「ゆでガエルの法則」を地で行く電機産業――NEC、ソニー、パイオニア 2012年7月27日 企業徹底研究 ツイート 経営学に「ゆでガエルの法則」という言葉がある。カエルを冷水に入れ徐々に水温を上げていくと、それを知覚できないカエルは、いつの間にかゆであがって死んでしまうエピソードが元になっている。 この言葉は、業績がゆるやかに悪化している企業において、内部で働く人の危機感が高まらず「まだ大丈夫だろう」と油断しているうちに、取り返しのつかない事態に陥る場合を懸念して使われる。 ◇ 「上司の指示はきちんとこなす」けれども… ただし、ウィキペディアにも書かれているように、実際のカエルは温度上昇をきちんと知覚し、激しく逃げようとする。「ゆでガエル」とは、非科学的なたとえ話にすぎない。 とはいえ、この法則を地で行く会社は実際に存在する。「ぬるま湯」の企業風土を抜けきれない日本の電機産業だ。NECの経営企画部門で働く、30代前半の女性社員は、社内の雰囲気をこう評する。 「黙って誰かが仕事をやってくれるのを待つ、自分からは名乗り出ないのが基本的な個人のスタンス。上司からの指示があればきちんと仕事をこなす人が多いが、積極的に変革を好む人は、上位者にも下っ端にも少ない。どちらかというと、ぬるま湯に浸かりたい人が多く感じる」 いかにも学業優秀な人を集めた官僚的な組織の弊害といえるだろう。同じ会社でシステムエンジニアとして働く、20代前半の男性社員も、「同業他社と比較するとぬるま湯的な環境である。企業が存続し続けるなら、ある意味理想的な環境ではある」と言っている。 この男性の言うとおり、「ぬるま湯体質」自体が必ずしも悪いわけではない。もしも国民全体が、ぬるま湯に浸かったように居心地がよいままで長期的にも不安がなければ、好き好んで過酷な競争に励む必要もない。 ただ、産業の発展段階からして、いまがこの国の将来を左右する別れ道であることは確かだ。汗水を垂らせば解決するものではないが、「ぬるま湯」では将来に対する責任が果たせない。 ◇ 「のんびり」→「業績悪化」→「リストラ」の悪循環 ソニーで働く技術職の40代の男性社員は、昨今のマスコミ批判について、反省すべきことや学ぶべきことが多いとするが、社内でそう考えている人は多くないという。 「昔は外から見た印象は、内部よりずっとよかったのだが、最近はすっかり逆転し、内部はぬるま湯で甘い評価で現実をみないで満足し、外から(の批判)は厳しいけれど適切だと思う」 パイオニアで商品開発に携わる30代の男性社員は、自社の雰囲気をこう表す。 「社風はよく言えば仲良し、和気あいあいとしていて、社員同士も非常に仲が良い。ただぬるま湯的なところもあり、のんびりしているうちに業績が悪化、リストラというサイクルを何度も繰り返している」 のんびり→業績悪化→リストラの悪循環とは、まさに「ゆでガエル」そのものだ。海外営業の40代後半の男性社員も「人にやさしい。ぬるま湯というところもあり、お人好し的な温かみがあるように思える」と言う。 パイオニアといえば、ホームAV部門の落ち込みが大きく、黒字回復したものの減収減益傾向を脱することができない。国内のカーナビが健闘しているというが、少子化やクルマ離れなどを考えると安泰な状況とは言えないだろう。 そんな状況で、ぬるま湯的な風土のままでよいのか。もちろん一致団結して事に当たるためには内輪もめをしている場合ではないが、少なくとも和気あいあいでいるのは不安だ。もっとも、この問題はパイオニアに限った話ではない。 【その他の企業徹底研究の記事はこちら】 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年6月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。
「ゆでガエルの法則」を地で行く電機産業――NEC、ソニー、パイオニア
経営学に「ゆでガエルの法則」という言葉がある。カエルを冷水に入れ徐々に水温を上げていくと、それを知覚できないカエルは、いつの間にかゆであがって死んでしまうエピソードが元になっている。
この言葉は、業績がゆるやかに悪化している企業において、内部で働く人の危機感が高まらず「まだ大丈夫だろう」と油断しているうちに、取り返しのつかない事態に陥る場合を懸念して使われる。
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「上司の指示はきちんとこなす」けれども…
ただし、ウィキペディアにも書かれているように、実際のカエルは温度上昇をきちんと知覚し、激しく逃げようとする。「ゆでガエル」とは、非科学的なたとえ話にすぎない。
とはいえ、この法則を地で行く会社は実際に存在する。「ぬるま湯」の企業風土を抜けきれない日本の電機産業だ。NECの経営企画部門で働く、30代前半の女性社員は、社内の雰囲気をこう評する。
「黙って誰かが仕事をやってくれるのを待つ、自分からは名乗り出ないのが基本的な個人のスタンス。上司からの指示があればきちんと仕事をこなす人が多いが、積極的に変革を好む人は、上位者にも下っ端にも少ない。どちらかというと、ぬるま湯に浸かりたい人が多く感じる」
いかにも学業優秀な人を集めた官僚的な組織の弊害といえるだろう。同じ会社でシステムエンジニアとして働く、20代前半の男性社員も、「同業他社と比較するとぬるま湯的な環境である。企業が存続し続けるなら、ある意味理想的な環境ではある」と言っている。
この男性の言うとおり、「ぬるま湯体質」自体が必ずしも悪いわけではない。もしも国民全体が、ぬるま湯に浸かったように居心地がよいままで長期的にも不安がなければ、好き好んで過酷な競争に励む必要もない。
ただ、産業の発展段階からして、いまがこの国の将来を左右する別れ道であることは確かだ。汗水を垂らせば解決するものではないが、「ぬるま湯」では将来に対する責任が果たせない。
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「のんびり」→「業績悪化」→「リストラ」の悪循環
ソニーで働く技術職の40代の男性社員は、昨今のマスコミ批判について、反省すべきことや学ぶべきことが多いとするが、社内でそう考えている人は多くないという。
「昔は外から見た印象は、内部よりずっとよかったのだが、最近はすっかり逆転し、内部はぬるま湯で甘い評価で現実をみないで満足し、外から(の批判)は厳しいけれど適切だと思う」
パイオニアで商品開発に携わる30代の男性社員は、自社の雰囲気をこう表す。
「社風はよく言えば仲良し、和気あいあいとしていて、社員同士も非常に仲が良い。ただぬるま湯的なところもあり、のんびりしているうちに業績が悪化、リストラというサイクルを何度も繰り返している」
のんびり→業績悪化→リストラの悪循環とは、まさに「ゆでガエル」そのものだ。海外営業の40代後半の男性社員も「人にやさしい。ぬるま湯というところもあり、お人好し的な温かみがあるように思える」と言う。
パイオニアといえば、ホームAV部門の落ち込みが大きく、黒字回復したものの減収減益傾向を脱することができない。国内のカーナビが健闘しているというが、少子化やクルマ離れなどを考えると安泰な状況とは言えないだろう。
そんな状況で、ぬるま湯的な風土のままでよいのか。もちろん一致団結して事に当たるためには内輪もめをしている場合ではないが、少なくとも和気あいあいでいるのは不安だ。もっとも、この問題はパイオニアに限った話ではない。
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*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年6月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。