顧客提案で「競合との差別化ポイント」を数値化して見せる分析手法
顧客への提案活動において「導入効果」を具体的に示すことは重要です。「業務効率が上がる」「コストが下がる」といった定性的な説明だけでは、なかなか決裁が通りません。
今回は、提案書作成や商談の場面で活用できる、主要な数値化手法について解説します。計算方法から提案資料での表現例まで、主要な4つのパターンに沿って実践的に説明していきます。
1.業務時間の削減効果
提案活動において、効果を数値で示すことは、単なる説得材料以上の意味があります。具体的な数字があることで、予算の確保がしやすくなり、また導入後の効果測定の基準にもなります。
最も分かりやすい効果指標の1つが、「業務時間の削減効果」です。現状の作業時間を把握し、自動化による削減効果を具体的に示します。
計算の基本
(1)「月間所要時間」を把握します。例えば以下の通りです。
- 申請処理:5分/件×200件/月×2名=2,000分(約33時間)
- データ入力:3分/件×400件/月×1名=1,200分(約20時間)
(2)「自動化削減率」を算出します。例えば以下の通りです。
- 完全自動化可能な作業:100%削減
- 一部手動確認が必要な作業:80%削減
- 例外処理が発生する作業:60%削減
(3)「年間削減時間」を計算します。例えば以下のとおりです。
- 月間削減時間33時間×12ヶ月=396時間/年
- 月間削減時間20時間×12ヶ月=240時間/年
(4)「人件費換算」を行います。例えば以下のとおりです。
- 正社員の場合:年間人件費÷年間労働時間(例:600万円÷2,000時間=3,000円/時間)
- パート・アルバイトの場合:時給単価をそのまま使用(例:1,200円/時間)
- 外注の場合:委託単価(例:3,500円/時間)を使用
提案書での表現例
- 「申請処理作業」:月40時間→4時間(90%削減)を実現します。
- 「データ入力作業」:月30時間→0時間(100%自動化)が可能です。
- ⇒「年間削減時間」:792時間の削減。
- ⇒「人件費換算効果」:198万円のコストダウンが見込めます。
- 社内人件費単価2,500円/時間で計算(年間人件費500万円÷2,000時間)
- 792時間×2,500円=1,980,000円
商談での説明ポイント
(1)「現状の作業時間」をヒアリングで確認します。例えば以下のとおりです。
- 「この申請処理には、1件あたり平均何分くらいかかっていますか」
- 「月間の処理件数は、おおよそどのくらいでしょうか」
- 「何名の方が、この業務に関わっていらっしゃいますか」
(2)「削減効果」は大げさに見積もらないことが重要です。実際の効果と大きくかけ離れれば信用を失うことになります。例えば以下のとおりです。
- 自動化率は90%ではなく、現実的に80%程度で試算する。
- 習熟期間を考慮して、効果は半年後から発現すると想定する。
(3)「既存顧客の事例データ」があれば具体的な数値として提示します。例えば以下のとおりです。
- 「A社様の場合、導入3ヶ月後に処理時間が75%削減されました」
- 「B社様では、年間で約150万円の工数削減効果が出ています」
2.TCO削減効果
「TCO(TotalCostofOwnership)」は、システム導入時のコスト削減を総合的に示す指標です。「初期費用」「運用費用」「保守費用」など、想定されるすべてのコストを3年単位で比較します。
計算の基本
(1)「現状のコスト」(既存システム、人件費、外注費など)を棚卸しします。例えば以下のとおりです。
- 既存システム保守費:月額8万円×12ヶ月=96万円/年
- 運用担当者人件費:2名×480万円=960万円/年
- 外注費:月額5万円×12ヶ月=60万円/年
(2)「提案システムのコスト」(利用料、運用費、移行費など)を算出します。例えば以下のとおりです。
- システム利用料:月額9万円×12ヶ月=108万円/年
- 運用担当者人件費:1名×480万円=480万円/年
- 初期導入費用:100万円(1年目のみ)
(3)「3年分の総額」で比較を行います。例えば以下のとおりです。
- 現状:1,116万円/年×3年=3,348万円
- 提案後:588万円/年×3年+100万円=1,864万円
提案書での表現例
- 「現状コスト」:2,880万円(既存システム保守960万円+運用人件費1,920万円)です。
- 「提案後コスト」:1,620万円(システム利用料1,080万円+運用人件費540万円)まで削減できます。
- ⇒3年間で1,260万円のコストダウンが実現可能です。
商談での説明ポイント
(1)「隠れコスト」も含めた総合的な比較を行います。例えば以下のとおりです。
- 運用担当者の人件費(月間作業時間×単価)
- システム保守の外注費(年間契約金額)
- トラブル対応にかかる残業代(月平均金額)
