ジェフ・ベゾスの「果てなき野望」 アマゾンは「愛される企業」になれるか? 2014年1月17日 ビジネスの書棚 ツイート スティーブ・ジョブズ亡き今、ネット業界・IT業界を牽引していくのは誰か? 模範回答のひとつは、アマゾンの「ジェフ・ベゾス」だろう。 このEC業界の巨人は、いったいどのような未来を目指しているのか。その理解を助けるのが、ブラッド・ストーン著(井口耕二訳)『ジェフ・ベゾス 果てなき野望 アマゾンを創った無敵の奇才経営者』(日経BP社)だ。 競合との違いは「顧客第一」「長期的」「創意工夫」 アマゾンは1994年7月に設立され、18年後の2012年には年間売上高が610億ドルに到達。2013年現在、世界12か国でサイトを展開し、従業員数は10万人以上に上る。それにも関わらず、営業利益率はわずか1.1%。つまり、利益のほとんどすべてを新たな事業投資に回している。 本書は、そんなアマゾンの創始者であり現CEOでもあるジェフ・ベゾスの半生とそのビジネス観、同社の歴史と企業文化を解き明かす。ベゾス自身やアマゾン社員、関係者への取材を300回以上も行ったという。 一読して分かるのはベゾスの特異な価値観と、それをそのまま体現したかのようなアマゾンの独特さだ。 例えばベゾスは、アマゾンと競合会社の違いは次の3つだと繰り返し語っている。 「我々は正真正銘、顧客第一ですし、正真正銘、長期的です。また、正真正銘、創意工夫を重視しています」 つまりライバル会社を気にしないこと、目先の損益にとらわれないこと、そして他社のサービスを後追いしないことを意味する。これらすべてを併せ持つには、かなりの覚悟と努力が必要だろう。 実際、この3点を実現させるため、ベゾスは常に社員に高い能力とクオリティーを要求する。目標が達成できない社員は、ベゾスから容赦なく叱責されることもある。 「君はものぐさなのかい? それとも単に無能なのかい?」 「世界的な業務を任せたというのに、君はまたそうやって僕をがっかりさせるのか」 特にうそをついたり、ごまかしたりといったことは絶対にNGだ。カスタマーセンターの責任者は、問い合わせ電話がつながるまでの平均時間を少なくごまかしたため、役員の前でベゾスから大目玉食らったという。 ワークライフバランスとは「無縁」 評価が厳しい反面、福利厚生が良い…というわけでもない。グーグルのような無料食堂も社員送迎バスもなく、ベゾスでさえ通勤には妻が運転する自家用車を使用している。プライベートジェットも無しだ。 「いつになったら会社がワークライフバランスに配慮するのか」と質問した社員にも、ベゾスは次のように答えている。 「自分の全力を投入してすばらしい成果をあげるのは無理だというのなら、君は職場を選び間違えたのかもしれないね」 まるでブラック企業のようにも思える。実際、心身を疲弊させてアマゾンを退社する人もいるようだ。しかしそれでも、同社に入社する優秀なビジネスパーソンは後を絶たない。アマゾンの元社員は本書内で次のように語っている。 「皆、あそこがきついとわかって入ってきますからね。次から次へと新しいことを学ぶんです。イノベーションのスピードにはわくわくする」 変化を求める人、絶えず新しいものにチャレンジする人には、アマゾンは非常に魅力的な環境なのだろう。同社の文化が身にしみついてしまい、辞めたあとで再び入社する人も少なくないそうだ。 愛される企業とそうでない企業の「違い」とは? では将来、アマゾンはどこへ向かうのか? 本書では、商品の即日配送や自社配送トラックの所有、生鮮食品配送サービス、アマゾンによる書籍の印刷サービスなどはいずれも実現可能だと推測している。 ベゾス自身も、さまざまな事業に関心を寄せている。2000年には自分自身で民間宇宙事業会社を立ち上げているほか、2013年にはワシントンポストをポケットマネーで買収した。 著者は、アマゾンは将来的に「エブリシング・ストア」を超えて、「エブリシング・カンパニー」を追求するだろうとしている。つまり、他社の商品を売る小売会社ではなく、自社でサービスや価値を発信する会社への転換だ。 さらにベゾスは、アマゾンがユーザーからもっと「愛される」必要性があると考えている。「愛される」企業とは、例えばディズニーやナイキのようなファンがいる企業だ。対してウォルマートやマイクロソフトなどは多くの顧客がいるのに「愛されていない」。 その差を分けるのは、ひと言でいえば「クールか、そうでないか」。以下はベゾスが考えるクールか否かの一例だ。 「不作法なのはクールじゃない」 「リスクを取るのはクールだ」 「未踏の地を探検するのはクールだ」 しかしまた、「小さな相手をたたきつぶすのはクールじゃない」「自社で価値を独占するのはクールじゃない」といった例も挙げられている。 現在のアマゾンが「クール」かどうかは微妙なところだが、ディズニーやマイクロソフトのような、巨大企業になりつつあるのは間違いない。 果たしてアマゾンは「エブリシング・カンパニー」かつ「愛される」企業になれるのか。2014年も同社とベゾスの動向から目が離せないところだ。 あわせてよみたい:アマゾン社員は「?」メールに戦々恐々
ジェフ・ベゾスの「果てなき野望」 アマゾンは「愛される企業」になれるか?
