• カール・マルクス 『経済学・哲学草稿』

    ホリエモンがいった「金で買えないものはない」
    乗り越えるための足場をどうやって築くか

    金で買えないものはない――。
    これはホリエモンこと堀江貴文氏の至言として、よく知られた言葉だ。
    著書『儲け方入門』のなかで、彼はこう書いている。

    「すべてに値段がついているということは、お金で買えないものはないということです。プロ野球の球団だって買えるし、女心だって買える」

    ここで思い出すのが、カール・マルクスの言葉だ。
    マルクスも言っている。

    「金があれば、愛も勇気も買える」

    と。
    ただし、それは皮肉としてだ

    マルクスは、貨幣のもつ非人間性を批判した。
    こう言い切っている。

    「貨幣は人類の外化された能力である」
    「実存しつつあり活動しつつある価値の概念としての貨幣は、一切の事物を倒錯させ、置換する」

    金があれば、美しい宝石を買いそろえて、女性の歓心をつなぎとめられるだろう。
    多数の軍隊を雇って武力をそろえれば、勇者として振る舞うこともできるかもしれない。
    しかし、それは真実の愛や勇気だろうか。
    それが、マルクスの問題提起だ。マルクスは、もちろん付け加えている。

    「もし君が相手の愛を呼びおこすことなく愛するなら、もし自分を愛されている人間としないのならば、その時の愛は無力であり、一つの不幸である」

    まさに、無力と不幸。それにしても、これほどまでのホリエモン氏の隔絶は、どうして生じたのだろう。
    ここでも、かの名言がよみがえる思いがする。

    「歴史は繰り返す。最初は悲劇として、二度目は茶番として」

    マルクスが描いた貨幣の悲劇は、現代の堀江氏によって、そのまま茶番として演じられた。

    「貨幣は、できない事々を兄弟のように親しくさせる。互い矛盾しているものを無理矢理に接吻させる」

    それは、貨幣がもたらす転倒であり倒錯だ。
    ところが、かのホリエモン氏は、この転倒と倒錯を、そのまま貨幣の魅力として受け止めた。

    膨大なマルクスの著作からは、まず何を読んだらよいだろうか。
    マルクスの出発点は、20代で書いた学位論文の『デモクリトスの自然哲学とエピクロスの自然哲学の差異について』という本だ。
    ところが、これがまた、とんでもない本である。
    ほんの試しに、最初の数ページだけでもいい。読んでみよう。驚愕すること、間違いなしだ。
    なぜなら、ほとんどすべての読者は、そこに書かれている内容を、まったく理解することができないだろうから。
    マルクスは、修練を重ねた法律学や経済学などの幅広い知識をバックグラウンドにして、独特の「とっつきにくい」文章を展開する。
    その主著は、いうまでもなく『資本論』だ。圧倒的な魅力にあふれた書物だが、かといって、およそ容易に読めるものでもない。
    入り口として最適なのが、この『経済学・哲学手稿』だ。その後の『資本論』や『経済学批判』に結びつく思考のエッセンスが、詰め込まれている。
    「貨幣」についての章は、岩波文庫版でわずか9ページ。そこから、世界への洞察が広がる。

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