日本人はいつまで「長時間労働」の我慢比べをするのか? 2012年6月1日 企業徹底研究 ツイート 数年前、労働法の改正論議の中で、「ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)」という制度の創設が話題となった。そのときはマスコミから「過労死促進法」などと激しい攻撃を受け、結局は法案には盛り込まれなかった。 一方で、現行の労働基準法は、工業化時代のブルーカラーの時給労働者を想定しており、ホワイトカラーの頭脳労働の労務管理にそぐわないということは、だいぶ前から指摘されているのも事実である。 ◇ 「和」の文化が「自由な働き方」を妨げる WEの考え方は、「成果=労働時間」ではない労働者を労働基準法の適用対象から外し、勤務時間や働き方に自由な裁量を与えることで、有能な人材の能力を十分に発揮させるというものだ。 六本木に行くと、明るいうちから外資系金融のトレーダーらしき数人が和やかにビールを飲んでいる姿を見かける。あれが働き方のひとつのイメージだ。トレーダーを時間で拘束しても、成果が上がるわけがない。 とはいえ、現状の日本でWEを導入しても、こんな光景を見ることはできないだろう。日本には「和」の文化があり、他の社員が働いているのに自分だけが退社するのは、「思いやりに欠ける」と批判されるからだ。重要なのは成果よりも忍耐であり、その象徴である「拘束時間の長さ」が評価される。 こんな文化にWEを導入したところで、制度の趣旨が生かされることは難しい。明るいうちから飲みに行くどころか、逆に労基法のブレーキが利かないサービス残業の暴走が横行するだけ、という批判にも説得力がある。 「平社員は残業禁止とし定時で帰宅させ、残りの業務をマネージャーと裁量労働制を適用している主任(1日1時間の見なし残業制度)が引き継いで行うという馬鹿げた規制が出されたこともある。裁量労働と言っても、朝8:30に職場単位で朝礼を行うことが推奨されており、実質8:30に出社することを強く求められている」(NEC、30代後半の男性社員) 日本の大手企業の「裁量労働制」とは、人並み以上に働いても「月の残業代は30時間分までしか出ない」という意味でしかない。それでいて成果より労働時間で評価されるのだから、どこまで我慢比べが好きなのかと呆れるばかりだ。 「残業時間に個人差があるためか、労働時間が少ないと結果によらず低い評価になりがちのようである。労働時間、努力ではなく仕事内容で勝負したい人にとっては、評価基準が納得できないケースが見受けられた」(伊藤忠テクノソリューションズ、30代後半、男性) ◇ 明るいうちにビールを飲んで、何が悪いのか それでは、各企業に「労働基準法を守れ」「残業時間分の残業代を払え」とプレッシャーをかけたところで、労働者は幸せになれるだろうか。 とてもそうは思えない。企業だって無い袖は振れないし、「拘束時間=評価」を変えなければ超長時間労働から逃れられないからだ。 サービス残業をなくすためには、逆説的かもしれないが、労働時間よりも成果を重点的に評価するしくみや文化に変えるしかない。それによって「和」の文化と対立する行動様式が推奨されることもあるだろう。 例えば、在宅勤務をする中堅社員が、ある日は徹夜で働き、ある日は半日でオフにしてリフレッシュに出かける。あるいは、自分のノルマを終えた若手グループが、先輩たちを尻目に「お先に失礼します」と退社して、お天道さまの高いうちからビールを飲みはじめる。 こういう働き方を許容しなければ、高度な知的労働の生産性は上がらないのである。労働時間単位の成果を格段に上げることしか、ホワイトカラーが救われる道はない。 最近「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイが、昼休みのない1日6時間勤務を導入したり、社内会議の資料づくりにパワーポイントを使うのをやめたのも、まさに、この「我慢比べ」を避ける取り組みである。 その一方でホワイトカラーの中でも、事務処理など知的生産性の低い仕事の単価は下がり、一部は海外に流れていく。それでも全員で我慢比べをしていた時代より、全体の生産性は上がるはずだ。 「労働基準法を順守しろ!」「労働者を守る規制を強化せよ!」と叫ぶことで、結局は生産性の低い働き方を温存させ、社会のイノベーションを牽引(けんいん)する知的労働者の足を引っ張ることのないようにしたいものだ。 【その他の企業徹底研究の記事はこちら】 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年5月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。
日本人はいつまで「長時間労働」の我慢比べをするのか?
