【外資系製薬MRが見た「地獄」(第1回)】 敏腕社長の豹変 「寝ずの研修」と「馬乗り殴打」 2013年9月4日 社員の内部告発 ツイート 「社長は、ある大手居酒屋チェーンの会長(当時)に心酔してから変わってしまいました」 ため息まじりに話すのは、つい先日まで都内にある外資系製薬メーカーB製薬の日本法人にMRとして勤めていた長谷川邦夫氏(仮名・54歳)だ。 この欧州に本社を置くB製薬の日本法人の社長にS氏が就任したのは今から10年ほど前。当初は、主力の医療用薬剤を全国の病院に浸透させるべく、日々の事業に注力していたS社長だったが、ある出来事を境に豹変したのだという。 偽りの資料操作から、社長の「疑心暗鬼」へ 「医療用薬剤の販路拡大のためには、ドクターや病院とのパイプ強化が必須です。そこで、S社長は国内の大手製薬のOBを数人雇い入れました。皆さん優秀でしたが、中でも特に優秀だった方が、あることを思いついたのです」 「あること」というのは、厚労省への薬価申請の際、算定根拠となる「通常平均使用料」を何らかの資料操作によって「通常より多く偽る」というもの。 「これで B製薬の収益は一気に増えました。S社長は、この上振れした利益をマンションや高級外車に注ぎ込みました」 これに反発したのが国内大手から来た社員達で、「行動がおかしい」と欧州本社に直訴。しかし、売上は十分だったため、欧州本社も調査はしたもの、結局うやむやに。 俺を裏切った奴がいる――疑心暗鬼になったS社長の暴走が始まった。 「S社長は、欧州本社に直訴した人達を指名解雇しました。そして、遊戯施設のチケット係出身のような業界外の女性を、幹部に登用して自分の周りを固めるようになったのです」 深夜におよぶ洗脳研修で起きた「事件」 さらにS社長は、大手居酒屋チェーン会長に傾倒し始めた。 「実際に交流があったかは不明です。ただ、この会長の著書にある言葉を頻繁に口にするようになり、この居酒屋チェーンを真似た社内イベントも始めました」 イベントには「寝ずの社員研修」なるものがあった。具体的には以下のようなものだ。 社員は、国内にある温泉などの宿泊施設に集合。そこで、何名ずつかの班に分かれ、結束力を測るという名目で、班ごとに1つの絵を描く、ブロックで城を組み立てるなどして競う。 しかし、研修のメインは「事業計画コンペ」と「リストラ候補者検討会議」だった。 「事業計画コンペ」は、S社長が出したテーマで班ごとに事業計画を立てるというもの。 「班ごとに完成した事業計画をS社長に見せに行きますが、かなり待たされる。早い班は内容がOKなら午前1時には解放されますが、順番が回ってくるのが遅かったり計画の作り直しを命じられたりすると、自室に戻るのが深夜4時から5時。食事にありつけない人もいます」 そして長谷川氏はこう続けた。 「順番を待つ間は、私語厳禁。これが長い。頭もボーっとしてきて相手の指示にしか頭が回らなくなります。シェパードにでもなった気分です」 事件は朝起こった。研修での一日はSの訓示で始まるが、Sが「ウトウトしている奴がいる」といってある50代の社員を押し倒し、馬乗りになってボコボコに殴りつけたのだ。 「寝不足でボーっとしている人は他にもいたのですが。結局、彼は解雇されましたが、その際、この件に関する解決金のようなものが支払われたそうです」 長谷川氏は、S社長が社員をひんぱんに殴るのは、居酒屋チェーン会長の「殴られて感謝しろ」というマネジメントを忠実に実行しているからだという。 そして、研修のもう一つのメインが「リストラ候補者検討会議」だ。 (第2回へ続く) [恵比須半蔵(えびすはんぞう)/ノンフィクションライター] ◆ 本コーナーの記事は、キャリコネに寄せられた企業の不正に関する告発情報について、キャリコネ独自に調査を行ったものです。 【その他の「企業インサイダー」記事はこちら】
