岐路に立つITベンダー NECと富士通 「リストラ」と「人員維持」に潜む課題とは 2012年2月22日 企業徹底研究 ツイート 日経新聞のまとめによると、上場企業の2012年3月期の経常利益は前期比17%減る見通しだ。円高やタイの洪水被害で、製造業を中心に利益が落ち込む。IT業界でも日本を代表するITベンダーのNECと富士通ともに最終損益が赤字になる見通しだ。 NECは、業績悪化を受け、グループ全体で1万人規模の人員削減を行うと発表。2月16日には本社の総務、人事など間接部門と、携帯電話部門(子会社「NECカシオモバイルコミュニケーションズ」と「NEC埼玉」)で早期希望退職者の募集や一時的な時間外手当の圧縮など人件費の抑制策を労働組合に提案した。早期退職は40歳以上の社員が対象で9月末の実施を求めている。 NECは中期経営計画で、2012年度までに売上高4兆円、営業利益率5%の目標を掲げていた。しかし、遠藤信博社長は、2011年度第3四半期の決算発表の席上で「今の実力では不可能」とし、現状の3兆1000億円の売り上げ規模で営業利益率5%に修正した。 一方、富士通の山本社長は2011年度第3四半期の決算で、来期の経営立て直し策について「エンジニアなどの社員を減らすことは全く考えていない。実は、案件を獲得したくとも人員が足りずに獲得できなかったケースもある。業績が厳しい状況なのは、人員を最適配置していなかったことが最大の原因。早急に最適な人員配置を実施することで、案件を増やして売り上げ拡大につなげていく」という方針を示した。 業績が悪化しているなかで、NECが実施する人員削減は、コストダウンで利益率が高めるものの、将来的には人員リソース不足になる危険性をはらんでいる。一方、富士通のように、最適配置によって人員を維持する考えは、案件数が増えれば売り上げ増につながるが、案件が獲得できなければ過剰人員でコスト増に陥る可能性がある。 果たして、2社が業績改善に向け打ち出した施策は十分なのだろうか。ほかに課題はないのか。キャリコネに寄せられた、実際に働く社員の口コミから検証してみよう。 NEC 社員のリストラよりも必要なのは… 「技術力は高いのにマーケット力はゼロ」 NECの社風について嘆くのは、代理店営業の40代前半の女性社員だ。この女性社員は 「リーダーシップを全く感じない。かといって、何を提案しても、全く反応がない。競合が何をしているのか知らず、説明しても聞く耳がない」 と、上層部の無感覚ぶりを、その理由にあげている。 また、40代前半の研究開発を担当する男性は 「事業部ごとの予算達成ばかりが目的になってしまい、目先の利益追求になっている。他の事業部や他の業種を担当する事業部とのヨコの連携を強化して新たなソリューションの創出をしていかなければ」 と指摘しており 「企業の存続が危ういと思う」とまで言いきっている。 ただ、部門間の連携を高め、コミュニケーションを円滑化させるためには職場の人間関係の構築が前提となる。この点について、20代前半の男性社員は 「長引く業績低迷のため、職場の人間関係は年々、悪化しているように思える。同じ部門内でも、上司と部下が飲みに行く機会など職場の交流は減っている」と述べ 「もっと社員同士がコミュニケーションをとる仕掛けが必要だ」 と訴えている。 かつての優良企業、NEC。しかし、2009年に2万人のリストラを実施。今回も1万人の人員削減に踏み切るなど、業績悪化に歯止めがかかっていない。こうした事態に陥った背景には、社員の体質の変化もあるようだ。 「いざとなったら会社の総合力が活かせる会社です。ただし、最近はリスクを恐れるあまり、チャレンジを回避する人が多くなり、魅力がなくなってきました」 と、法人営業を担当する40代前半の男性社員は話している。また 「若手には、テストの点や英語ができるという意味で頭はいいかも知れないが、責任感がなく主体性に欠ける人が多く、中間管理職にしわ寄せがくるという状況」 と述べている。 今回のリストラで若手は除かれるというのが会社側の話だ。人件費から見れば給与の高い中高年が対象となるのは仕方がない面もある。しかし、社員の口コミを見ると、年が若ければ中高年よりも優秀だと一概に決めつける考え方にも疑問が残るといえるだろう。 この男性は、現状に危機感を持っており 「会社を変えていかないといけないと奮闘しているところです」 と健気だ。確かに個々の社員の頑張りは必要だが、「NECの再生」という大きな目標に対して、個人ができることは限られる。 こうした課題を抱えるNEC。その一番の原因について40代前半の男性社員は次のように話している。 