• 大学のキャリアセンターが学生の「ブラック企業入り」を阻止しない理由

     「大学キャリアセンターのぶっちゃけ話 知的現場主義の就職活動」(ソフトバンク新書)の著者は、現役のキャリアセンター職員。沢田健太というのは、ペンネームだそうだ。ぜひ今後も引き続き知られざる内情を暴露し続けていただきたい。

     キャリアセンターとは、就職を控えた学生たちに優良な企業の情報を提供し、就職試験対策をサポートする大学内の機関である。就職氷河期に設立ラッシュとなり、今では各大学の学生集めのための「顔」のひとつとなっている。

     しかし、現場で働く沢田氏によれば、その実態は「居眠り運転」状態だという。例えば、学生が「内定もらえました!」と言って報告に来たとき、その内定先がブラック企業だったら、スタッフはどうするか。

     「優秀な企業」を紹介する使命と、学生の幸せを考えれば、本人が知らない情報を提供してやり、再考を促すべきだろう。しかし実際には、

     「もう他には、就職活動しないの?」

     と念のため確認をするのが関の山で、あとは学生が「もう決めました!」と言えば、あえてそれ以上は深追いしないそうだ。

     確かに一般にブラック企業と呼ばれる会社でも、本人には悪い就職先ではない可能性も残されている。人生、何が幸運かなど誰にも分からない。しかしスタッフが再考を強く求めないのは、そういう理由からではない。

     キャリアセンターの至上命題は「学生の内定率」を上げることである。学生が入社を辞退し、そのまま就職できずにいれば内定率は下がることになってしまう。

     また、たとえ評判の悪い企業であっても「おたくからはもう採りません」と言われると、翌年からの選択肢が狭まり、就職先の紹介に困ることになる。入社後の勤続年数など問題ではない。

     そもそもキャリアセンターのスタッフ自身、期間雇用がほとんど。「あなたが担当してから内定率が下がった」という評価を受けてしまったら、契約更新も危ぶまれてしまう。キャリアセンターが「ブラック企業」をブロックできないのは、そんな構造的な問題があるようだ。

     なぜか「自己分析」にばかり偏るコンサルタントたち

     こういった問題は、キャリアセンターの運営体制全体に根本的な原因があるようだ。キャリアセンターの導入を決める学長や運営を監督する教授たちは企業経験に乏しく、就職活動の実態をきちんと把握し理解していないことが多い。

     そこで運営を頼るのが外部の専門家たちで、多くは元リクルートの社員などが立ち上げたニッチねらいの人事コンサルタント会社である。世間知らずの大学教授たちは、海千山千のコンサルタントの口車に簡単に乗ってしまう。

     彼らは学生に適性検査を受けさせ、「あなたには○○力がある」「あなたは✕✕力だ」というような診断をし、「あなたらしさって何?」「自分の価値観に基づいた仕事を」といった自己分析中心のカリキュラムに時間を割く。星の数ほどある企業の研究よりも手間がかからず、メニューが標準化しやすいからだろうか。

     本来であれば、十分な業界研究のもとに、希望する企業に照準を定め、その企業にとって自分がどう役立つ可能性があるのかを掘り下げて考える必要がある。「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という孫子の兵法というやつである。

     しかしキャリアセンターのアドバイスは、そういう方向には向かわない。逆に誤った「自己分析」に陥らせ、敵に目を向けず己の内にこもらせてしまう。著者によると、企業の人事担当者たちは、そんな研修を受けた学生たちが「筆記試験や面接で不思議な日本語を並べ立てる」ダメっぷりを、嬉々として披露し合うそうだ。いったい何のためのキャリアセンターなのだろうか。

     結局のところ、就活は自分自身が自分の頭で考え、せっせと動きまわるしかないと筆者は指摘する。OBやOGにアポを取って会いに行くのは、入社後の営業活動の準備体操になる。東洋経済の「会社四季報」や「就職四季報」で企業の業績や社員の出身大学などについて調べるのも、営業先調査のようなものだ。

     これからキャリアセンターは、内定を取れない4年生と、早めに企業研究を始める意識の高い3年生の両方を支援するために、ますます忙しくなるという。とはいえ、そこは学生が自分の人生を託せるほど当てになる機関ではないらしい。バカとハサミのように適当な距離を置きながら、うまく使っていくしかなさそうである。

     

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