イラストレーターが「買い叩かれる」実態 無報酬でも「選り好みできない」 2013年10月26日 企業徹底研究 ツイート 「アンパンマン」の作者として知られるイラストレーター・絵本作家のやなせたかし氏が、94歳で亡くなった。 多くのファンや関係者がその死を悼んだが、その一方でやなせ氏が多くの仕事を「タダ働き」でこなしていたというニュースも話題になった。 「これが、全部、タダ。あっはっは」 「ほぼ日刊イトイ新聞」の対談で、晩年に制作を依頼された約200のご当地キャラのほとんどが「ノーギャラ」だったことを明かしている。 「これが、全部、タダ。あっはっは。ただね、2つぐらいはお金をくれたんだよね」 これを知った人気漫画家の吉田戦車さんが、 「あの人の『タダ働き』に甘えてきた多くの自治体とか組織は恥じろ、と思いますね」 とツイッターでつぶやいたところ、ネット上で大論争に発展したわけだ。吉田さんはその後謝罪しているが、Yahoo!ニュースの意識調査では約8割の人が、吉田さんの発言に「共感できる」と回答している。 確かに近年、イラストの仕事が“買い叩かれ”やすいのは確かなようだ。 雑誌イラストのギャラ「1点2000円」 都内在住のフリーのイラストレーター(20代・女性)は指摘する。 「ある雑誌での話ですが、10センチ四方ほどのカラーイラストで1点2000円という仕事がありました。これはだいたい相場の3分の1から6分の1の価格。初めてお付き合いする雑誌で、描き終わってから後出しジャンケン式に提示されたため、泣く泣くその金額を受け入れました」 事前にギャラの交渉はしたが、「悪いようにはしません」「他の方と同じくらいで」などとぼかされてしまった。仕事が欲しかったので受注はしたが、ギャラを聞いて後悔したと話す。 一般的な商業雑誌の場合、1ページに割り当てられる予算は平均で3万円~5万円ほど。編集者はその中からイラスト料金や原稿料、カメラマンの撮影料などをやりくりするわけだが、さすがにこれは安すぎるだろう。 「ギャラが支払われないまま、編集者に逃げられた」 たくさん数をこなせばいいのでは? と思うかもしれないが、 「1日に描ける量にも限界があるし、そもそも何十件も仕事依頼があるわけではない」 とため息をつく。この女性の場合、イラストレーターだけでは食べていけないため、カフェのアルバイトとの二足わらじの生活を送っている。友人からもこんな話を聞いたそうだ。 「イラストを納品した後で雑誌の廃刊が決まってしまい、ギャラが支払われないまま担当編集者に逃げられたそうです」 長年続く出版不況のあおりで、制作現場の財布のひもはどんどん固くなっている。 10年以上フリーで活動してきた30代の男性イラストレーターも、「現在はプロのイラストレーターにとって不遇の時代」だと語る。ひと昔前はイラストレーターが「希少」で、仕事を依頼する側とイラストレーターとの「個人的なコネクション」が必要だったという。 クライアントは足元を見て、安いギャラを「ふっかける」 「でもいまでは、ネット上にフリーのイラスト素材が大量にある。pixivなどのイラストSNSを通じてアマチュアのイラストレーターに依頼することも可能。『高価なプロの絵よりも、安価なアマの絵』というクライアントは少なくない。この傾向は、特にウェブサイト用のイラストやソーシャルゲーム用のイラストで顕著ですね」 ギャラのいい仕事だけ請け負い、報酬の低い仕事はどんどん切っていけば、クライアントの意識も変わってイラストレーターの立場も上がるのではないか? そんな疑問をぶつけてみたが……。 「名の売れたイラストレーターならともかく、駆け出しのイラストレーターは報酬だけでなく実績がほしい。たとえギャラが安くても『この雑誌で描きました!』という実績があれば、それが認められて大きな仕事につながるかもしれない。だから若手イラストレーターは仕事を選り好みできないし、タチの悪い一部のクライアントは足元を見て安いギャラをふっかけてくる」 2013年4月3日に開かれた政府のクールジャパン推進会議では、ポスターやキャッチコピーの制作に関してクリエイターが無報酬で参加するべきだとも提言された。 国がこんな調子なのだから、企業がイラストレーターを“買い叩く”のも無理はないが、それでは新たな才能は育たない。イラストの道を断念する人も増えてしまうかもしれない。 (最新の記事はこちら)
イラストレーターが「買い叩かれる」実態 無報酬でも「選り好みできない」
「アンパンマン」の作者として知られるイラストレーター・絵本作家のやなせたかし氏が、94歳で亡くなった。
多くのファンや関係者がその死を悼んだが、その一方でやなせ氏が多くの仕事を「タダ働き」でこなしていたというニュースも話題になった。
「これが、全部、タダ。あっはっは」
「ほぼ日刊イトイ新聞」の対談で、晩年に制作を依頼された約200のご当地キャラのほとんどが「ノーギャラ」だったことを明かしている。
これを知った人気漫画家の吉田戦車さんが、
とツイッターでつぶやいたところ、ネット上で大論争に発展したわけだ。吉田さんはその後謝罪しているが、Yahoo!ニュースの意識調査では約8割の人が、吉田さんの発言に「共感できる」と回答している。
確かに近年、イラストの仕事が“買い叩かれ”やすいのは確かなようだ。
雑誌イラストのギャラ「1点2000円」
都内在住のフリーのイラストレーター(20代・女性)は指摘する。
事前にギャラの交渉はしたが、「悪いようにはしません」「他の方と同じくらいで」などとぼかされてしまった。仕事が欲しかったので受注はしたが、ギャラを聞いて後悔したと話す。
一般的な商業雑誌の場合、1ページに割り当てられる予算は平均で3万円~5万円ほど。編集者はその中からイラスト料金や原稿料、カメラマンの撮影料などをやりくりするわけだが、さすがにこれは安すぎるだろう。
「ギャラが支払われないまま、編集者に逃げられた」
たくさん数をこなせばいいのでは? と思うかもしれないが、
とため息をつく。この女性の場合、イラストレーターだけでは食べていけないため、カフェのアルバイトとの二足わらじの生活を送っている。友人からもこんな話を聞いたそうだ。
長年続く出版不況のあおりで、制作現場の財布のひもはどんどん固くなっている。
10年以上フリーで活動してきた30代の男性イラストレーターも、「現在はプロのイラストレーターにとって不遇の時代」だと語る。ひと昔前はイラストレーターが「希少」で、仕事を依頼する側とイラストレーターとの「個人的なコネクション」が必要だったという。
クライアントは足元を見て、安いギャラを「ふっかける」
ギャラのいい仕事だけ請け負い、報酬の低い仕事はどんどん切っていけば、クライアントの意識も変わってイラストレーターの立場も上がるのではないか? そんな疑問をぶつけてみたが……。
2013年4月3日に開かれた政府のクールジャパン推進会議では、ポスターやキャッチコピーの制作に関してクリエイターが無報酬で参加するべきだとも提言された。
国がこんな調子なのだから、企業がイラストレーターを“買い叩く”のも無理はないが、それでは新たな才能は育たない。イラストの道を断念する人も増えてしまうかもしれない。
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