ドラッグストア業界 健康づくり貢献企業なのに職場環境は不健康 2013年2月28日 企業徹底研究 ツイート スギ花粉、大気汚染物質、放射能、インフルエンザ、O-157、ノロウイルスに腸管出血性大腸菌。中国から飛来するPM2.5。日本人の健康はさまざまな脅威にさらされている。 そうした今、ドラッグストアが儲けるタネは尽きない。そして、薬品の販売だけでなく、病院の処方箋を受け付ける調剤薬局を兼営したり、日用雑貨の安売りでスーパーやホームセンターやディスカウントショップと張りあったり、美容販売員を置いて化粧品のコーナーを充実させたりと、実にさまざまな顔を持っている。 日本チェーンドラッグストア協会の「2011年度ドラッグストア実態調査」によると、全国のドラッグストアの企業数は525社、総店舗数は1万6815店舗、総売上高は5兆8026億円だった。総売上高(市場規模)は、協会が調査を開始した2000年度から11年連続で右肩上がりの成長。11年では2.18倍になった。 今回は、このドラッグストアについて、キャリコネに寄せられた各社の社員の声を基に、業界を分析していこう。 ◇ 薬剤師以外は他の小売業と変わらぬ報酬水準 ドラッグストア市場は、最近まではマツモトキヨシホールディングス(HD)、サンドラッグ、スギホールディングス(HD)、ツルハホールディングス(HD)、カワチ薬品でシェアの約半分を占め「5強」と呼ばれたが、大手同士の経営統合や大手による中小チェーンの買収が相次ぎ、大きく変動している。 10位までは全て上場企業だ。マツモトキヨシHDは、南関東を地盤に中小チェーンの買収を繰り返して首位に立った。サンドラッグは、東京西部が地盤でディスカウントストアも経営。「スギ薬局」のスギHDは、東海地方が地盤で早くから調剤薬局を併設している。 ココカラファインは、関東の「セイジョー」と関西の「セガミメディックス」の統合にアライドハーツ・ホールディングス(HD)が合流して業界4位に浮上した。ツルハHDは、北海道が地盤で東日本の中小チェーンの買収に積極的だ。コスモス薬品は九州、カワチ薬品は北関東、クリエイトSDとCFSコーポレーションは神奈川県、キリン堂は関西が地盤のチェーンだ。 2009年に薬事法が改正され、薬剤師でなくても「登録販売者」の資格があれば、第二類、第三類の一般用医薬品を店頭で販売できるようになった。そこで調剤薬局の併設、多店舗化を進めているドラッグストアは今、薬剤師の確保に躍起だ。 薬学部の学生の青田買い、同業他社や調剤薬局などからの引き抜きは日常茶飯事。そのため、薬剤師は、かなりの好待遇で、一般社員とは別世界のような報酬体系になっている。 一方で、一般社員は店長を任されても、登録販売者の資格を取っても、大した手当はつかず、一般的な小売業の正社員の年収に多少の上積みがされた程度のようだ。各社の社員の声を聞いてみよう。 「社員は店舗運営と販売がありますが、店舗運営のほうが若干高いですが、仕事量が違います。忙しい店舗に配属になっても、ものすごく暇な店舗に配属になっても、給料の面で大きな差はないです」(サンドラッグ、20代後半の女性社員、年収325万円) 「店長になっても1万くらいしか基本給が上がらない。登録販売者を逃したくないせいか、やっと基本給を上げるように変わるようだが、どれだけ評価されてどれだけ基本給が上がるかは期待できない」(セイジョー、20代後半の女性社員、年収409万円) 「同業種の方たちと比べるとこんなもんかな~という感じです。月々のお給料は低いな~と思いますが、ボーナスは割といいので不満はあまりないです。ボーナスは評価制でがんばればがんばっただけ上がるのでやりがいがあります」(マツモトキヨシ、20代後半の女性社員、年収360万円) 「給料は良い方だと思います、実力があれば早めに店長、マネージャー、スーパーバイザーの可能性もあります。年功序列より実力主義の会社だと思いますので、やりがいはあると思います」(ツルハHD、30代前半の男性社員、年収330万円) ◇ プレッシャー、ノルマ、人間関係…社員の健康をむしばむ現場 「お客様の健康づくりにご奉仕する」というのがドラッグストアだ。しかし、働く社員にとっては、肉体疲労や精神的ストレスまどで、職場はあまり健康的な環境ではないらしい。 例えば、キリン堂、20代後半の男性社員は「健康を売る企業らしいですが、現場で働いている従業員は常に不健康です」と言う。他のチェーンはどうだろうか。 「無理のある目標達成に対するプレッシャー、超体育会系の風土。限界ぎりぎりのところまでやらせて、また回復したらギリギリになるまでこき使う。