数年前、労働法の改正論議の中で、「ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)」という制度の創設が話題となった。そのときはマスコミから「過労死促進法」などと激しい攻撃を受け、結局は法案には盛り込まれなかった。
一方で、現行の労働基準法は、工業化時代のブルーカラーの時給労働者を想定しており、ホワイトカラーの頭脳労働の労務管理にそぐわないということは、だいぶ前から指摘されているのも事実である。
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「和」の文化が「自由な働き方」を妨げる
WEの考え方は、「成果=労働時間」ではない労働者を労働基準法の適用対象から外し、勤務時間や働き方に自由な裁量を与えることで、有能な人材の能力を十分に発揮させるというものだ。
六本木に行くと、明るいうちから外資系金融のトレーダーらしき数人が和やかにビールを飲んでいる姿を見かける。あれが働き方のひとつのイメージだ。トレーダーを時間で拘束しても、成果が上がるわけがない。
とはいえ、現状の日本でWEを導入しても、こんな光景を見ることはできないだろう。日本には「和」の文化があり、他の社員が働いているのに自分だけが退社するのは、「思いやりに欠ける」と批判されるからだ。重要なのは成果よりも忍耐であり、その象徴である「拘束時間の長さ」が評価される。
こんな文化にWEを導入したところで、制度の趣旨が生かされることは難しい。明るいうちから飲みに行くどころか、逆に労基法のブレーキが利かないサービス残業の暴走が横行するだけ、という批判にも説得力がある。
「平社員は残業禁止とし定時で帰宅させ、残りの業務をマネージャーと裁量労働制を適用している主任(1日1時間の見なし残業制度)が引き継いで行うという馬鹿げた規制が出されたこともある。裁量労働と言っても、朝8:30に職場単位で朝礼を行うことが推奨されており、実質8:30に出社することを強く求められている」(NEC、30代後半の男性社員)
日本の大手企業の「裁量労働制」とは、人並み以上に働いても「月の残業代は30時間分までしか出ない」という意味でしかない。それでいて成果より労働時間で評価されるのだから、どこまで我慢比べが好きなのかと呆れるばかりだ。
「残業時間に個人差があるためか、労働時間が少ないと結果によらず低い評価になりがちのようである。労働時間、努力ではなく仕事内容で勝負したい人にとっては、評価基準が納得できないケースが見受けられた」(伊藤忠テクノソリューションズ、30代後半、男性)
◇
明るいうちにビールを飲んで、何が悪いのか
それでは、各企業に「労働基準法を守れ」「残業時間分の残業代を払え」とプレッシャーをかけたところで、労働者は幸せになれるだろうか。
とてもそうは思えない。企業だって無い袖は振れないし、「拘束時間=評価」を変えなければ超長時間労働から逃れられないからだ。
サービス残業をなくすためには、逆説的かもしれないが、労働時間よりも成果を重点的に評価するしくみや文化に変えるしかない。それによって「和」の文化と対立する行動様式が推奨されることもあるだろう。
例えば、在宅勤務をする中堅社員が、ある日は徹夜で働き、ある日は半日でオフにしてリフレッシュに出かける。あるいは、自分のノルマを終えた若手グループが、先輩たちを尻目に「お先に失礼します」と退社して、お天道さまの高いうちからビールを飲みはじめる。
こういう働き方を許容しなければ、高度な知的労働の生産性は上がらないのである。労働時間単位の成果を格段に上げることしか、ホワイトカラーが救われる道はない。
最近「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイが、昼休みのない1日6時間勤務を導入したり、社内会議の資料づくりにパワーポイントを使うのをやめたのも、まさに、この「我慢比べ」を避ける取り組みである。
その一方でホワイトカラーの中でも、事務処理など知的生産性の低い仕事の単価は下がり、一部は海外に流れていく。それでも全員で我慢比べをしていた時代より、全体の生産性は上がるはずだ。
「労働基準法を順守しろ!」「労働者を守る規制を強化せよ!」と叫ぶことで、結局は生産性の低い働き方を温存させ、社会のイノベーションを牽引(けんいん)する知的労働者の足を引っ張ることのないようにしたいものだ。
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*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年5月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。