「船頭が多すぎる。特に、部門間の壁が高く、事なかれ主義が本社には多い。そのため、調整ごとが多すぎて、仕事が効率的に進まない。意思決定のスピードが鈍り、組織力が発揮できない構造になっていると思います」 さらに 「ミドルマネジメントの問題が指摘されていますが、それより、経営層、トップマネジメントの一層の経営力向上が今後の競争力の鍵になるかと考えています」 と指摘している。 利益確保のためには社員のリストラも必要かもしれない。しかし、その痛みもトップが今後の成長路線を描けていればこそ耐えられる。その能力に疑問を投げかけている、社員からの何とも鋭い意見にNECの経営陣はどう応えていくのだろうか? 富士通 成果主義、人員の最適配置よりもやるべきことは… 一方、富士通はどうだろうか。50代後半の男性プロジェクトマネージャーは仕事の面白みや、やりがいについて 「自分で企画し計画をつくり認められれば比較的好きなことができます。また、情報処理関係はグローバルで先進性があり日々大きく変革されており、平凡かつ同じことを繰り返しやらなくて良い面があります。その意味で、仕事は面白く、やりがいが非常にあります。大変ですがグローバルに活躍出来る機会も多く、色々な国にいけますし、色々な国の人と知り合いになるチャンスも多いです」 と自分の仕事にかなり満足していることがわかる。 富士通と言えば成果主義の導入が話題となったが、社員の評価はどうなのだろうか。30代前半の男性プロジェクトマネージャーは 「新しい人事制度が施行され、累積年数で昇進する仕組みは改善させたいらしい。しかし、累積年数で恩恵を受けた幹部社員も多く、運用上の成果が表れるのは数年かかりそう」 と話している。この男性は、実力のある社員が昇進しやすい環境が作られつつあることに期待を寄せている。 ただ、配属部門によって、給与に差が出る弊害もあるようだ。 「固定給は毎年上昇はするが、成果主義のため同期と給与がだいぶ違うことがある。また私の部署は残業が非常に多く、ない日がないと言ってもよい。しかし、残業代は満額支給されるので、管理職よりも給与が高くなる場合がある。報酬は悪くないが、残業代によって稼いでいる印象があるので、比較的暇なプロジェクトに配属された人間はあまり良い額はもらえないと思う」 と、言うのは30代前半の男性システムエンジニアだ。この男性が言うように残業代が収入の柱になっているのであれば、残業が少なく給与が低くなる部署の社員は不満を持つだろう。能力でなく部署で待遇が決まるとは、何とも皮肉な成果主義だ。 富士通の社員の口コミを見ると、NECと比較して、自社の現状に強い不満や批判は抱いていない人が多いように見受けられた。しかし、山本社長が示した人員活用の点で見るとリスクが潜んでいる。それは次のような社員の話から読み取れる。 「出世はほとんど初期配属の運で決まる。また、システムエンジニアはほとんど常駐なので、上司と会う機会はあまりない。上司と会う機会があり、ゴマをすれるポジションにいる奴が良い仕事を任され、出世する。能力はあまり関係ないというか、部下の能力を測る力は上司に無いことが多い」 こう語るのは、20代後半の男性プロジェクトリーダーだ。 富士通のような大手でもシステムエンジニアは顧客先に張り付き状態になることが少なくない。業務に励んだ結果、上司とのコミュニケーションが減り、出世の道が閉ざされることになれば、社員にとって「最適な人員配置」とは、とても言えないだろう。 今回、社員の口コミから浮かび上がったのは、NECは「トップマネジメントの経営能力不足」、富士通は「社員との対話・一体感の維持」という課題だ。IT業界は海外展開やクラウドをはじめとした新しい技術へ対応などが叫ばれている。激変する経営環境に対して、事業運営・人事での体制整備はもちろん、きめ細かな対応抜きには今後の成長はあり得ない。このことが2社を通じてあらためて分かるだろう。
岐路に立つITベンダー NECと富士通 「リストラ」と「人員維持」に潜む課題とは
日経新聞のまとめによると、上場企業の2012年3月期の経常利益は前期比17%減る見通しだ。円高やタイの洪水被害で、製造業を中心に利益が落ち込む。IT業界でも日本を代表するITベンダーのNECと富士通ともに最終損益が赤字になる見通しだ。
NECは、業績悪化を受け、グループ全体で1万人規模の人員削減を行うと発表。2月16日には本社の総務、人事など間接部門と、携帯電話部門(子会社「NECカシオモバイルコミュニケーションズ」と「NEC埼玉」)で早期希望退職者の募集や一時的な時間外手当の圧縮など人件費の抑制策を労働組合に提案した。早期退職は40歳以上の社員が対象で9月末の実施を求めている。
