労働基準監督官 ~働く人々の労働環境を守る番人~
仕事の役割 ~労使間トラブルをチェックし、労働者の権利を守る~
労働監督官は管轄するエリア内の企業が、労働基準法を初めとした労働に関する法律の基準を守っているかをチェックし、労働者の権利を保護する国家公務員です。具体的には、給与未払いや不当解雇、過重労働、残業代未払いといった問題が起きていないかについて、労働者の立場に立ちながら、問題の企業を監督し、適切な労働環境を順守するよう指導を行います。実際に労働者からの訴えや相談があれば、調査として企業の勤怠管理や人事関連のデータを調べ、様々な書類を作成しながら、企業への監督指導を行います。実際に企業へ出向いて聞き取り調査を行うこともあるなど、労使関係については一定の権限を発揮することもあります。
労働基準監督官の勤務先は、全国各地に配置されている労働局、労働基準監督署となります。それぞれの拠点ごとに業務内容は異なりますが、どちらに勤務した場合でも、労働基準法、労働安全衛生法に関連する業務を行います。近年の経済不況の影響もあって不当に人件費を抑えようとしたり、安全基準を無視した環境で働かせようとしたりといったトラブルも増えており、労働基準監督官への要望も増えつつあります。働き方改革が進む中で、労働基準監督官の重要度もますます増えていくでしょう。
おおよその年収
国家公務員であるため、平均年収は約660万円と高めです。これに地域手当、時間外手当、役職手当、本省での勤務の有無等で年収は大幅に変わってきます。ただ、若手のときはやはり年収400万円程度からのスタートとなることもあります。
求められる能力 ~労使関係の法知識と冷静な判断能力~
労働基準監督官は国家公務員なので、「労働基準監督官採用試験」に合格しなければいけません。法律の知識を問う問題が多いので、法学部卒の人は有利でしょう。特に「労働基準法」や「労働安全衛生法」が関係するので、労働問題についての知識が絶対的に必要です。実際の業務の中でも法律と照らし合わせながら個別のケースを判断していくことが多いため、試験勉強の知識ではない、生きた法知識を身につける必要があります。
また、労働者と事業者との間で起こる紛争の解決に向けて取り組むのが主な仕事なので、双方の言い分を聞き、冷静に判断する能力が必要とされます。情に流されることなく、正義感と責任感をもって、冷静に物事を進める姿勢、冷静さ・判断力が重要でしょう。
近年は、経済不況の影響もあり、賃金の不払い、サービス残業、不当解雇など様々な問題が増えています。また、「やりがい搾取」などと呼ばれるグレーゾーンな問題などもあります。問題があると判断した場合は、その証拠をつかむ調査能力、資料やデータを読み込む力なども求められています。その他、書類作成の業務が多いため、事務処理能力が高いことも大切です。
向いている人柄 ~困っている労働者を助けたいと思える正義感のある人~
現在はネットの普及により、ブラック企業や長時間労働、パワハラなど、過酷な労働環境の問題も明るみになりやすい時代になっています。苦しんでいる労働者を助けたい、よりよい労働環境をつくりたいと思えるような人が向いています。今までは国家公務員なので、ぬるま湯的な環境もありましたが、働き方改革が叫ばれるなか、労働監督官に求められる期待値も高まっており、「困っている人を助けたい」と情熱を持って携われる人が向いているでしょう。
仕事のやりがい ~働き方改革が叫ばれる中、社会的意義も大きい~
正社員よりも非正規社員が増えている現在、過酷な労働環境を強いられている労働者は多く存在しています。そしてまた、正社員の中にさえ過重労働や過酷な労働環境、セクハラ、パワハラなどに悩んでいる人が数多くいます。労働基準監督官は、事業主に労働関連法令を遵守させることによって、困っている労働者を助けることができる仕事です。人々の働き方が大きく変わりつつある現代において社会的意義が大きく、大変やりがいのある仕事といえるでしょう。
仕事の辛いところ ~転勤が多い仕事、ジレンマを感じることも~
最近は法の合間をくぐり抜けるグレーゾーンの企業も増えています。労働者が訴えるクレームも法令違反にならず、気持ちとしては「ひどい環境」だと思っても、法律上は問題ないため改善指導はできない……。そんなシーンではジレンマを感じることもあるでしょう。また、労働基準監督官は国家公務員で、数年に1度の割合で全国規模の転勤が命じられます。転勤を苦痛と感じるのではなく、新しい土地でその土地ならではの労働問題を解決できるチャンスだと、前向きに受け入れられる人が向いているでしょう。(ライター:二之形幸子)