人間性が失われ、退職する人も少なくありません」(ツルハ、20代後半の男性社員) 「医薬品や健康食品の販売ノルマ(目標)が課せられ、達成できなかった分は社員が買い取るのが当たり前という雰囲気。人員削減のため残業しなければ終わらない作業を与えられている上で、目標達成は至難」(コスモス薬品、20代前半の男性社員) 小売業では一般的に正社員とパート・アルバイトの間にあつれきがあるとしばしば言われるが、ドラッグストアの場合は薬剤師、登録販売者の有資格者、美容コーナーなどの専門職、資格のない一般店員が店舗にいるので、職場の人間関係はより複雑になるようだ。 「パートさんを上手にまとめられないと、店長になることができないでしょう。パートさんはどこもそうでしょうが、いろいろと文句が多いですし、まとめるのは一苦労です」(CFSコーポレーション、20代後半の男性社員) 「会社としてのコミュニケーションが不足している気がします。最近の傾向かもしれませんが、パート・アルバイト含めたスタッフへの適正な(個性に応じた)気遣い、フォローのできる正社員が減った気がします。またその大切さを教える上司もかなり減ったのではと思います」(サンドラッグ、20代後半の男性社員) ドラッグストアは「街の薬屋さん」から急成長を遂げた会社が多い。業界トップのマツモトキヨシHDも千葉県松戸市にあった小さな店が出発点。創業者の故・松本清氏は、千葉県会議長や松戸市長を務め、息子や孫も衆議院議員になった政治家一家だ。 また、この業界は昔から個性の強いワンマン経営者が何人もいることで知られている。では、社員は経営者や会社をどう見ているのだろうか。 「経営は社長がここ最近よく交代していますし、そのつど現場への方針、指示が大幅に変わっています。競合がかなり価格を下げていますので消費者が足を向ける策として改善がされないと厳しいと思います」(マツモトキヨシ、30代前半の男性社員) 「2000年ジャスダック上場時の売り上げの300億円から2009年には1600億になったことからもわかるように、社長のカリスマ性で一気に伸びてきたところもありますが、2010年になってから少し成長に陰りが出てきたかなと思います」(スギHD、30代前半の男性社員) 「ワンマン社長なので、社長に見込まれた、もしくは社長の取り巻き首脳陣に一目置かれた人物でないと出世は見込めない。個人株主に対して異常なまでに気にかけている」(サンドラッグ、30代前半の男性社員) 薬を売る一方で、社内では自分をセールスしなければ出世は望めない。ドラッグストア業界は現場だけではなく、企業体質も不健康ということなのだろうか。 ◇ 専門性の強みを活かし2つの方向に進化 鈍化してきたとはいえ、この10年間で成長を続けてきたドラッグストアは、大きく分けて2つの方向に進んでいる。 1つは「専門業態化」。院外処方せんを受け付ける調剤薬局に進出したり、薬剤師を配置して第一類医薬品の品揃えを増やしたり、美容指導の専門スタッフを置いて化粧品部門を強化するなど、得意な分野を強みとして活かしていく路線だ。 これには、薬剤師の採用、登録販売者の養成、専門スタッフの育成などの投資が必要だが、上手くいけば利益率が高くなるため有望といえる。ツルハHDやココカラファインのように、アジアなど海外の市場に積極的に打って出る戦略もこれに入る。 もう1つは「ディスカウントショップ化」。店舗の大型化や営業時間を延長で、日用雑貨、ペット用品、米や酒、食品などを販売し、ディスカウントショップやホームセンター、食品スーパーに対抗する路線だ。 「薬を買うついでにアレコレ買えて便利です」などアピールして客の呼び込みを図るが、この戦略は、他業態との安売り競争に巻き込まれ利益が出なくなっていく運命をたどりそうだ。 もっとも、得意分野を生かした専門業態化でもライバルは意外に多い。スーパー、コンビニ、家電量販店、ホームセンターなどが登録販売者を配置して第二類、第三類の医薬品販売に進出しているからだ。 また医薬品のネット販売が最高裁で認められたため、パソコンやスマートフォン経由でも手軽に薬が買えるようになる。さらに、アインファーマシーズのように、病院の門前薬局で資本力をつけた調剤薬局チェーンがドラッグストアにも進出してきた。 こうした動きに対抗するには「スケールメリットの追求」も重要な選択肢になるだろう。現在は大手が中小を系列化することが多いが、ドラッグストアと調剤薬局、あるいは食品スーパーといった業種・業態を超えた合併などの業界再編が起こるかもしれない。5年後には業界地図が大きく様変わりしている可能性もある。その時に生き残るのは、どのチェーンなのだろうか。
ドラッグストア業界 健康づくり貢献企業なのに職場環境は不健康
