松下幸之助は「社員は絶対に解雇しない」とは言わなかった 2012年6月29日 ビジネスの書棚 ツイート 2012年3月期に7721億円の最終赤字を計上したパナソニックが、12年度の役員報酬を減額することを決めた。と同時に、日本全国の工場の閉鎖や休止、事業縮小などの大リストラを行い、13年3月期には最終黒字にまで持っていこうとしている。 これに伴い、工場正社員のの早期退職や期間社員切りなどを行うとともに、本社人員にも手をつけることになりそうだ。松下幸之助による旧松下電器産業の創業以来、最大の大ナタと言われるリストラに、社員たちは戦々恐々としている。 幸之助翁といえば、こんな「伝説」がある。人事担当の幹部が病床の翁を見舞い、「会社の業績が低下している。社員を解雇しましょう」と進言したところ、翁が「誰も解雇しません。みな家族やないか」と涙を流して答えた。それを伝え聞いた社員は一念発起し、業績を盛り返したそうだ。 ◇ 「余剰人員とは、貴重な人を無駄に使っていること」 このエピソードは「社員は家族と同じ。絶対に解雇しない」というスローガンとともに、日本的経営の典型的な考え方と言われてきた。この言葉を引いて、今回の大リストラを批判する声もある。 その一方で、幸之助翁は、非常に合理的な経営者であったことには疑いがない。新しい技術の優秀さを見抜く目が鋭かったという指摘もあるが、細かいことは理解せずに「それは儲かるのか」と尋ねたというエピソードもある。 あれだけの大経営者が、会社の存続や儲けを度外視するわけがない、と考えた方が自然だろう。 実際、著書「物の見方 考え方」(PHP文庫)の中で、「無駄な余剰人員」について言及している。そこではやはり「経済活動というものは、本来、合理的でなければならぬのは当然」と言い切っている。 そして、合理性が最も高度に追求されているのがアメリカの会社であり、「各会社が無駄な余剰人員をもっていない」「余剰人員が非常に円滑に配置転換されたり、または適当な会社に移動してゆく」という点を高く評価している。 もちろん、社会的、経済的な背景が違う日本で、まったく同じ事をやってもうまくはいかないが、この点に対して翁は「日本の現状は非常におくれている」と不満を漏らしている。 「日本の各会社がいたずらに余剰人員をかかえて手ばなさない、いや手ばなせない」ことが、「日本経済の発展の一つのブレーキ」になっているとまで言う。要するに余剰人員とは、「貴重な人を無駄に使っていることにほかならぬ」というわけである。 ◇ 連合も社民党も、幸之助翁の本を読み返せ 現在の日本の政治では、民主党が連合と組んで大企業のサラリーマンを保護し、社民党や共産党が非正規労働者の正社員化を訴えている。彼らにとっては人員が同じ会社に固定していることが重要であり、「貴重な人を無駄に使っている」ことにより、会社が従業員の人生を損ねていることに思いが至らないのである。 こう見てみると、「社員は家族と同じ。絶対に解雇しない」という例のスローガンは、本当に翁の意思を反映しているのか、怪しくなってくる。病床の話であるというところも、「もしかして作り話じゃないのか」「病で感傷的になっただけではないか」という疑念を大きくさせる要素になっている。 少なくとも翁は、書籍の中では「余剰人員とは、貴重な人を無駄に使っていること」と書き、「社員は絶対に解雇しない」とは対極的な姿勢を示していることを、ここに指摘しておきたい。 やっぱり松下幸之助の本は、最近のポッと出の自己啓発書よりも、ずっと役に立つ。みんなでリストラをガンガンやって人材流動化を進め、「社会的な配置転換」がダイナミックに図られる時代が来ることを期待したい。 【その他のビジネスの書棚の記事はこちら】
松下幸之助は「社員は絶対に解雇しない」とは言わなかった
2012年3月期に7721億円の最終赤字を計上したパナソニックが、12年度の役員報酬を減額することを決めた。と同時に、日本全国の工場の閉鎖や休止、事業縮小などの大リストラを行い、13年3月期には最終黒字にまで持っていこうとしている。
これに伴い、工場正社員のの早期退職や期間社員切りなどを行うとともに、本社人員にも手をつけることになりそうだ。松下幸之助による旧松下電器産業の創業以来、最大の大ナタと言われるリストラに、社員たちは戦々恐々としている。
幸之助翁といえば、こんな「伝説」がある。人事担当の幹部が病床の翁を見舞い、「会社の業績が低下している。社員を解雇しましょう」と進言したところ、翁が「誰も解雇しません。みな家族やないか」と涙を流して答えた。それを伝え聞いた社員は一念発起し、業績を盛り返したそうだ。
◇
「余剰人員とは、貴重な人を無駄に使っていること」
このエピソードは「社員は家族と同じ。絶対に解雇しない」というスローガンとともに、日本的経営の典型的な考え方と言われてきた。この言葉を引いて、今回の大リストラを批判する声もある。
その一方で、幸之助翁は、非常に合理的な経営者であったことには疑いがない。新しい技術の優秀さを見抜く目が鋭かったという指摘もあるが、細かいことは理解せずに「それは儲かるのか」と尋ねたというエピソードもある。
あれだけの大経営者が、会社の存続や儲けを度外視するわけがない、と考えた方が自然だろう。
実際、著書「物の見方 考え方」(PHP文庫)の中で、「無駄な余剰人員」について言及している。そこではやはり「経済活動というものは、本来、合理的でなければならぬのは当然」と言い切っている。
そして、合理性が最も高度に追求されているのがアメリカの会社であり、「各会社が無駄な余剰人員をもっていない」「余剰人員が非常に円滑に配置転換されたり、または適当な会社に移動してゆく」という点を高く評価している。
もちろん、社会的、経済的な背景が違う日本で、まったく同じ事をやってもうまくはいかないが、この点に対して翁は「日本の現状は非常におくれている」と不満を漏らしている。
「日本の各会社がいたずらに余剰人員をかかえて手ばなさない、いや手ばなせない」ことが、「日本経済の発展の一つのブレーキ」になっているとまで言う。要するに余剰人員とは、「貴重な人を無駄に使っていることにほかならぬ」というわけである。
◇
連合も社民党も、幸之助翁の本を読み返せ
現在の日本の政治では、民主党が連合と組んで大企業のサラリーマンを保護し、社民党や共産党が非正規労働者の正社員化を訴えている。彼らにとっては人員が同じ会社に固定していることが重要であり、「貴重な人を無駄に使っている」ことにより、会社が従業員の人生を損ねていることに思いが至らないのである。
こう見てみると、「社員は家族と同じ。絶対に解雇しない」という例のスローガンは、本当に翁の意思を反映しているのか、怪しくなってくる。病床の話であるというところも、「もしかして作り話じゃないのか」「病で感傷的になっただけではないか」という疑念を大きくさせる要素になっている。
少なくとも翁は、書籍の中では「余剰人員とは、貴重な人を無駄に使っていること」と書き、「社員は絶対に解雇しない」とは対極的な姿勢を示していることを、ここに指摘しておきたい。
やっぱり松下幸之助の本は、最近のポッと出の自己啓発書よりも、ずっと役に立つ。みんなでリストラをガンガンやって人材流動化を進め、「社会的な配置転換」がダイナミックに図られる時代が来ることを期待したい。
【その他のビジネスの書棚の記事はこちら】