• 社員をしゃぶり尽くすブラック企業 巧妙化する手口に対抗せよ

    古川琢也著『ブラック企業完全対策マニュアル』(晋遊舎) 古川琢也著『ブラック企業完全対策マニュアル』(晋遊舎)

     過労自殺の話を聞いたとき、「早く辞めればよかったのに」「なぜそこまで追い詰められたのか」と思うことがあるだろう。それは正しい考え方であり、どんなことがあっても手放すべきでない認識である。

     しかし、よほど気をつけていても、いつしか追い詰められて逃げ場を失ってしまうこともある。それは経営者が従業員を巧みに「洗脳」してしまうような場合だ。

     ブラック会社は会社や経営者、上司が理不尽なことや違法なことをしていても、それを「おかしい」とすら思えないように、さまざまな手段で部下や従業員の考え方や価値観を染め上げていく。

     『ブラック企業完全対策マニュアル』の著者、古川琢也氏によると、半強制的に社員を寮に住まわせたがる会社は怪しいという。長時間労働で会社と寮との往復生活をさせ、勤務時間外の研修をさせて社外の世界と隔離するのは、ブラック企業得意の手法らしい。

     社内や研修では「会社のみんながそう思っている」「会社のみんなが我慢している」といった言い回しが多用され、疑問に思う自分がおかしいと思うように仕向ける。

     もしも家族と同居していれば変だと見破れることが、寮生活ではできない。組織外との交流を絶ち切り、カリスマへの帰依を強要するのはカルトの洗脳手法でもある。この手法は自己啓発セミナーでよく見られるが、ブラック企業においても悪用される。

     本書には、女性自衛官が上官からパワハラやセクハラを受けていたとき、そこから脱出するきっかけを作ってくれたのは、同僚で恋人の男性自衛官だったという例があった。

     もしも恋人が自衛官でなければ、ハラスメントの実態やその背景にある雰囲気や価値観を理解できず、彼女を支えられなかったかもしれない。そもそも恋人がいなければ、自分と上司との関係以外の健全な視点を持つこともできなかったのではないか。

     ブラック企業とは、かつては反社会的勢力と密接な関係をもった企業を指していた。しかしここ数年では「社員を身も心もボロボロになるくらい働かせる企業」へと定義が移行している。これからは目に見えない「洗脳マネジメント」の危うさについて、十分な研究と対策が期待されてくるのではないだろうか。

     無理やり「SE」を名乗らせる会社には残業代を請求

     本書には、もうひとつ面白い記述があった。それはIT企業でよく見られるSE(システムエンジニア)という呼び名は、脱法行為を行うために確信犯的に使われていることがあるという指摘だ。

     システムエンジニアとは、情報システムを分析・設計する技術職であり、業務の進め方や労働時間の使い方について労働者の裁量に委ねるのが望ましい「裁量労働制」を適用してよい業務として認められている。設計に従ってプログラミングを行うプログラマーとは異なる高度な仕事である。

     このことにより、システムエンジニアは労働基準法の例外が一部で認められるが、その実態はSEに該当しないはずのプログラマーを意図的にあてはめ、裁量労働制の名のもとに過剰なサービス残業を強いているという。

     本来の裁量労働制は、仕事の成果が重視され、定時よりも遅く来て早く帰ることがあってもよいはずだ。しかし日本の裁量労働制では、決してそうはいかない。残業代を減らす形でしか機能していない。

     もしも自分がプログラマーなのに、SEと呼ばれて裁量労働制を適用されて残業代を支払われていない場合、業務の内容や上司からの指示、労働時間などを手書きでメモしておくことをオススメしたい。

     なお、見た目がキレイだからといって、エクセルなどの表計算ソフトを使うと、かえって記録の信頼性がなくなってしまうのだという。あとからいくらでも数字の改ざんができるためだ。こういう分野では、依然として手書きが強い。

     

     【ビジネスの書棚・その他のレビューはこちら】



  • 企業ニュース
    アクセスランキング

    働きやすい企業ランキング

    年間決定実績1,000件以上の求人データベース Agent Navigation
    転職相談で副業