【外資系製薬MRが見た「地獄」(第1回)】 敏腕社長の豹変 「寝ずの研修」と「馬乗り殴打」
「社長は、ある大手居酒屋チェーンの会長(当時)に心酔してから変わってしまいました」
ため息まじりに話すのは、つい先日まで都内にある外資系製薬メーカーB製薬の日本法人にMRとして勤めていた長谷川邦夫氏(仮名・54歳)だ。
この欧州に本社を置くB製薬の日本法人の社長にS氏が就任したのは今から10年ほど前。当初は、主力の医療用薬剤を全国の病院に浸透させるべく、日々の事業に注力していたS社長だったが、ある出来事を境に豹変したのだという。
偽りの資料操作から、社長の「疑心暗鬼」へ
「医療用薬剤の販路拡大のためには、ドクターや病院とのパイプ強化が必須です。そこで、S社長は国内の大手製薬のOBを数人雇い入れました。皆さん優秀でしたが、中でも特に優秀だった方が、あることを思いついたのです」
「あること」というのは、厚労省への薬価申請の際、算定根拠となる「通常平均使用料」を何らかの資料操作によって「通常より多く偽る」というもの。
「これで B製薬の収益は一気に増えました。S社長は、この上振れした利益をマンションや高級外車に注ぎ込みました」
これに反発したのが国内大手から来た社員達で、「行動がおかしい」と欧州本社に直訴。しかし、売上は十分だったため、欧州本社も調査はしたもの、結局うやむやに。
俺を裏切った奴がいる――疑心暗鬼になったS社長の暴走が始まった。
「S社長は、欧州本社に直訴した人達を指名解雇しました。そして、遊戯施設のチケット係出身のような業界外の女性を、幹部に登用して自分の周りを固めるようになったのです」
深夜におよぶ洗脳研修で起きた「事件」
さらにS社長は、大手居酒屋チェーン会長に傾倒し始めた。
「実際に交流があったかは不明です。ただ、この会長の著書にある言葉を頻繁に口にするようになり、この居酒屋チェーンを真似た社内イベントも始めました」
イベントには「寝ずの社員研修」なるものがあった。具体的には以下のようなものだ。
社員は、国内にある温泉などの宿泊施設に集合。そこで、何名ずつかの班に分かれ、結束力を測るという名目で、班ごとに1つの絵を描く、ブロックで城を組み立てるなどして競う。
しかし、研修のメインは「事業計画コンペ」と「リストラ候補者検討会議」だった。 「事業計画コンペ」は、S社長が出したテーマで班ごとに事業計画を立てるというもの。
「班ごとに完成した事業計画をS社長に見せに行きますが、かなり待たされる。早い班は内容がOKなら午前1時には解放されますが、順番が回ってくるのが遅かったり計画の作り直しを命じられたりすると、自室に戻るのが深夜4時から5時。食事にありつけない人もいます」
そして長谷川氏はこう続けた。
「順番を待つ間は、私語厳禁。これが長い。頭もボーっとしてきて相手の指示にしか頭が回らなくなります。シェパードにでもなった気分です」
事件は朝起こった。研修での一日はSの訓示で始まるが、Sが「ウトウトしている奴がいる」といってある50代の社員を押し倒し、馬乗りになってボコボコに殴りつけたのだ。
「寝不足でボーっとしている人は他にもいたのですが。結局、彼は解雇されましたが、その際、この件に関する解決金のようなものが支払われたそうです」
長谷川氏は、S社長が社員をひんぱんに殴るのは、居酒屋チェーン会長の「殴られて感謝しろ」というマネジメントを忠実に実行しているからだという。
そして、研修のもう一つのメインが「リストラ候補者検討会議」だ。
(第2回へ続く)
[恵比須半蔵(えびすはんぞう)/ノンフィクションライター]
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