人手不足の「介護業界」が標的!? 示談金目的で会社を渡り歩く「労務ゴロ」頻発 2014年6月6日 社員の内部告発 ツイート 猫の手も借りたい介護業界。仕事はハードで給与も高くないので、慢性的な人手不足なのが実態だ。経営者や管理者は介護のプロではあるが、労働法の知識に乏しい人も少なくない。そんな労務の穴をねらったゴロツキ、通称「労務ゴロ」に、業界がねらわれているという。 今年の春、ある介護会社に40代後半の女性が面接に訪れた。業界経験者でやる気もあるというので、喜んで採用したところ、入社から2週間後に態度が豹変。ありもしないセクハラやパワハラをでっちあげ、「こんな会社、もういられないので2ヶ月分の給料を払ってください!」と経営者に要求してきたという。 労組の幹部が怒鳴り込み「訴えてやる!」 経営者が「ちょっと考えさせて欲しい」とためらうと、この女性が駆け込んだという労働組合の幹部から連絡があり、「この会社の経営はまるでなってない」「こちらには専門の弁護士もいる。裁判に持ち込んでやる!」と怒鳴り込んできた。 ハラスメントは全くのウソだけれども、残業時間を適正に管理していないなど、会社に後ろめたいところがないわけではない。恫喝のショックで夜も寝られないし、できるだけ早く出て行って欲しい――。そんな思いで、経営者は要求されたカネを支払った。 やりきれない思いを抱えながら、親しい同業者にこの話を打ち明けたところ、「同じような話を他の業者から聞いたことがある」という。そこで、女性の名前を明かすと、なんと同じ女性がまったく同じ手口で、同業者からお金を脅し取っていたことが分かった。 経営者はそこで初めて、この女性が最初から恫喝を目的に会社に入ったことや、労働組合や弁護士を自称する人たちとグルになっていたことに気づいた。しかし、時すでに遅し…。 このような手口は、実は以前から「労働ゴロ」「労務ゴロ」と呼ばれ、存在が知られている。法的な知識が豊富な大企業を相手にせず、管理が手薄な中小・零細企業をターゲットにする。ある中小企業の経営者は、知人の経営者から「仲裁金目当ての労働紛争示談金ゴロの被害にあったようだ」と相談を受け、ブログに怒りをぶちまけている。 「世間に知られてないところで、中小経営者が、弱者をかたる詐欺まがいの自称”被害者”の餌食にされています。…まじめに働いている人間にしてみれば、そんな連中に自分たちの汗の結晶が掠め取られていくわけですから、不条理極まりない話です」 専門家「事前準備と初期対応が大事」 特定社会保険労務士の野崎大輔氏によると、人手不足につけこんだ「労務ゴロ」が最近介護業界で増えており、複数の事業所を統括する管理者が「同一人物の退職勧奨を2回した」という笑い話のようなケースまで起こっているという。経営者からのSOSを受けて、野崎氏が労働組合との団体交渉に臨むこともある。 「いわゆる『労務ゴロ』で入ってくるのは、一見するとデキそうに見える人なんですよね。それで採用してしまうと、しばらくはおとなしく仕事をしているんですが、15日目以降に豹変します。それは試用期間中の者で14日を超えて雇用されたら、解雇する場合には解雇予告手当が必要になるからなのです」 会社が設けた3ヶ月の試用期間を経て、「正社員の身分」を得たとたんに変わるケースもある。こういう人は、トラブルがあっても自分から「辞める」とは決して言わず、会社側に「辞めろ」と言うように仕向ける。自分から退職すれば、解雇予告手当はもらえないからだ。 労働基準法の規制を、巧みに悪用しているということだろうか。しかし、そこまで業界で頻発しているのであれば、「ブラックリスト」を作って情報を共有できないものなのか。 「それが難しいんです。労働基準法の22条に”会社が労働者のブラックリストを作って回覧してはいけない”と解釈できる規定があるんですね。使用者が労働者の就職を妨害させないためにできたものですが…。これでは被害を減らせないです」 とはいえ、面接だけで「労務ゴロ」を見極めることは難しい。野崎氏は「重要なのは初期対応」で、トラブルに慣れていない経営者が感情的なことを口走って大火事になる前に、信頼できる専門家へ相談すべきだという。 また、事前の備えとして、就業規則をきちんと整備し、「解雇事由」などを明確に定めておくことが必要だという。もちろん根本的な対策として、いわれのない要求を突き返すことができるように、労働環境の改善を図っておくことも重要だ。 ※「労務ゴロ」の体験談がありましたら、こちらからお寄せ下さい。
