少子化でも好調な保育サービス 成長しても決して良くない職場環境 2012年6月22日 企業徹底研究 ツイート 保育所、託児所などの「保育サービス」は、少子化で市場が縮小するどころか、最近の10年間は右肩上がりの拡大を続けている。 矢野経済研究所によると、成長の要因は「経済環境の悪化を背景とした働く母親の増加」「核家族化の進行」に加え、「自治体の財政難で認可保育所の民営化がハイスピードで進行していること」があげられるという。 具体的には、「子どもを預けて母親が働きに出たい」というニーズが高まったことに加えて、公立保育所の民営化、民間委託の動きが活発化した。 また、国も自治体も、「男女共同参画社会の実現」「少子化対策の子育て支援」「保育所待機児童の解消」といった誰もが賛成する、かけ声のもとで、規制緩和を実施。保育サービス事業への参入障壁を下げ、保育所の開設や保育士の確保・育成に協力したり、認可外保育所でも一定の条件を満たすと補助金や助成金がつくようにした。 かつて、認可保育所は公立か社会福祉法人が運営するものしかなかった。そのため、民間の認可外保育所は母親たちの「無認可は質が悪い」「危ない」といった偏見、「保育料が高すぎる」といった不満がつきまとった。 それが2000年の規制緩和で民間企業が開設した保育所でも認可を受けられるようになった。また、国の基準を満たせない認可外保育所でも認可保育所に準ずる扱いを受けられる自治体も出てきた。 例えば、待機児童の問題が深刻な東京都独自の「認証保育所」制度は、保育料を安く設定できるように東京都と特別区から公的補助まで出ている。似たような制度は横浜市、川崎市、仙台市、浜松市などでも実施されている。 そこまで追い風に助けられたら、成長しないほうがおかしい。「今こそビジネスチャンスだ」と異業種から参入も相次ぎ、業界のイメージも変わってきた。中には上場する企業も出ている。成長する保育サービス業界や手掛ける会社について、キャリコネの口コミから追った。 ◇ 「子どもが好き」なだけではすり切れる待遇 まず、保育サービス業界の売上高ランキングを見てみよう。1位は保育専業初の上場企業。3位は学習塾大手、明光コーポレーションが資本参加している。5位はベビー・育児用品メーカー、ピジョンの子会社で、6位は引っ越し業の大手、アートコーポレーションの子会社である。 民間の保育の現場は認可保育所、認可外保育所、公立保育園の民間委託、企業内託児所など、さまざまだが、共通しているのは、職場は資格を持った保育士と、事務などその他のスタッフで構成されていることだ。 保育サービス業界は「激務」で「低賃金」と一般的にはいわれている。成長業種となった今も待遇はそれほど改善されていないようだ。それは各社の口コミからうかがえる。 業界最大手の上場企業でランキングトップのJPホールディングスでは、待遇の悪さに見切りをつけて質の良い社員から辞めていくという。 「三年勤めれば長い方という現実。社員を大切にしているとは到底感じられない。保育園の運営も新園を作りすぎて社員が足りず、パート、派遣に頼りきっており、数少ない社員に膨大な仕事量が課せられる」(20代前半の女性社員、年収260万円) こうした傾向は2位以下の企業でも変わらないようだ。 「勤務時間が長く、休日も少ない。一人ひとり、限界まで仕事を抱えているため、なかなか休むことが難しい。また、一つ一つの仕事に対し、求めるレベルが非常に高く、中途半端な気持ちでは長続きしない」(こどもの森の30代前半の男性社員、年収400万円) 「ほぼ一日12時間労働。ですが給料は手取り15万~23万。正直気持ちが強い方でないと続かないと思います」(サクセスアカデミーの20代後半の女性社員、年収240万円) 「保育士自体が給料が低い職種というのもあるが、それでもかなり低いと思う。ボーナスがほとんどないといっても過言でなく、スタッフのランクによっては初回が2万・・・ということも。男性スタッフもいるが、生活するのは無理!! 仕事は大変なのにこの給料はいまどきないのでは・・・??」(ポピンズコーポレーションの30代後半の女性社員、年収340万円) 一方、経営陣に目を向けると、成長業種の成長企業にありがちな社風が「ワンマン」という会社もある。 「社長や上司の指示を順々に受け止めるイエスマン的な人が好まれ、能力や成果ではなく、上司に従順な人が出世する社風。ただし社内会議で社長に事ある毎に罵倒される覚悟は必要。