際には最新の状況をリサーチすることが重要です。
5.アジア系企業
シンガポール、香港、中国、ベトナムなど、アジア発のグローバル企業も近年は存在感を高めています。日本との文化的・地理的な近さがあるため、欧米系ほどカルチャーギャップを感じない場合もあれば、急激に欧米型の成果主義を導入している企業も見受けられます。
経営陣のバックグラウンドが欧米出身かアジア出身かによっても、社内文化が大きく異なるため、面接や社内関係者からの情報収集でしっかり確認しておくとよいでしょう。
日本拠点の位置づけによる違い
同じ外資系企業でも、日本拠点の位置づけによって業務環境は大きく変わります。
1.日本拠点の権限が強い場合
海外本社にとって日本市場が重要であり、日本国内で大きな売上や研究・開発拠点をもっている場合、日本ローカルが独自の戦略を打ち出しやすい環境になります。意思決定の自由度が高く、日本特有の商習慣や雇用慣行(たとえば終身雇用に近い人事制度など)を比較的残していることもあります。
本社へのレポーティング(報告)やチェックがあってもあまり干渉されず、日本市場にカスタマイズした施策を打てるケースが多いため、現場の裁量権を重視したい方には魅力的です。ただし、得意の英語を使った仕事をしたい、と考えていると、その機会は意外と限られるかもしれません。
2.日本拠点の権限が弱い場合
一方、本社主導の体制が強く、日本拠点が収益面や戦略面であまり大きなウエイトを占めていない場合は、グローバルスタンダードの制度や規則がより厳密に適用される傾向があります。意思決定の多くが本社承認を必要とし、報告・承認プロセスが複雑で時間がかかる可能性があります。
英語を活用する場面は多いかもしれませんが、日本市場特有のニーズに柔軟に対応したい場合でも本社の意向を優先しなければならず、なかなかローカライズが進まないこともあります。そのため、入社前に「日本拠点がどの程度の裁量を持っているのか」を確認することは、入社後のギャップを減らすうえで非常に大切です。
業種による特徴
外資系の特徴の表れ方は、業種による違いもあります。
1.コンサルティング
コンサルティングファームでは、グローバルスタンダードのメソドロジー(方法論)や評価基準が適用されることが多く、厳しい成果管理のもとでプロジェクトが進められます。海外クライアントとの協業も珍しくないため、高い英語力が求められる場合がほとんどです。
また、実力があれば若いうちから責任のあるポジションに登用される一方、成果を残せない場合は退職を余儀なくされる「Up or Out(昇格しなければ退職)」のカルチャーが強い傾向にあります。とはいえ、日本拠点では日本の労働法が適用されるため、即座に解雇することはできません。
2.機械系メーカー
機械系メーカーでは、技術力や品質管理が非常に重視されます。グローバルな研究開発体制を敷いている企業であれば、日本拠点のエンジニアや研究者が海外チームと協力する機会も多いでしょう。本国が持つ技術基準や設計思想に則りつつ、日本市場特有のニーズに合わせたカスタマイズを行うため、ローカルと本社の連携がカギになります。
3.食品系メーカー
食品系メーカーは、食文化が国ごとに異なるため、現地化(ローカライゼーション)の度合いが比較的高い業種です。日本市場向けに独自の味付けやパッケージを開発するなど、柔軟な対応が求められます。また、食品安全基準や表示基準など、世界的な基準と日本国内の法規制が両方絡んでくるため、品質保証・法務といった部門での専門知識が重要視されやすいです。
4.商社・卸
商社・卸は、グローバルネットワークを活かして取引を行うビジネスモデルが中心となります。海外拠点との連携が日常的に発生し、契約交渉やスキーム組成など、多角的な知識が求められます。
日系商社との違いとしては、特定分野にフォーカスしている企業が多く、そこに高い専門性を持っているケースが多いことが挙げられます。商習慣の違いや法規制への理解はもちろんのこと、ビジネス上のリスク管理やコンプライアンス対応にも力を入れているため、広い視野と柔軟な対応力が問われる業種です。
転職前に確認すべきポイント
外資系企業を転職先の候補にするときは、以下のポイントをチェックしましょう。
1.評価制度とキャリアパス
外資系企業では、昇進や昇給の基準が明示されていることが多いものの、それがグローバルで一元管理されているのか、日本ローカルで独自運用されているのかは企業によって異なります。
どのような成果指標が重視されるのか、評価面談のフィードバックはどれくらいの頻度で行われるのかを確認しておくと、入社後のキャリア形成をイメージしやすくなるでしょう。また、海外拠点へのローテーションや駐在の可能性があるかどうかも、事前に聞いておくとミスマッチを防げます。
2.意思決定プロセス
本社が意思決定の大部分を握るのか、それとも日本拠点に相応の権限が委譲されているのかによって、働き方や業務の進めやすさは大きく変わってきます。
本社とのコミュニケーション体制(週次ミーティングや報告書のフォーマットなど)はどうなっているのか、意思決定が遅れた際のリスクはどのようにコントロールしているのか、といった点は面接や企業リサーチの段階で確認しておくことをおすすめします。
3.企業文化
国籍を問わず、外資系企業は「多様性を重んじる」風土であることが多いですが、その度合いには差があり、組織内コミュニケーションの取り方や上下関係のあり方もさまざまです。
フレックスタイムや在宅勤務などの柔軟な働き方に対応しているか、また、女性活躍やLGBTQへの取り組みなど、多様性への姿勢が実際にどの程度根付いているのかなども確認材料になるでしょう。カルチャーのミスマッチは致命的になるおそれもあり、採用担当者に丁寧に質問すれば答えてくれます。
最終的には「企業の実態」が大事
ここまで挙げてきた内容は、あくまでも一般的な傾向を示したものであり、同じ国籍や業種であっても企業によってカルチャーやマネジメントは大きく異なります。
外資系企業の特徴を大まかにつかんでおくことは有用ですが、最終的には「企業の実態」が自分の求めるキャリアビジョンや働き方に合っているかどうかを、丁寧に見極めることが成功の鍵です。
面接などで具体的に確認・質問をして、ミスマッチを最小限に抑えながら転職活動を進めてください。皆さまのキャリアが、より充実したものになることを願っています。