• 敵の基地征服、ドラゴン退治… イノベーション人材は「オンラインRPG」の中にいる

    リサ・ボデル著『会社をつぶせ』(日本経済新聞社) リサ・ボデル著『会社をつぶせ』(日本経済新聞社)

     「またゲームやってるよ」「もっとまともなことに時間を使えばいいのに」――。まるでダメ人間のように言われるゲームマニアだが、もしかすると今後は大企業から大きな期待を持って迎えられるかもしれない。

     「会社をつぶせ」の著者リサ・ボデル氏は、従業員教育と調査を行う研修会社の創業者。米国の一流企業が欲しがる「イノベーション人材」を発掘するために、オンラインゲームを活用するアイデアを披露している。

     複数の人間が同時参加できるオンラインのロール・プレイング・ゲーム(RPG)は、プレーヤー同士が共通の目標を達成するために力を合わせる必要がある。

     敵の基地を征服したり、ドラゴンを倒したり…。プレーヤー同士がチームの士気向上に貢献しあい、不完全な情報を踏まえながら迅速な行動をとらなければならない。

     ボデル氏は、RPGの中で起こっていることは、イノベーションを図る企業が経営課題に取り組む状況にそっくりだと指摘する。そして、オンラインゲームを通じて有能な人材を発掘できるのではないかと提案している。

     この手法は、起業家でベンチャー投資家の伊藤穣一氏(現・MITメディアラボ所長)も賛意を示しているという。彼によれば、世界で人気のオンラインゲーム「ワールド・オブ・ウォークラフト」などは、リアルタイムでチームを作って大勢の人を管理してプレーするが、このゲームでの能力は現実にも適用できるそうだ。

     従来の人材採用は、対策次第で結果に大きな差が出る「性格テスト」や、短時間で実力をつかみにくい「グループディスカッション」などが中心だった。これらの方法に比べると、数千人から数百万人もの人がリアルタイムで参加し、さまざまな障害を乗り越えるオンラインゲームの結果の方が、ずっと精度がよさそうである。

     これまでは、ゴールドマン・サックスやメリルリンチ、クレディスイスなどウォールストリートの一流金融会社は、リーダーシップを持った創造的な人材発掘のために、大学のスポーツ選手から積極的に採用していた。

     しかし複雑さでいえば、スポーツよりもゲームの方がはるかに上だ。これからは多人数参加型オンラインRPGでリーダーに認定された人たちが、企業間で引っ張りだこになる日も近いと著者は予想している。

     会社をつぶす「ミーティングへの過剰な依存」

     またボデル氏は、世の中にあまたある企業は、現状維持を追求する「ゾンビ会社」と、リスクを賢く取ることを奨励する「考える会社」に分かれるという。

     会社を「考える会社」に変えるためには、イノベーションをつぶす社内文化を持った「ゾンビ会社」の特徴を排除していくしかない。

     会社にイノベーションを起こすには、まずは「会社をつぶす方法」を考えてみよという逆転の発想だ。そして排除すべき社内文化として、次の5つの項目を挙げる。

     1.権限は与えるが行動させない
     2.リーダーが人ではなく、プロセスに目を向けている
     3.ミーティングへの過剰な依存
     4.ビジョンの欠如
     5.マネジメントが一方的に裁決を下す

     この条件は、まるで多くの日本企業そのものではないか。蔓延する無駄な会議に、「前期比」だけの夢のない目標。特定の人物がリーダーシップを取ろうとすると「スタンドプレーだ!」と足を引っ張り、マニュアルどおりに物事が進むことに安心する。

     管理職や役員には絶大な権限が与えられ、ヒラ社員はそれに絶対服従を誓わされているが、権限は会社の将来のために適切に行使されない。役員たちは自分がリスクを負う意思決定をせず、そのくせ他人の成功を過小評価し、失敗を過大にあげつらう。

     就職先を選ぶ若者たちも、現状の企業規模やブランドだけでなく、その会社が「ゾンビ会社」ではないのかという視点で、10年後、20年後を見据えるべきだろう。

     

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