少しでも異議や反論を唱えると圧力が掛かり退職に追いやられるので注意が必要」(ポピンズコーポレーションの50代前半の男性社員) 子どもを相手に仕事をする保育サービス会社。しかし、その社内では子どもには見せたくないシーンが繰りひろげられているようだ。 ◇ 「女の園」だからこその苦労もメリットも 保育士にとって保護者対策は、いつも頭を悩ませる問題だ。いわゆる「モンスターペアレンツ」とまでいかなくても、うるさい親は仕事のストレスを倍加させる。ポピンズコーポレーションの20代後半の女性契約社員が言う。 「子どもの為というよりは保護者の為に保育している感が強いところでした。社長自らが『保育はサービス業』とうたっているくらいですから。正直、お金を頂ければ多少の保護者の我がままも聞くような感じはあったし。それに振り回されることも少なくない」 職場は、最近は保育士になる男性も増えているものの、まだまだ「女の園」。だからこそ、その辛さも聞こえてくる。 「女性が多い職場なので、精神的に体調を崩してしまった時期がありました」(サクセスアカデミーの20代後半の女性社員) 「正当に評価されていると思う部分もあるが、私の同僚は所属長に嫌われてかなりの低評価で憤慨していたけど…。女の職場ですからね」(ポピンズコーポレーションの20代後半の女性契約社員) しかし、こうした職場環境は裏を返せば、保育士は男女に関係なく管理職に昇進できることを意味している。待遇を比べると大違いだが、こうした点は看護師の世界と共通しているといえるだろう。 ◇ 保育士は男女共同参画社会の陰の担い手 保育所の仕事は、待遇もそれ以外の部分も「子どもが好き」なだけではとてもやっていけそうにない。 だが、辛い時に保育所の子どもたちのかわいいしぐさに慰められたり、成長を見守れるのが、この仕事のやりがいになっているのかもしれない。サクセスアカデミーの20代後半の女性社員が言う。 「五歳児さんの真似を必死にする二歳児や、一歳児の世話を見る三歳児などかわいらしい場面が沢山見られます」 また、子育て支援がこれだけクローズアップされて、社会から大いに期待されている分、よりやりがいを強く感じている人もいる。 「社会から必要とされている福祉の仕事なので、仕事にやりがいを持って前向きに働くことができる」(こどもの森の30代前半の男性社員) 出産後、女性が社会の中でキャリアを積んでいくことができたり、外で働いて家計を支えることができるのも、民間の保育サービス企業の存在が、かなり貢献している。それにかかわり、子どもたちと毎日、接している保育士は「男女共同参画社会の陰の担い手」と言っても、決してオーバーではないだろう。 ◇ 保育所はビジネスライクにやれる事業なのか 最近、保育サービス業界では異業種参入が目立つようになった。その企業の業種も多彩だ。 例えば、幼児教育の出版社や学習塾や育児用品メーカー。こうした会社は「子どもつながり」でわかりやすい。 しかし、今では引っ越し業や英会話学校、スポーツクラブまで参入。介護サービス事業と兼営している会社も結構ある。さらに、「駅ナカ保育所」を展開する不動産会社や鉄道会社も乗り出している。だが、こうした企業になると、立地の利便性と保有資産の有効活用というビジネスライクな理由しか見いだせない。 新規参入組にしても、既存の事業者にしても、小売りや外食のチェーンオペレーションのような仕組みを持ち込み、ビジネス面を追求することは危険だ。 例えば、生産効率を高めて投下資本を高速回転し、店舗ならぬ保育所ネットワークを拡大。シェア競争に勝つために、保育士をかき集めて低賃金でこき使い、まるで使い捨て同然のことをやったとしよう。 その結果は、キャリコネで会社を非難する口コミの山を築くだけになるだろう。 子どもは、大人の社会の細かい部分も結構よく見ている。保育所の物陰で疲れた顔、深刻な顔を見せる保育士が入っては辞め、入っては辞めを繰り返していくのを見ていると、特に女の子は「大きくなっても保育士にはなりたくない」と思うに違いない。それで、いいのだろうか。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年5月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。
少子化でも好調な保育サービス 成長しても決して良くない職場環境
