• 仕事ができない自分って「天才」? アスペルガー症候群と診断されたがる人たち

    アスペルガー症候群とは、興味やコミュニケーションについて特異性が認められる「広汎性発達障害」の一種と言われる。微妙な皮肉や冗談、本音と建て前の違いを理解できないなど、「まわりの空気を読まずに行動する」「会話がかみ合わない」特徴が指摘される。

    日常生活で悩みを抱え、心療内科で初めて「アスペルガー」の言葉を聞く人もいる。その一方で、テレビや書籍を見て、勝手に「自分はアスペルガー症候群に違いない」と思い込む人たちも増えているという。「大人の発達障害がわかる本」(洋泉社)の著者で精神科医の備瀬哲弘氏は、彼らは『アスペルガー症候群』の願望者だという。

    (「アスペルガー症候群」の参考記事)

     障害を「仕事ができない言い訳」にしていないか

    アスペルガー症候群には、一つのことに非常に強い興味を示すという特徴がある。中には高い記憶力を発揮して、絵画や音楽などで優れた才能を見せる人がおり、ピカソやモーツァルトがその典型らしい。

    そんなこともあってか、「アスペルガー症候群=天才」という誤った認識が広がり、医師から違うと診断されても「自分は絶対にアスペルガーだ!」と譲らない人も出ている。

    備瀬氏は、そんな彼らを「仕事がうまくこなせない」「人間関係が築けない」といった弱点の裏に「天才性」が隠れていると信じたがっているのだろうと分析する。

    発達障害のチェックリストでよく見られる「他人の冗談が分からないことがある」「一つのことに夢中になると他のことが目に入らない」といった項目は、程度の差こそあれ普通の人にも当てはまることである。

    したがって、発達障害は断片的な特徴だけで診断することはできず、現在の状況に加え過去の行動歴など複数の要素を総合的に判断するものであり、安易な自己診断は禁物だ。

    なによりも、アスペルガー症候群とされる偉人たちが「天才」と呼ばれるのは、あくまで彼らの努力による結果である。備瀬氏は「アスペルガー願望者」たちがこの点を見逃していると指摘し、発達障害であろうとなかろうと、生きるための努力は欠かせないと言う。

    「本当の発達障害」はきちんと受診すれば苦しみも減る

    一方で、脳機能の発達上の原因で、コミュニケーション上の問題を引き起こすことが多い場合には、専門的な対処が必要な場合もある。営業職のDさん(30代、男性)は、絶対取れたはずといわれる仕事の受注に失敗してしまった。

    上司は「管理すべき自分のミスだ。気にするな」と慰めてくれたが、上司は上役から叱られるはめになった。落ち込む上司にDさんが、

    「誰だってミスはありますよ、気にしないでください」

    と声をかけたところ、「お前は何が言いたいんだ!」と上司が怒り出してしまった。

    これは発達障害の実例で、Dさんは上司が怒った理由を「余計なことを言ってしまった」からだと、どうしても理解できないそうだ。これは彼の性格に由来するのではなく、脳機能の発達上の問題があり、専門家のサポートが必要なレベルである。

    このような「本当の発達障害」の場合には、専門医に客観的に診断してもらうことに大きな意味がある。原因がはっきりすれば日常での問題にも対処しやすくなり、地域や職場など社会のサポートも受けられる。理不尽に自分を責めることも減るだろう。

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