• スマートハウスに沸く住宅業界 経営陣は色めくが社員は無関心

     住宅業界のスマートハウス販売熱が高まっている。

     原発稼働停止をきっかけに広がっている電力供給不安が、電力を自給できる「停電も怖くない家」に消費者の関心を引き付けているのが背景にある。このため、住宅メーカー各社はスマートハウス発売計画を前倒しで発表するなど販売に力を入れている。

     スマートハウスとは住宅用エネルギー管理システム「HEMS(home energy management System)で家電、太陽電池、蓄電池などを一元管理できる住宅を指す。広義にはエコ住宅または、省エネ住宅ともいわれる。

     エコ住宅は、住宅メーカーがこれまでも販売に力を入れてきた。しかし、「地球に優しく健康に良いのも分かるが値段が高い」という一般消費者のマインドから、単独市場として注目されることはほとんどなかった。

     それが全原発稼働停止をきっかけに、単独市場として動き始めたわけだ。

     スマートハウスは、大和ハウスが去年10月に発売した「スマ・エコオリジナル」が業界初といわれている。翌月にトヨタホーム、今年1月にはミサワホームと発売が続き、今年4月はエス・バイ・エル、積水化学など6社が一斉に発売した。

     その後、中堅メーカーや工務店クラスもスマートハウス市場に参入している。また、大手の間ではスマートハウス団地である「スマートシティ」、「スマートタウン」の開発も活発化している。


    業界の騒ぎをよそに社員は目先のノルマで精一杯

     各社が熱を上げるスマートハウスだが、販売のボルテージを上げているのはどうやら経営陣だけのようだ。キャリコネに寄せられた口コミを見ると、社員は目先の販売ノルマに追われている。

     例えば、三井ホームの20代後半の男性社員はこう述べている。

     「ノルマに追われ、売れない月ほど忙しい」

     住宅業界にとっては、期待の製品となるスマートハウスだが、現場の社員にとっては単なる商材の1つに過ぎないのが現状だ。さらに、「経営陣が力を入れるほど、ノルマの積み増しが増えるだけ」という声もある。

     さらに、スマートハウスの販売も業界の騒ぎに影響され、「出遅れるな」という意識の下で、必ずしも長期的な戦略で取り組んでいない場合もありそうだ。例えば、ミサワホームの男性社員(35)は、次のように話している。

     「3年後に会社がこうなっていたいからなどの戦略が似合わない社風で、コロコロと方向性が変わる」

     今年に入り、マラソンの高橋尚子を起用したスマートハウスのテレビCMを展開するエス・バイ・エルも同じようだ。40代前半の男性社員はこう述べる。

     「トップの考えがコロコロ変わり、制度がその度に変わるので、なかなか結果が出しにくい」

     関係者は「スマートハウス騒ぎをしているのは経営者とマスコミだけ。社員は経営者と反対に、スマートハウスの売りにくさに悲鳴を上げている」と指摘している。


    庶民には高嶺の花

     社員の関心が高まらないのは当然だろう。なぜなら、スマートハウスの頭脳であるHEMS対応機器の整備が遅れているからだ。

     整備が遅れている理由は、HEMS自体の標準規格「エコーネット・ライン」が今年の2月に決まったばかりだからだ。

     この整備が完了しなければ、太陽光発電やエネファーム、リチウムイオン電池、そして各種家電による「創エネ、蓄エネ、省エネ」は実現できない。

     そして、これを決めたスマートハウス標準化検討会の工程表では、太陽光発電装置、蓄電池、分電盤、スマートメーター、家電など約80種類あるHEMS対応機器の規格適合の確認作業が終了するのは早くて来年中だ。

     それまではメーカー各社が推奨する機器しかHEMSに接続できない。そのため、「現状では一般流通品は使えず、特注品ばかりになる。購入者にとって住み心地の良いスマートハウスは実質的には高額所得者しか手が出せない」(関係者)。

     さらに現状で一般住宅よりかなり高額なことも販売ではネックになっている。建坪35~40坪の建て売りスマートハウスを、メーカー各社は2500~3300万円で発売している。

     しかし、これはあくまで「標準プラン」の値段。オプションを追加するごとに値段が跳ね上がってゆくのは建売住宅の常識。HEMS対応の各種機器を購入して本当に「停電も怖くない電力自給住宅」にしようとすると、「5000万円は軽く超える」(業界関係者)。

     「営業マンの説明を聞いてその気になり、見積もりを見て夢が覚める見込み客が大半。このままでは時間の経過かと共にスマートハウス熱が冷める」とやきもきしている現場関係者も多い。

     インフラ環境未整備の市場で苦労させられるのは、またも社員だけのようだ。

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