有休取ったら「ボーナス減らすぞ」 これって違法じゃないんですか? 2014年8月11日 弁護士に言っちゃうぞ ツイート Aさんは、大手企業から中堅メーカーに転職してきた30代の男性。新しい会社のさまざまなルールの違いに戸惑ってきたが、一番納得できないのが「有休消化」に対する考え方である。 前職では有休の消化は強く推奨されており、Aさんの消化率はほぼ100%だった。しかしこの会社では消化する人がほとんどいない。なぜなら、ボーナスの査定に大きく響くからだ。 「皆勤者を奨励してるだけ」という理屈が通用するのか 転職先では有休を1日消化するたびに、ボーナスが1万円減らされる。20日間の有休を消化すると、20万円のボーナスがゼロになってしまう。これは実質的に有休を取らせないしくみではないかと人事に問い合わせたところ、こんな回答が返ってきた。 「うちの会社の場合、ボーナスは言ってみれば皆勤手当みたいなものなんです。休んだ人のペナルティで給与を減らしているのではなく、皆勤してくれる人を奨励しているだけなのですよ」 製造業では社員が休むと、代わりの人材を調達しなければならない。調達には手間もコストも掛かるので、会社は皆勤する人は歓迎しているのだそうだ。 確かに賞与は会社の基準で支給してよいといわれているが、全額が皆勤手当扱いというのは聞いたことがない。何より有給休暇という労働者の権利行使を制限しているとしか思えないが、こんなことが許されるのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に聞いてみた。 ――有給休暇を事実上取得しづらい会社って、多いですよね。ご相談者の方の会社も、有休を一日取得すると賞与が1万円も減らされるということなので、まさに有休を取りづらい会社といえるでしょう。しかし、有休は労働法で認められた労働者の権利。会社制度の不当性をしっかり主張しましょう。 「賃金その他不利益な取り扱い」は裁判でも無効に 有休については、労基法39条1条で「使用者は、その雇い入れの日から起算して6か月間継続勤務し全労働日数の8割以上出勤した労働者に対して有給休暇を与えなければならない」と定められています。 これは、労働者の健康で文化的な生活の実現のために、労働者に対し、休日のほかに毎年一定期間日数の休暇を有給で保障する制度です。 また労基法136条では、有休は労働者にとって重要な制度であるため、「使用者は、有給休暇を取得した労働者に対して、賃金その他不利益な取り扱いをしないようにしなければならない」とも定められています。 裁判所は、有休取得を一般的に抑制する趣旨での不利益取扱いや、有休取得の結果生じる不利益の大きさのゆえに有休取得を事実上抑止する効果をもつ場合は、無効と判断します。 実際の裁判例でも、有休取得日を昇給上の要件たる出勤率の算定にあたり欠勤日として扱ったケースや、賞与の算出における有休取得日の欠勤日扱いをしたケースなどは無効と判断しました。 会社の言い分が裁判所に一蹴されることを期待 今回のご相談のケースは、減らされる金額が小さくなく、有休取得の結果生じる不利益の大きさのゆえに有休取得を事実上抑止する効果を持つといえるので、裁判所では無効と判断される可能性があると思います。 会社側は「休んだ人のペナルティで給与を減らしているのではなく、皆勤してくれる人を奨励しているだけ」と理屈を述べていますが、裁判所に一蹴されることを期待したいです。 なお、過去の判例では、タクシー会社における同様の訴訟で、労働者が敗訴したことがありました。しかしそれはタクシー会社の特性や、金額の小ささなどを踏まえたものであり、どの会社にも当てはまるとはいえません。 有休は法律上認められた労働者の権利ですので、しっかり取得して仕事の英気を養ってください。会社と争いたい場合には、弁護士に相談されることをおすすめします。 あわせてよみたい:「トイレの時間」を残業代から引けないか 最新記事は@kigyo_insiderをフォロー/キャリコネ編集部Facebookに「いいね!」をお願いします 【取材協力弁護士 プロフィール】 岩沙 好幸(いわさ よしゆき)弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。頼れる労働トラブル解決なら≪http://www.adire-roudou.jp/≫
有休取ったら「ボーナス減らすぞ」 これって違法じゃないんですか?
