春闘で唯一「満額回答」できないマツダ、中核技術切り売りに不安の声 2013年4月2日 企業徹底研究 ツイート 自動車大手の今春闘は、業績回復を反映してボーナス(一時金)の満額回答が目立った。 単独決算の営業損益が5期ぶりに黒字転換する見通しのトヨタは5カ月プラス30万円、日産は5.5カ月、ホンダは5.9カ月、リコール問題の渦中にある三菱自も4.3カ月と、労働組合の要求通りの回答が相次いだ。だが大手10社中、唯一満額回答できなかったメーカーがある。マツダだ。 ◇ 幹部は「無配続きの株主の手前」というが 労組の要求は昨年と同じ5カ月だったが、4.3カ月で押し切られたしまった。同労組は「結果は不満だが、過去最低だった昨年の3.3カ月より1カ月月上積みした会社の姿勢は評価できる」と、負け惜しみのような声明を発表せざるを得なかった。 マツダは、同社虎の子の低燃費技術「スカイアクティブ」を全面採用した多目的スポーツ車「CX-5」やセダン「アテンザ」の販売が好調。国内工場では休日返上のフル操業が続いている。 円安進行の追い風もあり、13年3月期連結決算も営業利益が450億円(前期は387億円の赤字)、最終利益が260億円(前期は1077億円の赤字)と、共に5期ぶりに黒字転換の見通しだ。 それにもかかわらず、満額回答できなかった理由について、マツダの労務関係役員は「12年3月期で3期連続の無配を続けているのが現状。業績が回復したとは言え、株主の手前満額回答はできなかった」と打ち明けている。しかし業界事情通は「それは苦しい言い訳。原因は他にある」と言う。 過去20年の同社の業績を振り返ると、為替レートが円高に振れると業績が落ち込み、円安に振れると業績が回復する繰り返しだ。根本的な収益構造改革が見られない。目先のリストラや「新型車物真似開発」で乗り切ってきたものの、持続的な収益改善ができない。 それに加えて、中核技術とも言えるスカイアクティブを、他社に切り売りして延命しようという話も出ている。「これでは元々不安定な躯体から、さらに肝心の大黒柱を骨抜きにするようなもの」と内外から批判されている。 ◇ 虎の子の切り売りで信用も地に 同社にとって、独自開発の低燃費技術「スカイアクティブ」は成長の原動力だ。 事実、山内孝社長も昨年、メディアの取材の中で「先進国、新興国を問わず低燃費技術を必要としている。自動車は2020年になっても電気だけで走るのは1割で、9割は内燃機関で走る」と言い、「当社にはスカイアクティブがあるから、GMやクライスラーが潰れる時代でも、この規模の会社でも生き残ることができている」と自慢していた。 ところが、同社はこの虎の子を切り売りする戦略を進めており、業界関係者を唖然とさせている。その事実が明らかになったのは、昨年5月に発表された伊フィアットとの「協業プログラム」。 それによると、スカイアクティブを搭載した同社製2人乗りスポーツカー「ロードスター」次期モデルを、フィアットの「アルフアロメオ」二人乗りスポーツカー向けに、15年からマツダの本社工場で生産すると言うもの。早い話がスカイアクティブのフィアットへのOEM(相手先ブランドによる生産)供給に他ならない。 さらに今年1月に、全国紙がスカイアクティブ搭載の同社製ミニバン「プレマシー」を「日産自動車にOEM供給する」と報道、業界を賑わせた。 こうした報道について、自動車ジャーナリストは「開発投資の早期回収が目的だが、フィアットはマツダからのOEMモデルを北米にも投入し、国際ブランドに育てる計画をしている」と、この戦略が中期的にマツダの存在感を喪失させかねないと指摘している。証券アナリストも「社内に秘蔵すべきオンリーワン技術を切り売りする勘違いのOEM戦略が、市場の信用を損ねている」と厳しい。 これに対して、山内社長の側近は「スカイアクティブ搭載車のOEM供給は双方にとってWin-Winの効果を生む。供給先にとっては商品競争力の強化に繋がるし、当社は生産台数拡大による収益力向上に繋がる」と反論している。 ◇ いまさら「国内営業」を増やして大丈夫なのか このような動きを、社員はどう見ているのか。キャリコネの口コミを見てみよう。 経理部門の男性社員(20代後半)は、スカイアクティブなどの独自技術に対して「マツダらしい画期的な技術」と評価しつつ、「時代は電気自動車なので、スカイアクティブでどこまで戦えるか……」と将来性に不安を感じているという。非現業部門の意見とはいえ、社内の雰囲気が垣間見えるといえるだろうか。 マーケティング部門の男性社員(40代後半)は「経費節減のため原則出張禁止が続いており、現場にいくこともできず、若手はほとんど一日中パソコンを叩いている」という。 研究開発の男性社員(20代後半)は「法規などを最大限ネガティブに捉えた規則が多く窮屈。少しでもグレーなら腰が引ける。法令順守は絶対だと理解しているが、保守的すぎるように感じる」と、大企業病的な社風を嘆く。 海外営業の男性社員(20代後半)は、グローバルに事業展開すべきタイミングなのに、「利益・台数を創出できる海外系の事業には一切人が増えず、需要が伸びることはないであろう広島・山口の地域需要喚起の為の営業人員が大幅に増える」と、人材配置に不満を漏らす。 業界事情通は「13年3月期の業績は良くても、為替レートの振れで業績はいつ悪化するか分からない。山内社長はそれを身に沁みて感じているはず」と満額回答できなかった背景を説明する。今年の春闘は、図らずも同社の脆弱体質を露呈する結果も生んだようだ。
