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    水野和夫 『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』

    水野和夫 『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』

    2011年を代表する大著
    描き出された「成長の限界」

     2011年のビジネス書における最大の収穫の一つは、水野和夫の新刊だった。9月に刊行された536ページの大著『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』は、今日の世界経済を襲っている危機を、5000年以上前にまでさかのぼる世界史になかに位置づけ、壮大なスケールでの解明を試みている。
     水野は長年、在野のエコノミストとして活躍してきた。早稲田大を卒業後、八千代証券に入社。度重なる合併によって、同社は国際証券をへて三菱UFJ証券となり、現在は三菱UFJモルガン・スタンレー証券となっている。
     この三菱UFJ証券時代の2002年から、水野はチーフエコノミストを務め、独自の視点による市場分析を展開。現在の危機に対する鋭利な警告を発しつづけてきた。

     とりわけ本書の前編にも位置づけられる07年刊の『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』では、アナール学派の泰斗であるフェルナン・ブローデルの大著『地中海』などに依拠する真骨頂で、低成長時代に突入した欧米など先進国と、その最先端に位置する日本の状況を分析。それを「近代の終わり」という独自の切り口で描き出し、大きく注目された。
     本書はいわば、その発展型だ。では水野は、これまで何を訴えてきたのか。前著の内容も含めながら、そのエッセンスを紹介してみよう。

     最大のポイントは、「失われた20年」などと呼ばれる日本の長期停滞が、世界史における「最長で最大の低成長期」であることを明らかにし、その本質をえぐり出したことだ。
     世界史上のそれぞれの国の成長率は、それぞれの時代における各国の「利子率」で把握できる。金利は、成長率に連動する函数であるからだ。GDP成長率の高い国は、高金利である。逆に、成長率の低い国の金利は、同じように低い。そして金利の記録は、国によっては紀元前3000年前まで遡ることもできる。
     日本がデフレ不況に突入するまでは、世界史上の最低金利の時代は、中世17世紀のヨーロッパだった。その前の世紀の1570年から、イタリアでは土地バブルが発生。そして破綻による大後退の時代に入る。
     イタリアの金利は1566年にピークの9.0%を記録したあと、著しい低下を続け、1619年には最低の1.125%となった。これが世界史上の最低金利だ。
     そもそも長期金利が2%以下になるということは、債券のリスクプレミアムを差し引けば、長期のGDP成長率が0%になることを意味する。金利は物価に連動するから、2%という金利は、市場が「インフレ率はゼロの時代に入った」と織り込んだのだ。つまり、成長は止まったのである。
     その後、欧米にもさまざまな低金利時代はあった。イギリスは1897年に永久国債の金利が2.21%にまで下がったし、アメリカでは1941年に長期国債の金利が1.85%を記録した。しかし、いずれも17世紀イタリアの記録は更新されてこなかった。
     これを塗り替えたのが日本だったのだ。日本の10年国債の利回りは1998年、1.120%にまで低下し、ついに世界記録を更新したのである。

     これは何を意味するのか。日本のヘゲモニーの終焉だ。
     世界史上の大国は、ヘゲモニーが終わると低金利に突入してきた。歴史の教訓である。世界における主役の座からすべり降りるとき、その国は低成長に入るのだ。
     16世紀はスペインの時代だった。しかしハプスブルク家は1559年にピークを迎え、その後は衰退に入る。それに交代したのはオランダだったが、やはり1650年にピークを迎え、衰退に入った。その後は大英帝国だ。しかしこのイギリスも、ピークは1873年。その後はアメリカに首座を奪われている。
     日本は、アメリカという大国のヘゲモニーのもとで成長し、そして、成長を終えてしまった。なぜだろうか。
     水野は言う。それは、世界が20世紀に続けていた3軸での成長が、いずれも行き詰まってしまったからだと。その先端を走っていたのが日本だったのだ。
     3軸とは、「地理的な市場の拡大」と「途上国からの資源供給」そして「ITなどの技術進展」である。20世紀、世界の先進国が長期間の成長を続けられたのは、この3つの軸がそろっていたからだ。
     しかし現在、3軸はいずれも限界に達した。地上にはもはや、先進国が開拓して利益をむさぼれる「未開の地」はない。そればかりか、発展途上国はそれ自身が成長へと移行しはじめている。そのため、かつてのように安価な資源供給によって先進国を支えることはできなくなり、自分たちが資源を使う側へと回った。ITは、その発展期においては電脳空間という新たな発展の場所を与えてくれたが、すでに利益は吸い尽くされた。
     これらが、長期デフレの姿である。だから水野によれば、リフレ派などが唱えるような、
    「金融政策によってデフレから脱却できる」
     といった主張は、妄言以外の何者でもない。
     では、どうするのか。 水野は、21世紀を「脱テクノロジー・脱成長の時代」として生き抜くことだという。
     東日本大震災は、この脱テクノロジー、脱成長を決定づけた。これから求められるのは、自然と共存し、ゼロ成長でも持続していける社会ということになる。一人ひとりの生き方が問われる時代だ。

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