• ノマド、メディアに惑わされるな! いまこそ「普通に働け」というエールは響くか

    現在のビジネス界を動かしているのは、いったい誰か。日本ならソフトバンクの孫正義か、ユニクロの柳井正か? 欧米ならグーグルのエリック・シュミットか、アマゾンのジェフ・ベゾスだろうか?

    いや、そうではない。世の中は「普通の人で動いている」のだと主張するのが、常見陽平『普通に働け』(イースト・プレス刊)だ。

    「すごい人になれ!」という強迫観念が若者を疲弊させる

    本書は、現代は「普通に働く」ことが難しい時代と指摘する。例えば最近の就職ガイドや自己啓発本などには、ハイレベルな理想を掲げた言葉が並ぶ。

    「英語を巧みに操れるグローバル人材が求められる」
    「組織に縛られないノマドなワークスタイルが主流になる」
    「ジョブズのような、ルールブレイカーな社員にならなければいけない」
    「世界の企業に打ち勝つためには、24時間365日働く信念が必要」

    確かにこのような生き方や働き方を実践している人もいるだろう。冒頭に挙げたトップレベルのビジネスマンたちが一例だ。

    理想を掲げるのは悪くない。だが、どこにでもいる一般社員がこうした「意識の高い」ワークスタイルを取り入れることは、果たして現実的なのだろうか?

    ノンエリート層に対して「ジョブズのようになれ!」と叫んでも、地に足がついたアドバイスになるだろうか。

    むしろそうした「すごい人になろう!」論こそが、働く人々を振り回し、疲弊させている元凶なのではないかと著者は指摘する。

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    マスメディアが招く働き方の「混乱」

    同様に本書では、マスメディアの就労問題の取り上げ方についても警鐘を鳴らす。最近の新聞やニュース番組に踊るのは、

    「年功序列制度の崩壊」
    「キャリアアップのための転職は当たり前」
    「SNSを利用したソー活で就職活動が激変」

    といった言葉だ。

    なるほど、これだけ聞くと「新しい働き方を考えなければ!」とあせってしまう。しかし著者は、統計などをもとにマスメディアの過激な論調を訂正していく。

    現実には、賃金はいまだに年齢とともに上がる傾向が強く、年功序列は失われていない。転職者数もここ20年間は300万人台で推移していて、転職市場の大幅な拡大も見られない。「ソー活」をしている層は、新卒生の3割ほどだ。

    もちろん労働環境に変化がないわけではないが、「崩壊」や「激変」と言われるほどではない。大手マスメディアはちょっとした予兆を煽って取り上げるから、それに踊らされず、冷静に「普通の働き方」をする必要がある。

    まっとうな「普通の働き方」で生き残れるか?

    本書が掲げる「普通の働き方」とはいたってシンプル。誰もが孫正義やスティーブ・ジョブズになれるわけではないという現実を認め、目の前の仕事をしっかりと見据えて粛々と取り組むことだ。

    無理に背伸びをせず、会社や顧客の期待に応えること。それこそが働く人の血肉になる。等身大の自分を見つめ、ときには試行錯誤しながら自分にできることに真摯に取り組むことが大事なのだと著者は伝える。

    決してスマートではないが、当たり前でまっとうなワークスタイルを続けることが「普通の人」の働く幸せにつながる。そんなエールは感じ取れるだろう。

    ただし一方で、本当に「普通に働き」続けていればそれでいいのかという疑問も残るかもしれない。

    例えば、斜陽産業に従事する人やワーキング・プア層などはどうだろうか? 働き続けば働くだけ行き詰まってしまう環境にいる場合、目の前の仕事をこなすだけでは生き残れないだろう。また仮に大手や成長産業で普通に働いていても、いつミクシィのようになるか分からない。

    「普通に働け」ばいいことはわかったが、ノンエリート層である私たちが地に足をつけて「普通に働き」続けるのは、かくも難しい。この困難を解決する方法は、今のところ読者一人ひとりが見つけるしかないようだ。

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