「ブラック企業大賞」に外食チェーンがなぜ多い? 厚労省は別枠で指導すべきだ 2014年8月7日 元社員が語る「外食産業」の舞台裏 ツイート すっかり夏本番ですね。皆さんいかがお過ごしでしょうか。この時期といえば、もはや恒例となりつつある「ブラック企業大賞2014」のノミネート企業が7月30日に発表されました。授賞式は9月6日で、前日までウェブ投票を受け付けるそうです。 私はノミネート企業をみて、「やっぱりまた外食チェーンが入ったか」と思いました。第3回の今回も、ヤマダ電機や東京都議会などとともに、居酒屋チェーン「日本海庄や」を運営する大庄がノミネートされていたからです。厚生労働省は、もはや外食チェーンは別枠で労働環境の是正を指導するべきではないでしょうか。(ライター:ナイン) サビ残という「無賃労働」を組み込んだビジネスモデル 実はこれまでも、ブラック企業大賞には、必ず外食チェーンの名前があがっていました。2012年の第1回には、ワタミが最多得票の「市民賞」、「すき家」のゼンショーが「ありえないで賞」に選ばれ、第2回にはワタミが「大賞」となりました。 両社以外にも、すかいらーくや、「ステーキのくいしんぼ」のサン・チャレンジ、「餃子の王将」の王将フードサービスにもノミネート経験があります。今回はワタミとゼンショーの名前がありませんが、おそらく殿堂入りして外されたのでしょう。 なぜ外食チェーンは、こうもブラック労働になるのでしょうか。それはもともとデフレ経済に適応して成長した業種だったからと思われます。特にワタミやゼンショーは、ともにバブル崩壊後の不景気の時代に業績を伸ばしてきました。お給料の上がらないサラリーマンやお金のない学生に、格安の居酒屋や牛丼が強く支持されてきたわけです。 しかし料金を安くしながら、ある程度の原価をかけた食べ物を出すわけですから、切りつめられるのは人件費しかありません。表向きの最低賃金は下回れないので「サービス残業」という無賃労働が支えることになり、これがビジネスモデルに組み込まれてきました。 昔は飲食といえば学生バイトの仕事でしたが、大学進学率の上昇や就職氷河期で、外食チェーンでも大卒を正社員で採ることができるようになりました。それをいいことに、すぐに辞められない正社員を悪用した「サービス残業」が常態化してきたわけです。 「回転」「通し」というブラック飲食の隠語 もうひとつの理由としては、売上至上主義に基づく店舗の「過剰サービス」があると思います。店舗の営業時間は長すぎるし、店の定休日がないのはおかしいのです。 先日発表されたゼンショー第三者委員会の調査報告書によると、牛丼チェーンのすき家では、24時間連続勤務は従業員に「回転」と呼ばれており、店舗勤務歴のある社員のほとんどが経験していたとの声も上がっていたそうです。 私がかつて勤務していたワタミにも「通し」と呼ばれる勤務がありました。開店から閉店までの勤務のことで、勤務時間が14~16時間ほどになります。もちろん、毎日通しをするわけではありませんが、こういった社内用語がよく知られていたことは事実です。 店を開ける時間が長く、人手不足が続く店舗では、当然ながら長時間労働が常態化することになります。その負担は、責任の重い正社員にのしかかります。 これを解決するには、従業員1人ひとりの労働時間をきちんと管理し、働きすぎの従業員は強制的に休ませるしくみをつくることが必要です。 タテマエでなく「実態」を改善すべき しかし現実は、そう簡単にはいきません。ワタミは現状でも、本社に通知が行くしくみになっているのですが、現場では数字を改ざんしてでも、社員がサービス残業を続けざるをえないのです。 それは社員が愚かなのではなく、「社員が休みたければアルバイトを調達すればよい」という人任せのスタンスを会社が取っているからです。バイトを調達できず、できたとしてもすぐに使い物にならなければ、社員がフォローするしかありません。これは以前にも書いたように「ノーコン」という組織ぐるみのカラクリで行われています。 過重労働を根絶するためには、売上最優先を現場に押し付ける「過剰サービス」をやめ、開店時間を短くし、定休日を設けることです。これをやらずに「わが社はブラックではない」などと言い張る経営者は、ブラック経営者と呼ばれることを覚悟すべきです。 あわせてよみたい:ワタミが「ブラック」なのは理念だけでない 現場に責任を押し付ける「会社のカラクリ」 【プロフィール】ナイン北海道在住の20代後半の男性。大学卒業後、居酒屋チェーンWを運営する会社に正社員として入社。都内店舗のスタッフや副店長として約4年間勤務した後、「もう少し発展性のある仕事がしたい」と転職。現場を知る立場から、外食産業を頭ごなしにブラックと批判する声には「違和感がある」という。Twitter/Facebook/ブログ
