• 「典型的なサラリーマンの働き方」に激震?! 「残業代ゼロ」の流れに賛否

    政府の産業競争力会議の雇用・人材分科会が取りまとめた「個人と企業の成長のための新たな働き方」と題する提言が、マスコミの強い批判にさらされている。4月中旬の同会議の内容を、朝日新聞が「一般社員も残業代ゼロ」と報じてから議論に火がついた形だ。

    批判は、この提言に沿って労働時間の規制緩和が進むと「長時間労働が一層進み、収入も減るおそれが高い」とする。だが一方で、政府がなぜいま「新しい働き方」について言及しだしたのか、考えてみるのもいいだろう。本当に「企業にとって都合のよい規制緩和」のためだけなのだろうか。

    マスコミは猛批判「命や健康がむしばまれかねない」

    産業競争力会議は、労働時間と報酬のリンクを外した「新たな労働時間制度」を適用する対象として、AタイプとBタイプという2種類の労働者をあげている。

    「高収入・ハイパフォーマー型」のBタイプは、年収1000万円以上を対象とし、本人の希望に基づいて仕事の成果・達成度に応じて報酬を支払う。対象者は数パーセントとごく少数であり、強い批判は特にない。

    問題は「労働時間上限要件型」のAタイプだ。こちらは労働時間の上限を設けつつ、労使の合意と本人の希望を基に、労働時間に応じてではなく職務内容や成果等を反映して報酬を支払うという制度である。

    これに対して朝日新聞は、4月28日の社説で懸念をこう表明している。

    「過大な成果を求められれば、長時間労働を余儀なくされ、命や健康がむしばまれかねない。その危機感が薄いのが心配だ」

    週刊東洋経済も5月24日号で、「雇用がゆがむ」と題した特集を組み、「『ヒラ社員も残業代ゼロ』構想の全内幕」という記事では、今回の提言が経済界からの強い要請に基づいていることを強調している。

    「生活者の日々の営みそのものである雇用の制度改革に当たっては、ひときわ慎重な制度設計が欠かせない。それを株価浮揚のための一手段として弄ぶようなことがあれば、この国のありようそのものをゆがめることになりかねない」

    批判者の多くは、「労働時間の上限」を設ける効果についてはあまり評価せず、「労使の合意」という要件がなし崩しになるおそれが高いと懸念する。「ヒラ社員も、じきに残業代ゼロになる」という主張も見られる。

    池田信夫氏「役人やマスコミが自由な働き方の流れを妨害」

    一方で、「働き方」の見直しは日本の経済成長を確保し、国民生活の豊かさを維持するためには欠かせない転換だとする主張もある。

    経済学者の池田信夫氏は、5月20日のニコニコ生放送「言論アリーナ」で、「日本はもはや工場労働で食っていけない」と断言した。労働者が一斉に出社し、同じ時間に同じ場所で、同じ機械に向かうような「工業化社会の仕組み」はもう終わったのだという。

    そのような仕事をする労働者は、世界中に何十億人とあふれており、先進国の日本人の高い給料でやっても決して採算が合わない。日本は雇用をホワイトカラー的な頭脳労働に移していくしかなく、働き方も成果に焦点を当てた柔軟なものにして生産性をあげるべきだという。

    報酬は成果で評価されるので、就業時間という概念もなく、当然「残業もゼロ」だ。しかし現在のホワイトカラーは、「意味のない長時間労働」が多すぎる。日本のサラリーマンはオフィスにいる時間は長いが、生産的な時間の使い方ができていない。

    「先進国は製造業なんかやっていない。もっと賃金の安いところにやらせて、日本はそういうところに投資するとか、アウトソースするソフトウェアを書くとか、中国にできない仕事をするしかない」

    池田氏が主宰するアゴラ研究所では、従業員が一同に会するのは週1回の会合のみ。さらに各従業員は、アゴラ以外の仕事にも関わっている。

    同席していた人事コンサルタントの城繁幸氏は、「労働時間は300時間減らせる。給料は横ばいでも、自由時間は増やせる」とし、政策コンサルタントのうさみのりや氏も「労働力率も人口も増えない時代には、生産性を上げないと社会は維持できない」と同調する。

    ファンドマネージャーや企画開発責任者などが対象に?

    池田氏は、「これからの日本では、自由な働き方をいかに可能にしていくかが大事になる。なのに役人やマスコミが、この流れを妨害したり後ろ向きの話ばかりしている」と、朝日新聞や厚生労働省を痛烈に批判した。

    この批判を聞いていたのかどうかは分からないが、これまで提案に慎重な姿勢を示していた厚生労働省が、態度を一変させた。23日になって、高収入で専門性が高い職種に限って、労働時間規制の緩和を導入する方向で検討すると報じられている。

    さらに27日には朝日新聞や毎日新聞が、翌日の産業競争力会議で検討される「修正案」の内容を一部報じた。年収要件を外し、銀行のファンドマネージャー、新商品の企画開発責任者など、中核・専門的な職種の「幹部候補」などを対象にするという。

    一方で、運転手や販売員など「労働時間を自分で決められない職種」は対象外とされる。労働時間の上限要件については不明だが、これも28日の会議で明らかになるだろう。

    この議論を経て、6月中に政府がまとめる新たな「成長戦略」に盛り込む中身が決定されそうだ。日々の満員電車や、意味のない出社、生産性の低い残業などが打破されることへの淡い期待を持つ人もいるのではないだろうか。

    しかし、ダラダラ残業で高給を得てきた人にとっては、受け入れがたいものになるのかもしれない。いずれにしても、これまでの「典型的なサラリーマン的な働き方」が転換期を迎えているという覚悟が必要だろう。

    あわせてよみたい:その残業、本当に意味があるの?

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