スギ花粉、大気汚染物質、放射能、インフルエンザ、O-157、ノロウイルスに腸管出血性大腸菌。中国から飛来するPM2.5。日本人の健康はさまざまな脅威にさらされている。
そうした今、ドラッグストアが儲けるタネは尽きない。そして、薬品の販売だけでなく、病院の処方箋を受け付ける調剤薬局を兼営したり、日用雑貨の安売りでスーパーやホームセンターやディスカウントショップと張りあったり、美容販売員を置いて化粧品のコーナーを充実させたりと、実にさまざまな顔を持っている。
日本チェーンドラッグストア協会の「2011年度ドラッグストア実態調査」によると、全国のドラッグストアの企業数は525社、総店舗数は1万6815店舗、総売上高は5兆8026億円だった。総売上高(市場規模)は、協会が調査を開始した2000年度から11年連続で右肩上がりの成長。11年では2.18倍になった。
今回は、このドラッグストアについて、キャリコネに寄せられた各社の社員の声を基に、業界を分析していこう。
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薬剤師以外は他の小売業と変わらぬ報酬水準
ドラッグストア市場は、最近まではマツモトキヨシホールディングス(HD)、サンドラッグ、スギホールディングス(HD)、ツルハホールディングス(HD)、カワチ薬品でシェアの約半分を占め「5強」と呼ばれたが、大手同士の経営統合や大手による中小チェーンの買収が相次ぎ、大きく変動している。
10位までは全て上場企業だ。マツモトキヨシHDは、南関東を地盤に中小チェーンの買収を繰り返して首位に立った。サンドラッグは、東京西部が地盤でディスカウントストアも経営。「スギ薬局」のスギHDは、東海地方が地盤で早くから調剤薬局を併設している。
ココカラファインは、関東の「セイジョー」と関西の「セガミメディックス」の統合にアライドハーツ・ホールディングス(HD)が合流して業界4位に浮上した。ツルハHDは、北海道が地盤で東日本の中小チェーンの買収に積極的だ。コスモス薬品は九州、カワチ薬品は北関東、クリエイトSDとCFSコーポレーションは神奈川県、キリン堂は関西が地盤のチェーンだ。
2009年に薬事法が改正され、薬剤師でなくても「登録販売者」の資格があれば、第二類、第三類の一般用医薬品を店頭で販売できるようになった。そこで調剤薬局の併設、多店舗化を進めているドラッグストアは今、薬剤師の確保に躍起だ。
薬学部の学生の青田買い、同業他社や調剤薬局などからの引き抜きは日常茶飯事。そのため、薬剤師は、かなりの好待遇で、一般社員とは別世界のような報酬体系になっている。
一方で、一般社員は店長を任されても、登録販売者の資格を取っても、大した手当はつかず、一般的な小売業の正社員の年収に多少の上積みがされた程度のようだ。各社の社員の声を聞いてみよう。
「社員は店舗運営と販売がありますが、店舗運営のほうが若干高いですが、仕事量が違います。忙しい店舗に配属になっても、ものすごく暇な店舗に配属になっても、給料の面で大きな差はないです」(サンドラッグ、20代後半の女性社員、年収325万円)
「店長になっても1万くらいしか基本給が上がらない。登録販売者を逃したくないせいか、やっと基本給を上げるように変わるようだが、どれだけ評価されてどれだけ基本給が上がるかは期待できない」(セイジョー、20代後半の女性社員、年収409万円)
「同業種の方たちと比べるとこんなもんかな~という感じです。月々のお給料は低いな~と思いますが、ボーナスは割といいので不満はあまりないです。ボーナスは評価制でがんばればがんばっただけ上がるのでやりがいがあります」(マツモトキヨシ、20代後半の女性社員、年収360万円)
「給料は良い方だと思います、実力があれば早めに店長、マネージャー、スーパーバイザーの可能性もあります。年功序列より実力主義の会社だと思いますので、やりがいはあると思います」(ツルハHD、30代前半の男性社員、年収330万円)
◇
プレッシャー、ノルマ、人間関係…社員の健康をむしばむ現場
「お客様の健康づくりにご奉仕する」というのがドラッグストアだ。しかし、働く社員にとっては、肉体疲労や精神的ストレスまどで、職場はあまり健康的な環境ではないらしい。
例えば、キリン堂、20代後半の男性社員は「健康を売る企業らしいですが、現場で働いている従業員は常に不健康です」と言う。他のチェーンはどうだろうか。
「無理のある目標達成に対するプレッシャー、超体育会系の風土。限界ぎりぎりのところまでやらせて、また回復したらギリギリになるまでこき使う。人間性が失われ、退職する人も少なくありません」(ツルハ、20代後半の男性社員)
