• アダム・スミス『国富論』

    経済学はここから始まった。200年をへて迫力を放つ。

     ビジネス書って何だろう。「効率が100倍上がる仕事術」とか、「できる社員になる方法」とか、そんなタイトルで世の中にあまた溢れる「自己ケーハツ本」なんかが、本当に仕事の役に立つほど現実は甘くないはずだ。
     仕事において、ひとはみな同じスタートラインに立っている。公平なルールを守り、ひたすら自力で競い合う。そこで勝ち抜くには、実直でまっとうな努力をするしかないはずだ。くだらない本などを手にする暇などがあるなら、手強いホンモノに挑戦したい。
     といっても、ただ難解なばかりの専門書に挑むのも無謀だろう。そこで、名だたる古典・名著のなかでも圧倒的なおもしろさをもつ一冊を。アダム・スミス著『国富論』だ。
     スミスの名前だけは知っていても、この本を読んだ人は少ないのでは。しかし食わず嫌いをせずに、無心にページをめくってみよう。ほどなく、
    「面白いとはこういうことだ!」
     と、心から感動するに違いない。

     200年以上も昔の時代を生きたスミスが、現代のビジネスマンに教えてくれることは何か。それは、あえていうならば「自力で考える」ということの覚悟や勇気ではないか。いまの経済学の難しさに四苦八苦している多くのビジネスマンは、『国富論』が説くストレートな手法に、思いがけず勇気を与えられるに違いない。
    「モノの価格は、どう決まるのか」
     この問題に対する国富論のアプローチは、感動的である。そして、実にこれほど実感から納得のいく説明はないだろう。スミスは書いている。
    「ものの真の価格とは、その生産に要する手間であり、苦労である」
    「そのものの真の価値は、それを持っていれば節減できる手間であり、他人に負担してもらえる手間である」
     たとえば、ビーバー1頭がもっている価値は、それを手に入れるために家を出て、山中を駆け回り泥の沼をはいずり回って、ついにビーバーを仕留めって帰宅するまでの苦労や手間である。これがスミスの価格論の出発点だ。
     そして、もしもビーバーを仕留めるための労働が、シカを仕留めるための労働の2倍ならば、ビーバー1頭は、シカ2頭の価値があると、スミスは説くのである。

     もちろん現代の経済学は、こうしたモノの価格に関する理論をはるかに精緻化させている。スミスの説明は、その後の世界史における数度のハイパーインフレーションやその終焉について、説明することはできない。
     そこで、最近の経済書のなかから、経済理論史の変遷に関する平易な入門書を選ぶならば、飯田泰之著『歴史が教えるマネーの理論』がいいだろう。
     同書は、複雑な現在の経済学を、「マネーと物価」「為替レート」「金融政策」の3部構成にしぼって、平易に解説している。そして「マネーと物価については、副題を「貨幣数量説の栄光と挫折」と題して論じている。
     古典的な価格理論は「貨幣数量説」と呼ばれる。貨幣が金や銀であるならば、この金や銀の流通量とモノの価格とのあいだに比例関係があると見るのが、貨幣数量説だ。経済学の理論は、この貨幣数量説から出発はしたものの、いまでは理論的にも実証的にも問題があることが知られている。
     飯田は1975年生まれ。とても若い論客だ。ちくま新書からは『ダメな議論』と題した挑戦的な論争の書もある。
     ものの値段とは何か。それを真正面から考えるとは何か。200年の時間をへたアダム・スミスと、現代の若い飯田泰之のそれぞれの著作が、真に考える力を養う最良のビジネス書になっている。

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