• 「ごまかしの手法」を徹底解明した「原発はやっぱり割に合わない」

     第12回の大佛次郎論壇賞に、「原発のコスト」(大島堅一著、岩波書店刊)が決まった。大島氏は立命館大学・国際関係学部の教授だ。

     「原発のコスト」は、これまで「安い」とされてきた原子力発電の発電コストが、実績値では火力発電や水力発電より高いことを、国民や事故被災者が負担させられるコストに基づいて再計算し、綿密な手法で、エネルギー転換への視点を示した。

     大島氏が研究した原発コストの成果としては、事故前に刊行した「再生可能エネルギーの政治経済学」(東洋経済新報社刊)がある。

     「原発のコスト」は、この前著を下敷きにして、過去40年の発電コストを論証。東日本大震災を受けて、被害額の算出方法などをさらに詳しく検討し、利益と費用のバランスを比べている点がポイントになっている。
     
     その大島氏の最新刊が(東洋経済新報社刊)だ。これこそビジネスマンの必読書かもしれない。

     今後、日本経済の重要な土台となるエネルギー問題が理解できるのはもちろんだが、それだけではない。「便益とコスト」という、ビジネスで常に考えなければならない問題が、どのように意図的にねじ曲げられるのかということについて、最悪の例がここにあるからだ。

     「原子力ムラ」と呼ばれる政府や電力業界などによる「ごまかしの手法」をいかに見抜くか。これは、一人ひとりのビジネスパーソンにとっても、相手を見分けるスキル向上に役立てられるだろう。

     しかも、この本は読みやすい。前に書かれた、二つの著書と異なり、市民向けの講演を再構成したものだからだ。ではどんな内容なのか、論証のポイントを見ていこう。


    隠されていた原発の発電コストの根拠を解明

     まずは、原子力ムラの側の言い分からだ。「原発は発電コストが最も安いエネルギーである」。これが彼らの主張である。

     その根拠となってきたのは、政府の審議会が発表する報告書だ。事故以前の最新のものとしては、2004年発表のデータが用いられてきた。それがこれだ。


     原発は、表向きは発電コストに占める燃料費の割合が低いのが特徴だ。建設費や維持管理費は高いが、そのぶん「使えば使うほど安い」とされてきた。

     ところが、肝心のその“根拠”は隠されてきた。計算に使われた“根拠”が公開されていなければ、検証や再計算ができない。

     大島氏はこれを解明していく。発電コストは、「発電に直接要する費用」と「バックエンド費用」に分かれる。バックエンド費用とは、使用済み燃料の処理費や施設の廃止費用などだ。

     そして、原発にかかる費用はこれだけではない。意図的に除外されていた費用が「社会的コスト」だった。

     社会的コストには「政策費用」と「事故費用」がある。政策費用とは、研究開発にかかる費用や、立地対策の費用だ。これを入れると、原発の発電コストは、はね上がるのだ。それが以下の図だ。


     研究開発費も莫大だ。一般会計のエネルギー対策費のうち、実に97%が原子力。これを1キロワット時あたりに直すと、1.46円になり、さらに立地対策費を足すと計1.72円になる。

     「国民は知らないうちに、原発向けにお金を拠出している」

     と大島氏は述べている。


    原発に経済性は全くない

     さらに、これまでまったく計算されてこなかった重要な費用が、「事故費用」だ。これは、「大事故は起きない」ということが原子力政策の大前提だったということがある。しかし、実際に事故は起きた。では、その費用はいくらなのか。この計算はかなり困難だ。

     ●今後の事故発生確率をどう見積もるか
     ●健康被害がどれだけ出るか
     ●除染にどれだけ費用がかかるか

     などが不明確だからだ。

     さまざまな困難を抱えながらも、大島氏が委員として参加する内閣府の「コスト等検証委員会」は、一つの見積もりを出す。そこで最低限の数値として出されたのが、1キロワット時あたり0.5円だ。

     しかし、これは低すぎる値だろう。なぜなら確定できないコストが多すぎるからだ。大島氏は「事故費用が0.5円に収まることはない」と断言する。そして、「原発には経済性は全くない」と、この本で結論づけている。

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