「医薬品や健康食品の販売ノルマ(目標)が課せられ、達成できなかった分は社員が買い取るのが当たり前という雰囲気。人員削減のため残業しなければ終わらない作業を与えられている上で、目標達成は至難」(コスモス薬品、20代前半の男性社員)
小売業では一般的に正社員とパート・アルバイトの間にあつれきがあるとしばしば言われるが、ドラッグストアの場合は薬剤師、登録販売者の有資格者、美容コーナーなどの専門職、資格のない一般店員が店舗にいるので、職場の人間関係はより複雑になるようだ。
「パートさんを上手にまとめられないと、店長になることができないでしょう。パートさんはどこもそうでしょうが、いろいろと文句が多いですし、まとめるのは一苦労です」(CFSコーポレーション、20代後半の男性社員)
「会社としてのコミュニケーションが不足している気がします。最近の傾向かもしれませんが、パート・アルバイト含めたスタッフへの適正な(個性に応じた)気遣い、フォローのできる正社員が減った気がします。またその大切さを教える上司もかなり減ったのではと思います」(サンドラッグ、20代後半の男性社員)
ドラッグストアは「街の薬屋さん」から急成長を遂げた会社が多い。業界トップのマツモトキヨシHDも千葉県松戸市にあった小さな店が出発点。創業者の故・松本清氏は、千葉県会議長や松戸市長を務め、息子や孫も衆議院議員になった政治家一家だ。
また、この業界は昔から個性の強いワンマン経営者が何人もいることで知られている。では、社員は経営者や会社をどう見ているのだろうか。
「経営は社長がここ最近よく交代していますし、そのつど現場への方針、指示が大幅に変わっています。競合がかなり価格を下げていますので消費者が足を向ける策として改善がされないと厳しいと思います」(マツモトキヨシ、30代前半の男性社員)
「2000年ジャスダック上場時の売り上げの300億円から2009年には1600億になったことからもわかるように、社長のカリスマ性で一気に伸びてきたところもありますが、2010年になってから少し成長に陰りが出てきたかなと思います」(スギHD、30代前半の男性社員)
「ワンマン社長なので、社長に見込まれた、もしくは社長の取り巻き首脳陣に一目置かれた人物でないと出世は見込めない。個人株主に対して異常なまでに気にかけている」(サンドラッグ、30代前半の男性社員)
薬を売る一方で、社内では自分をセールスしなければ出世は望めない。ドラッグストア業界は現場だけではなく、企業体質も不健康ということなのだろうか。
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専門性の強みを活かし2つの方向に進化
鈍化してきたとはいえ、この10年間で成長を続けてきたドラッグストアは、大きく分けて2つの方向に進んでいる。
1つは「専門業態化」。院外処方せんを受け付ける調剤薬局に進出したり、薬剤師を配置して第一類医薬品の品揃えを増やしたり、美容指導の専門スタッフを置いて化粧品部門を強化するなど、得意な分野を強みとして活かしていく路線だ。
これには、薬剤師の採用、登録販売者の養成、専門スタッフの育成などの投資が必要だが、上手くいけば利益率が高くなるため有望といえる。ツルハHDやココカラファインのように、アジアなど海外の市場に積極的に打って出る戦略もこれに入る。
もう1つは「ディスカウントショップ化」。店舗の大型化や営業時間を延長で、日用雑貨、ペット用品、米や酒、食品などを販売し、ディスカウントショップやホームセンター、食品スーパーに対抗する路線だ。
「薬を買うついでにアレコレ買えて便利です」などアピールして客の呼び込みを図るが、この戦略は、他業態との安売り競争に巻き込まれ利益が出なくなっていく運命をたどりそうだ。
もっとも、得意分野を生かした専門業態化でもライバルは意外に多い。スーパー、コンビニ、家電量販店、ホームセンターなどが登録販売者を配置して第二類、第三類の医薬品販売に進出しているからだ。
また医薬品のネット販売が最高裁で認められたため、パソコンやスマートフォン経由でも手軽に薬が買えるようになる。さらに、アインファーマシーズのように、病院の門前薬局で資本力をつけた調剤薬局チェーンがドラッグストアにも進出してきた。
こうした動きに対抗するには「スケールメリットの追求」も重要な選択肢になるだろう。現在は大手が中小を系列化することが多いが、ドラッグストアと調剤薬局、あるいは食品スーパーといった業種・業態を超えた合併などの業界再編が起こるかもしれない。5年後には業界地図が大きく様変わりしている可能性もある。その時に生き残るのは、どのチェーンなのだろうか。