大企業勤めの弊害――中小では通用しない「スピードの欠如」 2012年5月18日 企業徹底研究 ツイート いちど大企業に勤めた人は、中小企業で働けないといわれている。 日本の大企業の給与や福利厚生は、過剰なくらい手厚い。社会的な信用やブランド、異性にモテるという要素もある。「俺は○○の社員だ」というプライドがアイデンティティになっている人もいるだろう。進んで辞めたいと思えないのも理解できる。 一方で、大企業勤めの人は、意外にも「中小企業では通用しない」という側面もある。何十年もの間、休まず出勤していても、ロクな実務経験がなければ使い物にならないからだ。 大企業と中小企業で、もっとも違うのは「スピード感」だろう。判断や処理のスピードが速ければ多くの仕事をこなせるし、選択肢も増やせる。試行錯誤によって成長の度合いも大きくなる。 ◇ 他企業へ移れば「精神を病む可能性大」? キャリコネに寄せられた口コミには、大企業の「スピードのなさ」を嘆く声があふれている。NECに勤めていた20代後半の男性社員は、この会社で働くことの危険性を次のように説明する。 「大企業病にどっぷりつかっているため、危機感というものがない。(略)この会社から他企業へ移るということは、ほぼ無理に近い気がする。このスピード感に慣れて他企業に行くと、あまりのスピードの違いに精神を病む可能性大だと思う」 日本のエレクトロニクス企業が韓国に惨敗している理由は、いろいろ指摘されているが、根本には「油断」や「おごり」があったと言っていいだろう。 しかし、大企業で働く人の関心事は、「自分の生活」や「処遇」が中心。そこに影響が出るまで、厳しい競争環境に進んで身を置くことはしないだろう。まるで没落貴族のようだ。 三菱重工業の研究開発部門で働く、20代後半の男性社員は、自分の職場の状況を「良くも悪くも仕事が役所的」と表現している。 「一つの報告書を上程するにも、何人ものサインをもらう必要が有り、仕事のスピードを鈍化させている。スピード感のなさに多少イライラする」 しかし「多少イライラ」している程度では、今後も世界的なポジションが下がり続ける一方だ。 この点について、三菱重工業の大宮英明社長は危機感が強く、産経新聞のインタビューに対し、「自前主義を脱却し、スピード感ある経営を進め、高い業績成長を実現させる」と明言している。やはり、重要なのは、何よりも“スピード感”なのだ。 ◇ 働きを引き出さない「大企業の社員」という感覚 日本企業の意思決定の遅さは、「強すぎる現場」と「弱いトップ」が原因だといわれる。しかし、パナソニックで働く30代の男性社員によると、トップダウンの強化だけではスピードアップにつながらないらしい。 「細かい点についてまで幹部社員の判断を仰ぐ。上司判断、事業部長判断、社長判断とプロセスを追うごとに方針がころころ変わる。その度に一からやり直し。判断のプロセスが不明瞭で社員は振り回されることに。そして他社に出遅れてしまう」 各階層でまじめに議論しすぎることが、全体として功を奏していないのかもしれない。かつて「マネシタ電器」と揶揄(やゆ)された同社だが、失敗でもいいから、とにかく速くやるということがしにくくなってしまったのではないか。的を絞り切れない戦略面での問題もありそうだ。 こうした問題は日本企業だけではない。日本IBMのような外資系企業でも、スピード感の不足に悩んでいる。 「大企業故に、社内プロセスに必要な時間が非常に多い。社内で調整が必要な関係者も非常に多岐にわたり、内部調整をしている間にビジネスチャンスを逃している(略)顧客の求めるスピード感にあわせられない」(20代後半の男性社員 ) 「大企業の社員」というステイタスに甘んじていると、グローバルな競争にはついていけない。最後にKDDIに勤務していた20代前半の女性派遣社員の口コミを紹介しよう。この女性社員は、このあたりを驚くほど鋭く見抜いている。 「『自分は大企業の社員である』という感覚だけがあって、必死に働く姿が皆無と言っていいほど無かった。(略)大企業病に罹ったままでいると、海外の企業に買収されたりなど、いつかとんでもないことになる」 【その他の企業徹底研究の記事はこちら】 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年4月末現在、45万社、17万件の口コミが登録されています。
大企業勤めの弊害――中小では通用しない「スピードの欠如」
いちど大企業に勤めた人は、中小企業で働けないといわれている。
日本の大企業の給与や福利厚生は、過剰なくらい手厚い。社会的な信用やブランド、異性にモテるという要素もある。「俺は○○の社員だ」というプライドがアイデンティティになっている人もいるだろう。進んで辞めたいと思えないのも理解できる。
一方で、大企業勤めの人は、意外にも「中小企業では通用しない」という側面もある。何十年もの間、休まず出勤していても、ロクな実務経験がなければ使い物にならないからだ。
大企業と中小企業で、もっとも違うのは「スピード感」だろう。判断や処理のスピードが速ければ多くの仕事をこなせるし、選択肢も増やせる。試行錯誤によって成長の度合いも大きくなる。
◇
他企業へ移れば「精神を病む可能性大」?