保育所、託児所などの「保育サービス」は、少子化で市場が縮小するどころか、最近の10年間は右肩上がりの拡大を続けている。
矢野経済研究所によると、成長の要因は「経済環境の悪化を背景とした働く母親の増加」「核家族化の進行」に加え、「自治体の財政難で認可保育所の民営化がハイスピードで進行していること」があげられるという。
具体的には、「子どもを預けて母親が働きに出たい」というニーズが高まったことに加えて、公立保育所の民営化、民間委託の動きが活発化した。
また、国も自治体も、「男女共同参画社会の実現」「少子化対策の子育て支援」「保育所待機児童の解消」といった誰もが賛成する、かけ声のもとで、規制緩和を実施。保育サービス事業への参入障壁を下げ、保育所の開設や保育士の確保・育成に協力したり、認可外保育所でも一定の条件を満たすと補助金や助成金がつくようにした。
かつて、認可保育所は公立か社会福祉法人が運営するものしかなかった。そのため、民間の認可外保育所は母親たちの「無認可は質が悪い」「危ない」といった偏見、「保育料が高すぎる」といった不満がつきまとった。
それが2000年の規制緩和で民間企業が開設した保育所でも認可を受けられるようになった。また、国の基準を満たせない認可外保育所でも認可保育所に準ずる扱いを受けられる自治体も出てきた。
例えば、待機児童の問題が深刻な東京都独自の「認証保育所」制度は、保育料を安く設定できるように東京都と特別区から公的補助まで出ている。似たような制度は横浜市、川崎市、仙台市、浜松市などでも実施されている。
そこまで追い風に助けられたら、成長しないほうがおかしい。「今こそビジネスチャンスだ」と異業種から参入も相次ぎ、業界のイメージも変わってきた。中には上場する企業も出ている。成長する保育サービス業界や手掛ける会社について、キャリコネの口コミから追った。
◇
「子どもが好き」なだけではすり切れる待遇
まず、保育サービス業界の売上高ランキングを見てみよう。1位は保育専業初の上場企業。3位は学習塾大手、明光コーポレーションが資本参加している。5位はベビー・育児用品メーカー、ピジョンの子会社で、6位は引っ越し業の大手、アートコーポレーションの子会社である。
民間の保育の現場は認可保育所、認可外保育所、公立保育園の民間委託、企業内託児所など、さまざまだが、共通しているのは、職場は資格を持った保育士と、事務などその他のスタッフで構成されていることだ。
保育サービス業界は「激務」で「低賃金」と一般的にはいわれている。成長業種となった今も待遇はそれほど改善されていないようだ。それは各社の口コミからうかがえる。
業界最大手の上場企業でランキングトップのJPホールディングスでは、待遇の悪さに見切りをつけて質の良い社員から辞めていくという。
「三年勤めれば長い方という現実。社員を大切にしているとは到底感じられない。保育園の運営も新園を作りすぎて社員が足りず、パート、派遣に頼りきっており、数少ない社員に膨大な仕事量が課せられる」(20代前半の女性社員、年収260万円)
こうした傾向は2位以下の企業でも変わらないようだ。
「勤務時間が長く、休日も少ない。一人ひとり、限界まで仕事を抱えているため、なかなか休むことが難しい。また、一つ一つの仕事に対し、求めるレベルが非常に高く、中途半端な気持ちでは長続きしない」(こどもの森の30代前半の男性社員、年収400万円)
「ほぼ一日12時間労働。ですが給料は手取り15万~23万。正直気持ちが強い方でないと続かないと思います」(サクセスアカデミーの20代後半の女性社員、年収240万円)
「保育士自体が給料が低い職種というのもあるが、それでもかなり低いと思う。ボーナスがほとんどないといっても過言でなく、スタッフのランクによっては初回が2万・・・ということも。男性スタッフもいるが、生活するのは無理!! 仕事は大変なのにこの給料はいまどきないのでは・・・??」(ポピンズコーポレーションの30代後半の女性社員、年収340万円)
一方、経営陣に目を向けると、成長業種の成長企業にありがちな社風が「ワンマン」という会社もある。
「社長や上司の指示を順々に受け止めるイエスマン的な人が好まれ、能力や成果ではなく、上司に従順な人が出世する社風。ただし社内会議で社長に事ある毎に罵倒される覚悟は必要。少しでも異議や反論を唱えると圧力が掛かり退職に追いやられるので注意が必要」(ポピンズコーポレーションの50代前半の男性社員)
