再生請負人が贈る言葉 「無能な上司に出会ったらチャンスと思え」 2012年8月20日 ビジネスの書棚 ツイート 団塊の60代、ポスト団塊の50代、バブルの40代……。好景気にいい思いをして逃げ切りを図る世代が、後輩たちの冷ややかな眼差しにさらされている。自分の頭で考えず実力も磨かず、甘さや幼稚さを残して老いる姿が尊敬を呼ばないのだろう。 そんな無能の下で働く20代、30代が、上司を「老害」と罵る書き込みをネットでよく見かける。しかし、親と上司は選ぶことができないのが世の常だ。 そんな若者たちに、元産業再生機構COOで「再生請負人」の冨山和彦氏は、著書著書の「『決断できないリーダー』が会社を潰す」の中でこんな言葉を贈っている。 「無能な上司に出会ったらチャンスと思え」 ◇ 反面教師になるし、苦闘することが血肉となる 「無能な上司」の下で働くメリットのひとつは、反面教師の材料がたくさんあることだ。 日々の言動をつぶさに観察すれば、「あ、こういう局面で逃げると人の心って離反するんだな」と感じることもあるだろう。部下の立場だからこそ「無能な上司」に学ぶことは多い。 もうひとつは、「馬鹿上司、馬鹿組織」のほうが、その中で生き抜くことが大変なので、自分の力になることだ。 上司が馬鹿だと成果も出ないし、負け戦になる。その中で苦闘することが、血となり肉となるという。 いちばん非生産的な態度は、「自分の身の不幸を嘆く」ことである。冨山氏は「自分が飛躍するチャンスがどちらにあるかといったら、不遇なとき、間違いなく無能な上司のとき」とまで言い切っている。 手柄を部下に譲っていい気持ちにさせるような「いい上司」は、実はちゃんとした権限移譲をしないので、部下に本当の意味での力がつかないのだ。 とはいえ、若いうちから出世し、光の当たる場所で「いい上司」に取り立てられている人を見ると、うらやましくなる。無能な上司から逃れて、86世代の旗手、イケダハヤト氏のように「影響力の魔法」とやらを使えるようになりたくもなるだろう。 「いわゆる『下積み期間』を経験しないほうが、人間的な成長は早いかも」 「『三年間は下積み』なんて(略)決め付けるのは可能性を閉ざすことに」 とイケダ氏に煽られて、早くフリーランスやノマドにならなきゃと焦る人もいる。 ◇ 「ドブ板営業の方が、MBAよりよほど役立つ」 しかし冨山氏は、「ビジネスの世界においては、35歳までは所詮ガキ」「30代半ばまでは、自分がした体験から何を養分として吸収したかのほうが、見せかけの数字よりもはるかに重要」と指摘する。冨山氏から見れば、 「いっぺんふわっと上昇しても、所詮『ひょっとしたらあいつは一発屋かな』くらいにしか世の中は思ってくれないのです」 という程度のものなのだ。 35歳までの浮き沈みで何を学んだか――。世の中は、そちらの方を見ているし、「だからエリートコースはダメなのです」。 86世代の旗手とは対照的な考え方だが、東大法学部を出て司法試験に合格しながらボストンコンサルティングに就職し、その後独立して「再生請負人」として活躍する冨山氏が言うのだから、反論はできまい。 そもそも楽にやりたいと思えば、あの甘ったれた「老害」たちと同じ未来しか待っていないのではないか。 冨山氏は、携帯電話会社でドブ板営業をしていた数年間の方が、「スタンフォード大学でMBAプログラムで学んだことより、よっぽど経営に役立って」いると振り返る。 無能な上司のもとでの下積みは、考える部下をきっと育てるに違いない。 【その他のビジネスの書棚の記事はこちら】
再生請負人が贈る言葉 「無能な上司に出会ったらチャンスと思え」
団塊の60代、ポスト団塊の50代、バブルの40代……。好景気にいい思いをして逃げ切りを図る世代が、後輩たちの冷ややかな眼差しにさらされている。自分の頭で考えず実力も磨かず、甘さや幼稚さを残して老いる姿が尊敬を呼ばないのだろう。
そんな無能の下で働く20代、30代が、上司を「老害」と罵る書き込みをネットでよく見かける。しかし、親と上司は選ぶことができないのが世の常だ。
そんな若者たちに、元産業再生機構COOで「再生請負人」の冨山和彦氏は、著書著書の「『決断できないリーダー』が会社を潰す」の中でこんな言葉を贈っている。
「無能な上司に出会ったらチャンスと思え」
◇
反面教師になるし、苦闘することが血肉となる
「無能な上司」の下で働くメリットのひとつは、反面教師の材料がたくさんあることだ。
日々の言動をつぶさに観察すれば、「あ、こういう局面で逃げると人の心って離反するんだな」と感じることもあるだろう。部下の立場だからこそ「無能な上司」に学ぶことは多い。
もうひとつは、「馬鹿上司、馬鹿組織」のほうが、その中で生き抜くことが大変なので、自分の力になることだ。
上司が馬鹿だと成果も出ないし、負け戦になる。その中で苦闘することが、血となり肉となるという。
いちばん非生産的な態度は、「自分の身の不幸を嘆く」ことである。冨山氏は「自分が飛躍するチャンスがどちらにあるかといったら、不遇なとき、間違いなく無能な上司のとき」とまで言い切っている。
手柄を部下に譲っていい気持ちにさせるような「いい上司」は、実はちゃんとした権限移譲をしないので、部下に本当の意味での力がつかないのだ。
とはいえ、若いうちから出世し、光の当たる場所で「いい上司」に取り立てられている人を見ると、うらやましくなる。無能な上司から逃れて、86世代の旗手、イケダハヤト氏のように「影響力の魔法」とやらを使えるようになりたくもなるだろう。
「いわゆる『下積み期間』を経験しないほうが、人間的な成長は早いかも」
「『三年間は下積み』なんて(略)決め付けるのは可能性を閉ざすことに」
とイケダ氏に煽られて、早くフリーランスやノマドにならなきゃと焦る人もいる。
◇
「ドブ板営業の方が、MBAよりよほど役立つ」
しかし冨山氏は、「ビジネスの世界においては、35歳までは所詮ガキ」「30代半ばまでは、自分がした体験から何を養分として吸収したかのほうが、見せかけの数字よりもはるかに重要」と指摘する。冨山氏から見れば、
「いっぺんふわっと上昇しても、所詮『ひょっとしたらあいつは一発屋かな』くらいにしか世の中は思ってくれないのです」
という程度のものなのだ。
35歳までの浮き沈みで何を学んだか――。世の中は、そちらの方を見ているし、「だからエリートコースはダメなのです」。
86世代の旗手とは対照的な考え方だが、東大法学部を出て司法試験に合格しながらボストンコンサルティングに就職し、その後独立して「再生請負人」として活躍する冨山氏が言うのだから、反論はできまい。
そもそも楽にやりたいと思えば、あの甘ったれた「老害」たちと同じ未来しか待っていないのではないか。
冨山氏は、携帯電話会社でドブ板営業をしていた数年間の方が、「スタンフォード大学でMBAプログラムで学んだことより、よっぽど経営に役立って」いると振り返る。
無能な上司のもとでの下積みは、考える部下をきっと育てるに違いない。
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