「さよなら!僕らのソニー」――出井、ストリンガーを批判する大賀典雄 2012年3月13日 ビジネスの書棚 ツイート 長年にわたって愛するソニーを取材し続けてきたジャーナリスト、立石泰則氏のノンフィクション「さよなら!僕らのソニー」(文春新書)は、往年のソニーファンなら目を通しておきたい新書だ。 本書は単に取材対象を時系列で追い、賞賛したものではない。盛田昭夫・井深大という偉大なる創業者から会社を引き継いだ大賀典雄氏の言葉を借りながら、元CEOの出井伸之氏と、さきごろCEO退任を発表したハワード・ストリンガー氏を厳しく断罪する内容になっている。 大賀氏は、ネットビジネスにのみ傾注する出井氏を自分の後継者に選んだことについて、晩年になって「失敗だった」と反省し、「出井くんは社長になってから、どんなソニーらしい製品を世に出したのか」「私は出井氏を(ソニーのトップとして)認めない」とあからさまに口にするまでになった。 次期社長と目されていた久夛良木健氏を道連れに出井氏が取締役を総退陣させた後、CEOに就任したストリンガー氏に対しても、大賀氏は「あなたはもうアメリカに帰りなさい」と辞任を促したという。 ◇ 失われたソニーらしさ、ソニースピリット 結局、ストリンガー氏から「あなたこそこの部屋(相談役室)から出て行きなさい」と言い返されて、大賀氏はリタイアに至る。このあたりの大賀氏の言葉は、「いまのソニーは、私たちに『夢』を与えてくれた、ソニースピリットあふれる私たちの知るソニーではない」と言い切る立石氏の憤りと寂しさと重なっている。 しかし、このような憂いは、現役社員たちにも共有されていないようだ。キャリコネには、経営企画部門に勤務する30代の男性社員の書き込みが見られる。 「最近ようやくストリンガーの後任に平井さんが出てきて立て直しが始まっているが、テレビ部門を切らないと言った時点でお先が見えているような気がする。もうどうやっても価格でしか消費者は見てこないんだからそれで勝負できない商品をとっとと捨てて欲しい」 でも、本当に消費者は価格でしか商品を見ていないのだろうか。そういう考えが「ソニーらしさ」や「ソニースピリット」を感じさせる製品を失わせ、結果、会社の競争力を失わせたのではないか。いまの社員たちは何に憧れて、ソニーに入社したのだろう。 井深氏の愛弟子で、開発・製造畑一筋だった大曽根幸三氏は、「ソニースピリット」とは「井深さんの無理難題の産物だ」と述べ、当時を振り返っている。 「新しい製品や技術を考えることは、技術屋には面白いですから、寝ずにでもやっちゃうくらいでしたよ。それでやっと完成しても、(井深氏から)『もうちょっと、音質が良くなるといいんだがな』と言われると、またそれをやるわけです。そして、これでいいだろうと判断した段階で(製品化し)市場へ出すわけです。すると、それを見て『ああ、いかにもソニーらしい』と余所の人は言ってくれる」 井深氏の態度はどことなく、製品の使いやすさとカッコよさにこだわり部下を叱咤したスティーブ・ジョブズを彷彿とさせる。この視点が、大賀氏の口癖だった「ユーザーの琴線に触れる製品でなければ、ダメなんだ」という言葉につながっているわけだ。かつてソニーは、ジョブズの憧れだった。「ものづくりに関心がなく、エレクトロニクス事業も分からない外国人CEO」が辞めたあと、ソニーはどこへ行くのだろう。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年2月末現在、45万社、16万6000件の口コミが登録されています。 【その他のビジネスの書棚はこちら】
「さよなら!僕らのソニー」――出井、ストリンガーを批判する大賀典雄
長年にわたって愛するソニーを取材し続けてきたジャーナリスト、立石泰則氏のノンフィクション「さよなら!僕らのソニー」(文春新書)は、往年のソニーファンなら目を通しておきたい新書だ。
本書は単に取材対象を時系列で追い、賞賛したものではない。盛田昭夫・井深大という偉大なる創業者から会社を引き継いだ大賀典雄氏の言葉を借りながら、元CEOの出井伸之氏と、さきごろCEO退任を発表したハワード・ストリンガー氏を厳しく断罪する内容になっている。
大賀氏は、ネットビジネスにのみ傾注する出井氏を自分の後継者に選んだことについて、晩年になって「失敗だった」と反省し、「出井くんは社長になってから、どんなソニーらしい製品を世に出したのか」「私は出井氏を(ソニーのトップとして)認めない」とあからさまに口にするまでになった。
次期社長と目されていた久夛良木健氏を道連れに出井氏が取締役を総退陣させた後、CEOに就任したストリンガー氏に対しても、大賀氏は「あなたはもうアメリカに帰りなさい」と辞任を促したという。
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失われたソニーらしさ、ソニースピリット
結局、ストリンガー氏から「あなたこそこの部屋(相談役室)から出て行きなさい」と言い返されて、大賀氏はリタイアに至る。このあたりの大賀氏の言葉は、「いまのソニーは、私たちに『夢』を与えてくれた、ソニースピリットあふれる私たちの知るソニーではない」と言い切る立石氏の憤りと寂しさと重なっている。
しかし、このような憂いは、現役社員たちにも共有されていないようだ。キャリコネには、経営企画部門に勤務する30代の男性社員の書き込みが見られる。
「最近ようやくストリンガーの後任に平井さんが出てきて立て直しが始まっているが、テレビ部門を切らないと言った時点でお先が見えているような気がする。もうどうやっても価格でしか消費者は見てこないんだからそれで勝負できない商品をとっとと捨てて欲しい」
でも、本当に消費者は価格でしか商品を見ていないのだろうか。そういう考えが「ソニーらしさ」や「ソニースピリット」を感じさせる製品を失わせ、結果、会社の競争力を失わせたのではないか。いまの社員たちは何に憧れて、ソニーに入社したのだろう。
井深氏の愛弟子で、開発・製造畑一筋だった大曽根幸三氏は、「ソニースピリット」とは「井深さんの無理難題の産物だ」と述べ、当時を振り返っている。
「新しい製品や技術を考えることは、技術屋には面白いですから、寝ずにでもやっちゃうくらいでしたよ。それでやっと完成しても、(井深氏から)『もうちょっと、音質が良くなるといいんだがな』と言われると、またそれをやるわけです。そして、これでいいだろうと判断した段階で(製品化し)市場へ出すわけです。すると、それを見て『ああ、いかにもソニーらしい』と余所の人は言ってくれる」
井深氏の態度はどことなく、製品の使いやすさとカッコよさにこだわり部下を叱咤したスティーブ・ジョブズを彷彿とさせる。この視点が、大賀氏の口癖だった「ユーザーの琴線に触れる製品でなければ、ダメなんだ」という言葉につながっているわけだ。かつてソニーは、ジョブズの憧れだった。「ものづくりに関心がなく、エレクトロニクス事業も分からない外国人CEO」が辞めたあと、ソニーはどこへ行くのだろう。
*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年2月末現在、45万社、16万6000件の口コミが登録されています。
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