子どもを相手に仕事をする保育サービス会社。しかし、その社内では子どもには見せたくないシーンが繰りひろげられているようだ。
◇
「女の園」だからこその苦労もメリットも
保育士にとって保護者対策は、いつも頭を悩ませる問題だ。いわゆる「モンスターペアレンツ」とまでいかなくても、うるさい親は仕事のストレスを倍加させる。ポピンズコーポレーションの20代後半の女性契約社員が言う。
「子どもの為というよりは保護者の為に保育している感が強いところでした。社長自らが『保育はサービス業』とうたっているくらいですから。正直、お金を頂ければ多少の保護者の我がままも聞くような感じはあったし。それに振り回されることも少なくない」
職場は、最近は保育士になる男性も増えているものの、まだまだ「女の園」。だからこそ、その辛さも聞こえてくる。
「女性が多い職場なので、精神的に体調を崩してしまった時期がありました」(サクセスアカデミーの20代後半の女性社員)
「正当に評価されていると思う部分もあるが、私の同僚は所属長に嫌われてかなりの低評価で憤慨していたけど…。女の職場ですからね」(ポピンズコーポレーションの20代後半の女性契約社員)
しかし、こうした職場環境は裏を返せば、保育士は男女に関係なく管理職に昇進できることを意味している。待遇を比べると大違いだが、こうした点は看護師の世界と共通しているといえるだろう。
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保育士は男女共同参画社会の陰の担い手
保育所の仕事は、待遇もそれ以外の部分も「子どもが好き」なだけではとてもやっていけそうにない。
だが、辛い時に保育所の子どもたちのかわいいしぐさに慰められたり、成長を見守れるのが、この仕事のやりがいになっているのかもしれない。サクセスアカデミーの20代後半の女性社員が言う。
「五歳児さんの真似を必死にする二歳児や、一歳児の世話を見る三歳児などかわいらしい場面が沢山見られます」
また、子育て支援がこれだけクローズアップされて、社会から大いに期待されている分、よりやりがいを強く感じている人もいる。
「社会から必要とされている福祉の仕事なので、仕事にやりがいを持って前向きに働くことができる」(こどもの森の30代前半の男性社員)
出産後、女性が社会の中でキャリアを積んでいくことができたり、外で働いて家計を支えることができるのも、民間の保育サービス企業の存在が、かなり貢献している。それにかかわり、子どもたちと毎日、接している保育士は「男女共同参画社会の陰の担い手」と言っても、決してオーバーではないだろう。
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保育所はビジネスライクにやれる事業なのか
最近、保育サービス業界では異業種参入が目立つようになった。その企業の業種も多彩だ。
例えば、幼児教育の出版社や学習塾や育児用品メーカー。こうした会社は「子どもつながり」でわかりやすい。
しかし、今では引っ越し業や英会話学校、スポーツクラブまで参入。介護サービス事業と兼営している会社も結構ある。さらに、「駅ナカ保育所」を展開する不動産会社や鉄道会社も乗り出している。だが、こうした企業になると、立地の利便性と保有資産の有効活用というビジネスライクな理由しか見いだせない。
新規参入組にしても、既存の事業者にしても、小売りや外食のチェーンオペレーションのような仕組みを持ち込み、ビジネス面を追求することは危険だ。
例えば、生産効率を高めて投下資本を高速回転し、店舗ならぬ保育所ネットワークを拡大。シェア競争に勝つために、保育士をかき集めて低賃金でこき使い、まるで使い捨て同然のことをやったとしよう。
その結果は、キャリコネで会社を非難する口コミの山を築くだけになるだろう。
子どもは、大人の社会の細かい部分も結構よく見ている。保育所の物陰で疲れた顔、深刻な顔を見せる保育士が入っては辞め、入っては辞めを繰り返していくのを見ていると、特に女の子は「大きくなっても保育士にはなりたくない」と思うに違いない。それで、いいのだろうか。
*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年5月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。