• 「オレたちは雑兵」 広告ガリバー、電通を支える営業の働き方とは?

     広告業界のガリバー、電通。2012年3月期の連結決算の売上高は1兆8390億円、純利益は295億円。国内の広告市場では圧倒的なシェアを誇っている。

     電通は、1901年に設立された「日本広告」と、1906年に設立の「日本電報通信社」が前身だ。1907年に両者が合併。広告業とニュース通信業を行っていたが、1936年にニュース通信部門を同盟通信社に譲渡し、広告の専業会社となった。

     この巨大企業を担うのは、全社員の6割を占めるという営業社員だ。では、電通の営業とはどんな仕事なのだろうか。電通で営業として働いていた元社員のAさん(男性、30代)に、その実態について聞いた。


    花形は、テレビ担当

     電通は、テレビ局やラジオ局、新聞社などから、コマーシャル(CM)枠や広告スペースを仕入れて、マージン(15%程度)を乗せ、広告を載せたい企業に売るのが基本的なビジネスモデルだ。

     社内は「局」と呼ばれる単位で組織されている。営業部門は「メディア」と「営業」がメインになるという。「メディア」は、新聞社やテレビ局の広告局の人たちと付き合い、媒体を仕入れる仕事だ。一方、「営業」は広告を出稿する一般企業の宣伝部などを担当する。

     2012年4月の組織変更で東京の営業局は15局体制になった。「営業」では局の下に最小単位の「部」がある。部は、トヨタ自動車などの顧客企業の単位で構成。社内では「佐藤部」「加藤部」など、部長の名前で呼ばれている。

     「営業で花形は在京キー局のテレビ担当」と、Aさんは言う。「若者を中心にテレビ離れが進み、媒体として厳しい面はあるが、それでも社内ではステータスが高い」(Aさん)というのが理由だ。では、テレビを担当する営業はどんな仕事なのだろうか。

     テレビ担当の基本的な仕事は、テレビ局からCM枠を仕入れて、企業などに売ることだ。番組と一体で扱われるCM枠で番組スポンサーのCMを流す「タイム」、テレビやラジオで番組や時間帯の指定なしに放送される「スポット」を扱う。

     テレビ担当は毎週、各局の番組表を確認。特にスポットの枠をチェック。テレビ局の担当と連携し、CMが必ず入るように枠を埋めるようにする。「売れないとACジャパンの広告が放送され、実績が下がることになってしまう」(同)からだ。

     特にテレビ局が番組改編期になる、4月、9月の前後は忙しくなるという。特に「タイム」の枠で、CMを止めるスポンサーがいるため、その情報をいち早く入手。企業を担当する部署の営業と連携して、CMを出稿してくれそうな代わりの企業を探す。「テレビ担当は枠を埋めるのが絶対」(同)なのだ。

     テレビ局に対しては売れない時間帯のCM枠に対して、広告出稿の予算に余裕のあるスポンサーを引っ張ってきて、CMを入れることで「貸しをつくる」(同)こともある。

     その代わりに、ゴールデンタイムと呼ばれる視聴率の高い時間帯のCM枠の融通してもらったり、CM枠の仕入れ単価を下げてもらったりするのだという。「テレビ局、社内と調整・折衝能力が高い人でなければ務まらない」(同)という。


    過剰接待は昔の話

     電通といえば、クライアントと会食や飲みなどの接待攻勢が一般的にはイメージされている。

     「確かに、バブル期には銀座のバーの人たちが、給料日になると、当時、築地にあった本社の下に来て、ツケを回収しに来ることもあって、過剰な接待はあった」とAさんは言う。

     しかし、景気低迷の影響で、「今はあまりない」(同)。もちろん、取引先との接待がなくなったわけではない。しかし、電通でも5000円以上の接待は上長の承認が必要となり、過剰な接待の風潮はなりをひそめているという。