Aさんは、大手企業から中堅メーカーに転職してきた30代の男性。新しい会社のさまざまなルールの違いに戸惑ってきたが、一番納得できないのが「有休消化」に対する考え方である。
前職では有休の消化は強く推奨されており、Aさんの消化率はほぼ100%だった。しかしこの会社では消化する人がほとんどいない。なぜなら、ボーナスの査定に大きく響くからだ。
「皆勤者を奨励してるだけ」という理屈が通用するのか
転職先では有休を1日消化するたびに、ボーナスが1万円減らされる。20日間の有休を消化すると、20万円のボーナスがゼロになってしまう。これは実質的に有休を取らせないしくみではないかと人事に問い合わせたところ、こんな回答が返ってきた。
製造業では社員が休むと、代わりの人材を調達しなければならない。調達には手間もコストも掛かるので、会社は皆勤する人は歓迎しているのだそうだ。
確かに賞与は会社の基準で支給してよいといわれているが、全額が皆勤手当扱いというのは聞いたことがない。何より有給休暇という労働者の権利行使を制限しているとしか思えないが、こんなことが許されるのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に聞いてみた。
――有給休暇を事実上取得しづらい会社って、多いですよね。ご相談者の方の会社も、有休を一日取得すると賞与が1万円も減らされるということなので、まさに有休を取りづらい会社といえるでしょう。しかし、有休は労働法で認められた労働者の権利。会社制度の不当性をしっかり主張しましょう。
「賃金その他不利益な取り扱い」は裁判でも無効に
有休については、労基法39条1条で「使用者は、その雇い入れの日から起算して6か月間継続勤務し全労働日数の8割以上出勤した労働者に対して有給休暇を与えなければならない」と定められています。
これは、労働者の健康で文化的な生活の実現のために、労働者に対し、休日のほかに毎年一定期間日数の休暇を有給で保障する制度です。
また労基法136条では、有休は労働者にとって重要な制度であるため、「使用者は、有給休暇を取得した労働者に対して、賃金その他不利益な取り扱いをしないようにしなければならない」とも定められています。
裁判所は、有休取得を一般的に抑制する趣旨での不利益取扱いや、有休取得の結果生じる不利益の大きさのゆえに有休取得を事実上抑止する効果をもつ場合は、無効と判断します。
実際の裁判例でも、有休取得日を昇給上の要件たる出勤率の算定にあたり欠勤日として扱ったケースや、賞与の算出における有休取得日の欠勤日扱いをしたケースなどは無効と判断しました。
会社の言い分が裁判所に一蹴されることを期待
今回のご相談のケースは、減らされる金額が小さくなく、有休取得の結果生じる不利益の大きさのゆえに有休取得を事実上抑止する効果を持つといえるので、裁判所では無効と判断される可能性があると思います。
会社側は「休んだ人のペナルティで給与を減らしているのではなく、皆勤してくれる人を奨励しているだけ」と理屈を述べていますが、裁判所に一蹴されることを期待したいです。
なお、過去の判例では、タクシー会社における同様の訴訟で、労働者が敗訴したことがありました。しかしそれはタクシー会社の特性や、金額の小ささなどを踏まえたものであり、どの会社にも当てはまるとはいえません。
有休は法律上認められた労働者の権利ですので、しっかり取得して仕事の英気を養ってください。会社と争いたい場合には、弁護士に相談されることをおすすめします。
あわせてよみたい:「トイレの時間」を残業代から引けないか
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【取材協力弁護士 プロフィール】
岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。頼れる労働トラブル解決なら≪http://www.adire-roudou.jp/≫