春闘で唯一「満額回答」できないマツダ、中核技術切り売りに不安の声
自動車大手の今春闘は、業績回復を反映してボーナス(一時金)の満額回答が目立った。
単独決算の営業損益が5期ぶりに黒字転換する見通しのトヨタは5カ月プラス30万円、日産は5.5カ月、ホンダは5.9カ月、リコール問題の渦中にある三菱自も4.3カ月と、労働組合の要求通りの回答が相次いだ。だが大手10社中、唯一満額回答できなかったメーカーがある。マツダだ。
◇
幹部は「無配続きの株主の手前」というが
労組の要求は昨年と同じ5カ月だったが、4.3カ月で押し切られたしまった。同労組は「結果は不満だが、過去最低だった昨年の3.3カ月より1カ月月上積みした会社の姿勢は評価できる」と、負け惜しみのような声明を発表せざるを得なかった。
マツダは、同社虎の子の低燃費技術「スカイアクティブ」を全面採用した多目的スポーツ車「CX-5」やセダン「アテンザ」の販売が好調。国内工場では休日返上のフル操業が続いている。
円安進行の追い風もあり、13年3月期連結決算も営業利益が450億円(前期は387億円の赤字)、最終利益が260億円(前期は1077億円の赤字)と、共に5期ぶりに黒字転換の見通しだ。
それにもかかわらず、満額回答できなかった理由について、マツダの労務関係役員は「12年3月期で3期連続の無配を続けているのが現状。業績が回復したとは言え、株主の手前満額回答はできなかった」と打ち明けている。しかし業界事情通は「それは苦しい言い訳。原因は他にある」と言う。
過去20年の同社の業績を振り返ると、為替レートが円高に振れると業績が落ち込み、円安に振れると業績が回復する繰り返しだ。根本的な収益構造改革が見られない。目先のリストラや「新型車物真似開発」で乗り切ってきたものの、持続的な収益改善ができない。
それに加えて、中核技術とも言えるスカイアクティブを、他社に切り売りして延命しようという話も出ている。「これでは元々不安定な躯体から、さらに肝心の大黒柱を骨抜きにするようなもの」と内外から批判されている。
◇
虎の子の切り売りで信用も地に
同社にとって、独自開発の低燃費技術「スカイアクティブ」は成長の原動力だ。
事実、山内孝社長も昨年、メディアの取材の中で「先進国、新興国を問わず低燃費技術を必要としている。自動車は2020年になっても電気だけで走るのは1割で、9割は内燃機関で走る」と言い、「当社にはスカイアクティブがあるから、GMやクライスラーが潰れる時代でも、この規模の会社でも生き残ることができている」と自慢していた。
ところが、同社はこの虎の子を切り売りする戦略を進めており、業界関係者を唖然とさせている。その事実が明らかになったのは、昨年5月に発表された伊フィアットとの「協業プログラム」。
それによると、スカイアクティブを搭載した同社製2人乗りスポーツカー「ロードスター」次期モデルを、フィアットの「アルフアロメオ」二人乗りスポーツカー向けに、15年からマツダの本社工場で生産すると言うもの。早い話がスカイアクティブのフィアットへのOEM(相手先ブランドによる生産)供給に他ならない。
さらに今年1月に、全国紙がスカイアクティブ搭載の同社製ミニバン「プレマシー」を「日産自動車にOEM供給する」と報道、業界を賑わせた。
こうした報道について、自動車ジャーナリストは「開発投資の早期回収が目的だが、フィアットはマツダからのOEMモデルを北米にも投入し、国際ブランドに育てる計画をしている」と、この戦略が中期的にマツダの存在感を喪失させかねないと指摘している。証券アナリストも「社内に秘蔵すべきオンリーワン技術を切り売りする勘違いのOEM戦略が、市場の信用を損ねている」と厳しい。
これに対して、山内社長の側近は「スカイアクティブ搭載車のOEM供給は双方にとってWin-Winの効果を生む。供給先にとっては商品競争力の強化に繋がるし、当社は生産台数拡大による収益力向上に繋がる」と反論している。
◇
いまさら「国内営業」を増やして大丈夫なのか
このような動きを、社員はどう見ているのか。キャリコネの口コミを見てみよう。
経理部門の男性社員(20代後半)は、スカイアクティブなどの独自技術に対して「マツダらしい画期的な技術」と評価しつつ、「時代は電気自動車なので、スカイアクティブでどこまで戦えるか……」と将来性に不安を感じているという。非現業部門の意見とはいえ、社内の雰囲気が垣間見えるといえるだろうか。
マーケティング部門の男性社員(40代後半)は「経費節減のため原則出張禁止が続いており、現場にいくこともできず、若手はほとんど一日中パソコンを叩いている」という。
研究開発の男性社員(20代後半)は「法規などを最大限ネガティブに捉えた規則が多く窮屈。少しでもグレーなら腰が引ける。法令順守は絶対だと理解しているが、保守的すぎるように感じる」と、大企業病的な社風を嘆く。
海外営業の男性社員(20代後半)は、グローバルに事業展開すべきタイミングなのに、「利益・台数を創出できる海外系の事業には一切人が増えず、需要が伸びることはないであろう広島・山口の地域需要喚起の為の営業人員が大幅に増える」と、人材配置に不満を漏らす。
業界事情通は「13年3月期の業績は良くても、為替レートの振れで業績はいつ悪化するか分からない。山内社長はそれを身に沁みて感じているはず」と満額回答できなかった背景を説明する。今年の春闘は、図らずも同社の脆弱体質を露呈する結果も生んだようだ。