キャリコネに寄せられた口コミには、大企業の「スピードのなさ」を嘆く声があふれている。NECに勤めていた20代後半の男性社員は、この会社で働くことの危険性を次のように説明する。
「大企業病にどっぷりつかっているため、危機感というものがない。(略)この会社から他企業へ移るということは、ほぼ無理に近い気がする。このスピード感に慣れて他企業に行くと、あまりのスピードの違いに精神を病む可能性大だと思う」
日本のエレクトロニクス企業が韓国に惨敗している理由は、いろいろ指摘されているが、根本には「油断」や「おごり」があったと言っていいだろう。
しかし、大企業で働く人の関心事は、「自分の生活」や「処遇」が中心。そこに影響が出るまで、厳しい競争環境に進んで身を置くことはしないだろう。まるで没落貴族のようだ。
三菱重工業の研究開発部門で働く、20代後半の男性社員は、自分の職場の状況を「良くも悪くも仕事が役所的」と表現している。
「一つの報告書を上程するにも、何人ものサインをもらう必要が有り、仕事のスピードを鈍化させている。スピード感のなさに多少イライラする」
しかし「多少イライラ」している程度では、今後も世界的なポジションが下がり続ける一方だ。
この点について、三菱重工業の大宮英明社長は危機感が強く、産経新聞のインタビューに対し、「自前主義を脱却し、スピード感ある経営を進め、高い業績成長を実現させる」と明言している。やはり、重要なのは、何よりも“スピード感”なのだ。
◇
働きを引き出さない「大企業の社員」という感覚
日本企業の意思決定の遅さは、「強すぎる現場」と「弱いトップ」が原因だといわれる。しかし、パナソニックで働く30代の男性社員によると、トップダウンの強化だけではスピードアップにつながらないらしい。
「細かい点についてまで幹部社員の判断を仰ぐ。上司判断、事業部長判断、社長判断とプロセスを追うごとに方針がころころ変わる。その度に一からやり直し。判断のプロセスが不明瞭で社員は振り回されることに。そして他社に出遅れてしまう」
各階層でまじめに議論しすぎることが、全体として功を奏していないのかもしれない。かつて「マネシタ電器」と揶揄(やゆ)された同社だが、失敗でもいいから、とにかく速くやるということがしにくくなってしまったのではないか。的を絞り切れない戦略面での問題もありそうだ。
こうした問題は日本企業だけではない。日本IBMのような外資系企業でも、スピード感の不足に悩んでいる。
「大企業故に、社内プロセスに必要な時間が非常に多い。社内で調整が必要な関係者も非常に多岐にわたり、内部調整をしている間にビジネスチャンスを逃している(略)顧客の求めるスピード感にあわせられない」(20代後半の男性社員 )
「大企業の社員」というステイタスに甘んじていると、グローバルな競争にはついていけない。最後にKDDIに勤務していた20代前半の女性派遣社員の口コミを紹介しよう。この女性社員は、このあたりを驚くほど鋭く見抜いている。
「『自分は大企業の社員である』という感覚だけがあって、必死に働く姿が皆無と言っていいほど無かった。(略)大企業病に罹ったままでいると、海外の企業に買収されたりなど、いつかとんでもないことになる」
【その他の企業徹底研究の記事はこちら】
*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年4月末現在、45万社、17万件の口コミが登録されています。