     一方で、今では社内での「接待」が重要になっているという。特にメディアを担当する営業にとっては、テレビ局や新聞社などの取引先よりも、CMを出稿してもらう一般企業を担当する営業との関係づくりが大切だからだ。

     そのために、メディアの営業は、企業担当の営業と常に飲みに行くなどしてコミュニケーションを図るのはもちろん、時には合コンもセッティングする。とにかく「後輩なら面度を見る、先輩なら機嫌を取る」(同)のだそうだ。

     クライアントとの付き合いにしても、社内での関係構築にしても「酒が飲めることは電通の営業には“絶対条件”」とAさんは言う。「社内で部会などがあると一番年下の社員が『一番先にお口を清めさせていただきます』といって一気飲みする」(同)という社内文化があるからだ。


    局長で年収は2000万!

     Aさんによると、電通では、一般社員→代替(チーフ)→担当部長→ライン部長(次長を兼務)→局次長→局長が出世のパターンだという。人事は完全な年功序列で、担当部長からが管理職になる。

     代替は30代後半から40歳、担当部長は40代前半、ライン部長が40代後半で昇格するという。担当部長まではほとんどの社員がなることができるが、ライン部長以上はポストが少ないため競争になるという。

     年収はAさんが在籍時には、入社から30歳くらいまでの一般社員が900万円程度、入社10~12年の社員が1000~1200万程度、担当部長が1500万円程度、ライン部長になると1700~800万円、局長では2000万円程度だったという。

     学閥は早稲田、慶応が圧倒的に強い。最近は東大も増えている。「東大で遺伝子工学を研究してきて『もしもし~』という子供のような電話しかできないような人まで入って来るようなった」(同)という。

     


    中途は正社員までに険しい道のり

     電通の社員数は約6000人。社員構成比率は「正社員、契約社員、派遣社員で6:3:1」(同)。中途採用も行っているが、「新卒入社と明らかな差別がある」とAさんは言う。

     まず、中途の場合は、正社員入社にはならない。基本的には契約社員でスタートする。契約期間は5年まで。正社員になるためには3年目から受験が可能になる正社員登用試験をパスしなければならない。

     ただ、試験は自分が所属する局の局長推薦がなければ受けることができない。そのため、受験資格を得るためのハードルがある。その試験も、3、4、5年目の3回しか受験チャンスはない。

     さらに、「各局の正社員の採用枠はわずか2名。契約社員の5%、20人に一人しか正社員になれない」(同)というかなりの狭き門だ。

     そのため、「大口クライアントで他社とのコンペに勝った、今であればグリーなど、大量の広告出稿をしてもらえるような企業を発掘する優秀な人間だけが受験資格をもらって採用される」(同)。中途入社は最初から厳しい道しかないのだ。


    社内では「貴族」のCRが一番偉い

     営業が一番に力をもつと思われる電通だが、「一番偉いのはCMなどを制作するCR(クリエイティブ)」と、Aさんは言う。

     理由は「良いCMを作ってもらえるから」(同)。CMの制作は外注した方が安く済むが「CRが作るとレベルの違うものができる。そのため、ここぞという企業のCMはCRに作ってもらうことになる」と、Aさんは説明する。

     CRは職種の特性から、職人気質の人が多く、作品へのこだわりも強い。さらに「金額が安かったら(その仕事は)受けない」というスタンスだという。つまり、営業がCRにお願い申し上げてCMを作ってもらう構図なのだ。「そういう意味でCRは『貴族』。営業は『雑兵』」とAさんは言う。

     広告代理店として単体では世界大の売り上げ規模を誇る電通。この巨大広告企業の業績を支えているのは、こうした「雑兵」たちなのだ。

    【その他の企業徹底研究の記事はこちら】

     

     

  • 企業ニュース
    アクセスランキング

    働きやすい企業ランキング

    年間決定実績1,000件以上の求人データベース Agent Navigation
    転職相談で副業