NECは中期経営計画で、2012年度までに売上高4兆円、営業利益率5%の目標を掲げていた。しかし、遠藤信博社長は、2011年度第3四半期の決算発表の席上で「今の実力では不可能」とし、現状の3兆1000億円の売り上げ規模で営業利益率5%に修正した。
一方、富士通の山本社長は2011年度第3四半期の決算で、来期の経営立て直し策について「エンジニアなどの社員を減らすことは全く考えていない。実は、案件を獲得したくとも人員が足りずに獲得できなかったケースもある。業績が厳しい状況なのは、人員を最適配置していなかったことが最大の原因。早急に最適な人員配置を実施することで、案件を増やして売り上げ拡大につなげていく」という方針を示した。
業績が悪化しているなかで、NECが実施する人員削減は、コストダウンで利益率が高めるものの、将来的には人員リソース不足になる危険性をはらんでいる。一方、富士通のように、最適配置によって人員を維持する考えは、案件数が増えれば売り上げ増につながるが、案件が獲得できなければ過剰人員でコスト増に陥る可能性がある。
果たして、2社が業績改善に向け打ち出した施策は十分なのだろうか。ほかに課題はないのか。キャリコネに寄せられた、実際に働く社員の口コミから検証してみよう。
NEC 社員のリストラよりも必要なのは…
「技術力は高いのにマーケット力はゼロ」
NECの社風について嘆くのは、代理店営業の40代前半の女性社員だ。この女性社員は
「リーダーシップを全く感じない。かといって、何を提案しても、全く反応がない。競合が何をしているのか知らず、説明しても聞く耳がない」
と、上層部の無感覚ぶりを、その理由にあげている。
また、40代前半の研究開発を担当する男性は
「事業部ごとの予算達成ばかりが目的になってしまい、目先の利益追求になっている。他の事業部や他の業種を担当する事業部とのヨコの連携を強化して新たなソリューションの創出をしていかなければ」
と指摘しており
「企業の存続が危ういと思う」とまで言いきっている。
ただ、部門間の連携を高め、コミュニケーションを円滑化させるためには職場の人間関係の構築が前提となる。この点について、20代前半の男性社員は
「長引く業績低迷のため、職場の人間関係は年々、悪化しているように思える。同じ部門内でも、上司と部下が飲みに行く機会など職場の交流は減っている」と述べ
「もっと社員同士がコミュニケーションをとる仕掛けが必要だ」
と訴えている。
かつての優良企業、NEC。しかし、2009年に2万人のリストラを実施。今回も1万人の人員削減に踏み切るなど、業績悪化に歯止めがかかっていない。こうした事態に陥った背景には、社員の体質の変化もあるようだ。
「いざとなったら会社の総合力が活かせる会社です。ただし、最近はリスクを恐れるあまり、チャレンジを回避する人が多くなり、魅力がなくなってきました」
と、法人営業を担当する40代前半の男性社員は話している。また
「若手には、テストの点や英語ができるという意味で頭はいいかも知れないが、責任感がなく主体性に欠ける人が多く、中間管理職にしわ寄せがくるという状況」
と述べている。
今回のリストラで若手は除かれるというのが会社側の話だ。人件費から見れば給与の高い中高年が対象となるのは仕方がない面もある。しかし、社員の口コミを見ると、年が若ければ中高年よりも優秀だと一概に決めつける考え方にも疑問が残るといえるだろう。
この男性は、現状に危機感を持っており
「会社を変えていかないといけないと奮闘しているところです」
と健気だ。確かに個々の社員の頑張りは必要だが、「NECの再生」という大きな目標に対して、個人ができることは限られる。
こうした課題を抱えるNEC。その一番の原因について40代前半の男性社員は次のように話している。
「船頭が多すぎる。特に、部門間の壁が高く、事なかれ主義が本社には多い。そのため、調整ごとが多すぎて、仕事が効率的に進まない。意思決定のスピードが鈍り、組織力が発揮できない構造になっていると思います」
さらに
「ミドルマネジメントの問題が指摘されていますが、それより、経営層、トップマネジメントの一層の経営力向上が今後の競争力の鍵になるかと考えています」
と指摘している。
利益確保のためには社員のリストラも必要かもしれない。しかし、その痛みもトップが今後の成長路線を描けていればこそ耐えられる。その能力に疑問を投げかけている、社員からの何とも鋭い意見にNECの経営陣はどう応えていくのだろうか?