スティーブ・ジョブズ亡き今、ネット業界・IT業界を牽引していくのは誰か? 模範回答のひとつは、アマゾンの「ジェフ・ベゾス」だろう。
このEC業界の巨人は、いったいどのような未来を目指しているのか。その理解を助けるのが、ブラッド・ストーン著(井口耕二訳)『ジェフ・ベゾス 果てなき野望 アマゾンを創った無敵の奇才経営者』(日経BP社)だ。
競合との違いは「顧客第一」「長期的」「創意工夫」
アマゾンは1994年7月に設立され、18年後の2012年には年間売上高が610億ドルに到達。2013年現在、世界12か国でサイトを展開し、従業員数は10万人以上に上る。それにも関わらず、営業利益率はわずか1.1%。つまり、利益のほとんどすべてを新たな事業投資に回している。
本書は、そんなアマゾンの創始者であり現CEOでもあるジェフ・ベゾスの半生とそのビジネス観、同社の歴史と企業文化を解き明かす。ベゾス自身やアマゾン社員、関係者への取材を300回以上も行ったという。
一読して分かるのはベゾスの特異な価値観と、それをそのまま体現したかのようなアマゾンの独特さだ。
例えばベゾスは、アマゾンと競合会社の違いは次の3つだと繰り返し語っている。
つまりライバル会社を気にしないこと、目先の損益にとらわれないこと、そして他社のサービスを後追いしないことを意味する。これらすべてを併せ持つには、かなりの覚悟と努力が必要だろう。
実際、この3点を実現させるため、ベゾスは常に社員に高い能力とクオリティーを要求する。目標が達成できない社員は、ベゾスから容赦なく叱責されることもある。
特にうそをついたり、ごまかしたりといったことは絶対にNGだ。カスタマーセンターの責任者は、問い合わせ電話がつながるまでの平均時間を少なくごまかしたため、役員の前でベゾスから大目玉食らったという。
ワークライフバランスとは「無縁」
評価が厳しい反面、福利厚生が良い…というわけでもない。グーグルのような無料食堂も社員送迎バスもなく、ベゾスでさえ通勤には妻が運転する自家用車を使用している。プライベートジェットも無しだ。
「いつになったら会社がワークライフバランスに配慮するのか」と質問した社員にも、ベゾスは次のように答えている。
まるでブラック企業のようにも思える。実際、心身を疲弊させてアマゾンを退社する人もいるようだ。しかしそれでも、同社に入社する優秀なビジネスパーソンは後を絶たない。アマゾンの元社員は本書内で次のように語っている。
変化を求める人、絶えず新しいものにチャレンジする人には、アマゾンは非常に魅力的な環境なのだろう。同社の文化が身にしみついてしまい、辞めたあとで再び入社する人も少なくないそうだ。
愛される企業とそうでない企業の「違い」とは?
では将来、アマゾンはどこへ向かうのか? 本書では、商品の即日配送や自社配送トラックの所有、生鮮食品配送サービス、アマゾンによる書籍の印刷サービスなどはいずれも実現可能だと推測している。
ベゾス自身も、さまざまな事業に関心を寄せている。2000年には自分自身で民間宇宙事業会社を立ち上げているほか、2013年にはワシントンポストをポケットマネーで買収した。
著者は、アマゾンは将来的に「エブリシング・ストア」を超えて、「エブリシング・カンパニー」を追求するだろうとしている。つまり、他社の商品を売る小売会社ではなく、自社でサービスや価値を発信する会社への転換だ。
さらにベゾスは、アマゾンがユーザーからもっと「愛される」必要性があると考えている。「愛される」企業とは、例えばディズニーやナイキのようなファンがいる企業だ。対してウォルマートやマイクロソフトなどは多くの顧客がいるのに「愛されていない」。
その差を分けるのは、ひと言でいえば「クールか、そうでないか」。以下はベゾスが考えるクールか否かの一例だ。
しかしまた、「小さな相手をたたきつぶすのはクールじゃない」「自社で価値を独占するのはクールじゃない」といった例も挙げられている。
現在のアマゾンが「クール」かどうかは微妙なところだが、ディズニーやマイクロソフトのような、巨大企業になりつつあるのは間違いない。
果たしてアマゾンは「エブリシング・カンパニー」かつ「愛される」企業になれるのか。2014年も同社とベゾスの動向から目が離せないところだ。
あわせてよみたい:アマゾン社員は「?」メールに戦々恐々