(2)「初期費用」は総額に含めて比較します。例えば以下のとおりです。
- システム導入費用(ライセンス料、カスタマイズ費用)
- 環境構築費用(サーバー、ネットワーク設定)
- 初期データ移行費用
(3)「削減根拠」は具体的に説明します。例えば以下のとおりです。
- 自動化による作業時間の削減(作業別の削減時間)
- システム統合による保守費用の削減(現行費用と比較)
- 業務効率化による残業代の削減(現状の残業時間×単価)
3.生産性向上効果
「処理件数」や「対応件数」の向上を具体的に示す指標です。特に「人手不足の解消」や「業務品質の向上」を訴求する際に有効です。
計算の基本
(1)「現状の処理件数」(時間あたり、人あたり)を把握します。例えば以下のとおりです。
- 申請処理:12件/時間×7時間×20日=1,680件/月
- 問い合わせ対応:6件/時間×7時間×20日=840件/月
- 入力作業:30件/時間×5時間×20日=3,000件/月
(2)「自動化・効率化による向上率」を算出します。例えば以下のとおりです。
- 定型的な処理の自動化:処理速度2.5倍
- 入力補助機能による効率化:処理速度1.8倍
- AIによる仕分け自動化:処理速度3倍
(3)「残業削減」や「品質向上効果」も含めて試算します。例えば以下のとおりです。
- 残業時間:月平均20時間→5時間(75%削減)
- 入力ミス:月間30件→3件(90%削減)
- 処理漏れ:月間10件→1件未満(90%削減)
提案書での表現例
- 「対応件数」:20件/時間→50件/時間に向上します。
- 「残業時間」:月平均20時間→5時間まで削減できます。
- 「入力ミス」:月間30件→ほぼゼロまで改善します。
- ⇒1人あたりの生産性が2.5倍に向上します。
商談での説明ポイント
(1)「現場の実感値」に基づいた設定を行います。例えば以下のとおりです。
- 「現在の処理スピードはどのくらいですか」
- 「入力ミスは月にどのくらい発生していますか」
- 「残業は主にどのような作業で発生していますか」
(2)「品質面の向上効果」も含めて説明します。例えば以下のとおりです。
- データ入力のミス防止機能による効果
- チェック作業の自動化による効果
- リアルタイム集計による報告作業の効率化
(3)「働き方改善効果」をアピールします。例えば以下のとおりです。
- 残業時間の削減効果、休暇取得率の向上、業務の属人化解消
4.ROI(投資対効果)
「ROI」は投資効果を総合的に示す指標です。特に決裁者向けの説明で重要になります。
計算の基本
(1)「投資額」(初期費用+ランニングコスト)を算出します。例えば以下のとおりです。
- 初期費用:システム導入費、環境構築費、初期データ移行費
- ランニングコスト:月額利用料、保守費用、運用担当者の人件費
(2)「効果金額」(削減効果+増収効果)を算出します。例えば以下のとおりです。
- 削減効果:人件費削減、外注費削減、システム保守費削減
- 増収効果:処理能力向上による売上増、機会損失の防止
(3)「投資回収期間」と「ROI」を計算します。例えば以下のとおりです。
- 投資回収期間=投資額÷年間効果金額×12ヶ月
- ROI=(累計効果金額-投資額)÷投資額×100%
提案書での表現例
- 「初期投資」:200万円からスタートできます。
- 「年間コスト」:360万円で運用できます。
- 「年間効果」:720万円(工数削減240万円+売上増480万円)の効果が見込めます。
- ⇒投資回収期間は8ヶ月です。
- ⇒3年間ROIは200%の投資効果を実現します。
商談での説明ポイント
(1)「効果測定可能な項目」のみで算出します。例えば以下のとおりです。
- 工数削減効果(時間×単価)
- システム運用費削減(保守費用の差額)
- 増収効果(取引拡大、機会損失削減)
(2)「投資回収期間」を重視して説明します。例えば以下のとおりです。
- 月次での効果積み上げを図示
- 初期投資の回収時期を明確に提示
- 運用コストも含めた実質回収期間を説明
(3)「決裁基準」に合わせた表現を工夫します。例えば以下のとおりです。
- 投資判断基準(ROI n%以上等)との比較
- 同種の投資案件との比較
- 複数の投資パターンの提示
顧客提案を成功させるために
提案活動のための数値化をうまく行うポイントは3つあります。1つ目は、「顧客の課題」に合った指標選びです。人手不足が課題なら「生産性向上」を、コスト削減が課題なら「TCO」を中心に据えます。
2つ目は、「現場の実態」に基づく算出です。机上の計算ではなく、実際の業務に即した数値を示すことで説得力が増します。3つ目は、効果測定を見据えた設定です。導入後に効果を検証できる指標を選ぶことで、提案の信頼性が高まります。
これらを意識しながら、提案内容に応じて適切な数値化手法を選択し、より説得力のある提案を目指してください。