「ブラック企業大賞」に外食チェーンがなぜ多い? 厚労省は別枠で指導すべきだ
すっかり夏本番ですね。皆さんいかがお過ごしでしょうか。この時期といえば、もはや恒例となりつつある「ブラック企業大賞2014」のノミネート企業が7月30日に発表されました。授賞式は9月6日で、前日までウェブ投票を受け付けるそうです。
私はノミネート企業をみて、「やっぱりまた外食チェーンが入ったか」と思いました。第3回の今回も、ヤマダ電機や東京都議会などとともに、居酒屋チェーン「日本海庄や」を運営する大庄がノミネートされていたからです。厚生労働省は、もはや外食チェーンは別枠で労働環境の是正を指導するべきではないでしょうか。(ライター:ナイン)
サビ残という「無賃労働」を組み込んだビジネスモデル
実はこれまでも、ブラック企業大賞には、必ず外食チェーンの名前があがっていました。2012年の第1回には、ワタミが最多得票の「市民賞」、「すき家」のゼンショーが「ありえないで賞」に選ばれ、第2回にはワタミが「大賞」となりました。
両社以外にも、すかいらーくや、「ステーキのくいしんぼ」のサン・チャレンジ、「餃子の王将」の王将フードサービスにもノミネート経験があります。今回はワタミとゼンショーの名前がありませんが、おそらく殿堂入りして外されたのでしょう。
なぜ外食チェーンは、こうもブラック労働になるのでしょうか。それはもともとデフレ経済に適応して成長した業種だったからと思われます。特にワタミやゼンショーは、ともにバブル崩壊後の不景気の時代に業績を伸ばしてきました。お給料の上がらないサラリーマンやお金のない学生に、格安の居酒屋や牛丼が強く支持されてきたわけです。
しかし料金を安くしながら、ある程度の原価をかけた食べ物を出すわけですから、切りつめられるのは人件費しかありません。表向きの最低賃金は下回れないので「サービス残業」という無賃労働が支えることになり、これがビジネスモデルに組み込まれてきました。
昔は飲食といえば学生バイトの仕事でしたが、大学進学率の上昇や就職氷河期で、外食チェーンでも大卒を正社員で採ることができるようになりました。それをいいことに、すぐに辞められない正社員を悪用した「サービス残業」が常態化してきたわけです。
「回転」「通し」というブラック飲食の隠語
もうひとつの理由としては、売上至上主義に基づく店舗の「過剰サービス」があると思います。店舗の営業時間は長すぎるし、店の定休日がないのはおかしいのです。
先日発表されたゼンショー第三者委員会の調査報告書によると、牛丼チェーンのすき家では、24時間連続勤務は従業員に「回転」と呼ばれており、店舗勤務歴のある社員のほとんどが経験していたとの声も上がっていたそうです。
私がかつて勤務していたワタミにも「通し」と呼ばれる勤務がありました。開店から閉店までの勤務のことで、勤務時間が14~16時間ほどになります。もちろん、毎日通しをするわけではありませんが、こういった社内用語がよく知られていたことは事実です。
店を開ける時間が長く、人手不足が続く店舗では、当然ながら長時間労働が常態化することになります。その負担は、責任の重い正社員にのしかかります。
これを解決するには、従業員1人ひとりの労働時間をきちんと管理し、働きすぎの従業員は強制的に休ませるしくみをつくることが必要です。
タテマエでなく「実態」を改善すべき
しかし現実は、そう簡単にはいきません。ワタミは現状でも、本社に通知が行くしくみになっているのですが、現場では数字を改ざんしてでも、社員がサービス残業を続けざるをえないのです。
それは社員が愚かなのではなく、「社員が休みたければアルバイトを調達すればよい」という人任せのスタンスを会社が取っているからです。バイトを調達できず、できたとしてもすぐに使い物にならなければ、社員がフォローするしかありません。これは以前にも書いたように「ノーコン」という組織ぐるみのカラクリで行われています。
過重労働を根絶するためには、売上最優先を現場に押し付ける「過剰サービス」をやめ、開店時間を短くし、定休日を設けることです。これをやらずに「わが社はブラックではない」などと言い張る経営者は、ブラック経営者と呼ばれることを覚悟すべきです。
あわせてよみたい:ワタミが「ブラック」なのは理念だけでない 現場に責任を押し付ける「会社のカラクリ」
【プロフィール】ナイン
北海道在住の20代後半の男性。大学卒業後、居酒屋チェーンWを運営する会社に正社員として入社。都内店舗のスタッフや副店長として約4年間勤務した後、「もう少し発展性のある仕事がしたい」と転職。現場を知る立場から、外食産業を頭ごなしにブラックと批判する声には「違和感がある」という。Twitter/Facebook/ブログ