富士通 成果主義、人員の最適配置よりもやるべきことは…
一方、富士通はどうだろうか。50代後半の男性プロジェクトマネージャーは仕事の面白みや、やりがいについて
「自分で企画し計画をつくり認められれば比較的好きなことができます。また、情報処理関係はグローバルで先進性があり日々大きく変革されており、平凡かつ同じことを繰り返しやらなくて良い面があります。その意味で、仕事は面白く、やりがいが非常にあります。大変ですがグローバルに活躍出来る機会も多く、色々な国にいけますし、色々な国の人と知り合いになるチャンスも多いです」
と自分の仕事にかなり満足していることがわかる。
富士通と言えば成果主義の導入が話題となったが、社員の評価はどうなのだろうか。30代前半の男性プロジェクトマネージャーは
「新しい人事制度が施行され、累積年数で昇進する仕組みは改善させたいらしい。しかし、累積年数で恩恵を受けた幹部社員も多く、運用上の成果が表れるのは数年かかりそう」
と話している。この男性は、実力のある社員が昇進しやすい環境が作られつつあることに期待を寄せている。
ただ、配属部門によって、給与に差が出る弊害もあるようだ。
「固定給は毎年上昇はするが、成果主義のため同期と給与がだいぶ違うことがある。また私の部署は残業が非常に多く、ない日がないと言ってもよい。しかし、残業代は満額支給されるので、管理職よりも給与が高くなる場合がある。報酬は悪くないが、残業代によって稼いでいる印象があるので、比較的暇なプロジェクトに配属された人間はあまり良い額はもらえないと思う」
と、言うのは30代前半の男性システムエンジニアだ。この男性が言うように残業代が収入の柱になっているのであれば、残業が少なく給与が低くなる部署の社員は不満を持つだろう。能力でなく部署で待遇が決まるとは、何とも皮肉な成果主義だ。
富士通の社員の口コミを見ると、NECと比較して、自社の現状に強い不満や批判は抱いていない人が多いように見受けられた。しかし、山本社長が示した人員活用の点で見るとリスクが潜んでいる。それは次のような社員の話から読み取れる。
「出世はほとんど初期配属の運で決まる。また、システムエンジニアはほとんど常駐なので、上司と会う機会はあまりない。上司と会う機会があり、ゴマをすれるポジションにいる奴が良い仕事を任され、出世する。能力はあまり関係ないというか、部下の能力を測る力は上司に無いことが多い」
こう語るのは、20代後半の男性プロジェクトリーダーだ。
富士通のような大手でもシステムエンジニアは顧客先に張り付き状態になることが少なくない。業務に励んだ結果、上司とのコミュニケーションが減り、出世の道が閉ざされることになれば、社員にとって「最適な人員配置」とは、とても言えないだろう。
今回、社員の口コミから浮かび上がったのは、NECは「トップマネジメントの経営能力不足」、富士通は「社員との対話・一体感の維持」という課題だ。IT業界は海外展開やクラウドをはじめとした新しい技術へ対応などが叫ばれている。激変する経営環境に対して、事業運営・人事での体制整備はもちろん、きめ細かな対応抜きには今後の成長はあり得ない。このことが2社を通じてあらためて分かるだろう。