人手不足の「介護業界」が標的!? 示談金目的で会社を渡り歩く「労務ゴロ」頻発
猫の手も借りたい介護業界。仕事はハードで給与も高くないので、慢性的な人手不足なのが実態だ。経営者や管理者は介護のプロではあるが、労働法の知識に乏しい人も少なくない。そんな労務の穴をねらったゴロツキ、通称「労務ゴロ」に、業界がねらわれているという。
今年の春、ある介護会社に40代後半の女性が面接に訪れた。業界経験者でやる気もあるというので、喜んで採用したところ、入社から2週間後に態度が豹変。ありもしないセクハラやパワハラをでっちあげ、「こんな会社、もういられないので2ヶ月分の給料を払ってください!」と経営者に要求してきたという。
労組の幹部が怒鳴り込み「訴えてやる!」
経営者が「ちょっと考えさせて欲しい」とためらうと、この女性が駆け込んだという労働組合の幹部から連絡があり、「この会社の経営はまるでなってない」「こちらには専門の弁護士もいる。裁判に持ち込んでやる!」と怒鳴り込んできた。
ハラスメントは全くのウソだけれども、残業時間を適正に管理していないなど、会社に後ろめたいところがないわけではない。恫喝のショックで夜も寝られないし、できるだけ早く出て行って欲しい――。そんな思いで、経営者は要求されたカネを支払った。
やりきれない思いを抱えながら、親しい同業者にこの話を打ち明けたところ、「同じような話を他の業者から聞いたことがある」という。そこで、女性の名前を明かすと、なんと同じ女性がまったく同じ手口で、同業者からお金を脅し取っていたことが分かった。
経営者はそこで初めて、この女性が最初から恫喝を目的に会社に入ったことや、労働組合や弁護士を自称する人たちとグルになっていたことに気づいた。しかし、時すでに遅し…。
このような手口は、実は以前から「労働ゴロ」「労務ゴロ」と呼ばれ、存在が知られている。法的な知識が豊富な大企業を相手にせず、管理が手薄な中小・零細企業をターゲットにする。ある中小企業の経営者は、知人の経営者から「仲裁金目当ての労働紛争示談金ゴロの被害にあったようだ」と相談を受け、ブログに怒りをぶちまけている。
専門家「事前準備と初期対応が大事」
特定社会保険労務士の野崎大輔氏によると、人手不足につけこんだ「労務ゴロ」が最近介護業界で増えており、複数の事業所を統括する管理者が「同一人物の退職勧奨を2回した」という笑い話のようなケースまで起こっているという。経営者からのSOSを受けて、野崎氏が労働組合との団体交渉に臨むこともある。
会社が設けた3ヶ月の試用期間を経て、「正社員の身分」を得たとたんに変わるケースもある。こういう人は、トラブルがあっても自分から「辞める」とは決して言わず、会社側に「辞めろ」と言うように仕向ける。自分から退職すれば、解雇予告手当はもらえないからだ。
労働基準法の規制を、巧みに悪用しているということだろうか。しかし、そこまで業界で頻発しているのであれば、「ブラックリスト」を作って情報を共有できないものなのか。
とはいえ、面接だけで「労務ゴロ」を見極めることは難しい。野崎氏は「重要なのは初期対応」で、トラブルに慣れていない経営者が感情的なことを口走って大火事になる前に、信頼できる専門家へ相談すべきだという。
また、事前の備えとして、就業規則をきちんと整備し、「解雇事由」などを明確に定めておくことが必要だという。もちろん根本的な対策として、いわれのない要求を突き返すことができるように、労働環境の改善を図っておくことも重要だ。
※「労務ゴロ」の体験談がありましたら、こちらからお寄せ下さい。