痴漢で逮捕されちゃった… これも上司にホウレンソウ?【弁護士に言っちゃうぞ(5)】 2014年1月10日 弁護士に言っちゃうぞ ツイート 「思わず魔が差してしまいました」とうつむくのは、都内の広告代理店に勤めるA氏(29歳・男性)。新年会で酔っぱらい、電車の中で20代の女性会社員に痴漢をしてしまった。周りの男性客に取り押さえられ、駆けつけた警察官に突き出されたという。 さいわい被害者が示談に応じる意思を示してくれて、翌日に処分保留で釈放された。会社には遅刻はしたが出社できたため、今回の件は社員の耳に入っていないが、もしバレたらと思うと気が気でない。 「やっぱり自分から、上司に報告したほうがよいのでしょうか」 昨年には娘が生まれ、30年ローンでマンションを買ったばかり。昇任試験も控えている。正直に報告してクビになったらたまらないし、潔癖症の妻も離婚を言い出しかねない。 はたして、こういうときはどうすればいいのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞いてみた。 「業務外のトラブル」は報告する義務なし ――痴漢、アカン。痴漢はれっきとした犯罪です。絶対にやめましょう。しっかりと反省しているようですが、もう二度としないでくださいね。被害者の女性の心に深い傷を負わせることになりますし、中には通勤電車に乗ることが出来なくなってしまう女性もいるようです。自分の恋人や娘がされたときのことを考えて、しっかりと理性を保ってくださいね。 さて、今回のご相談ですが、痴漢をして警察に捕まったことを会社に報告する義務はあるのでしょうか。 今回のように、会社の業務とは関係なく問題を起こした場合、それは個人の私生活上のトラブルということになります。そして、従業員には、私生活上のトラブルについてまで会社に報告すべき法的義務はありません。したがって、会社に対して痴漢で捕まったことを報告する義務はないことになります。 とはいえ、突然逮捕されると会社を遅刻や欠勤しなければならず、業務に支障がでることは明らかでしょう。遅刻や欠勤について何も連絡もしないとなると、無断遅刻、無断欠勤となり、懲戒処分をされたり、最悪の場合クビになったりするかもしれません。 そうならないためにも、遅刻や欠勤等により業務に支障が出る場合は、会社に連絡を入れるべきです。理由を必ず聞かれることとなりますしね。 逮捕された場合には弁護人を選任することができますから、そうした場合は会社に対する関係を選任した弁護人へ任せてしまった方がよいでしょう。その場合、弁護士には守秘義務がありますから、いたずらに痴漢したことを会社に伝えることはありません。 今回は、結局処分保留で釈放されたとのことですから、そのあたりの会社への報告等は無事に済んだということなのでしょう。会社も遅刻・欠勤等の報告さえあればそこまで深入りしてこないはずです。もしも、しつこく何があったのか聞かれたとしても、答える必要はありません。 「痴漢だけでの解雇」は難しい とはいえ、内緒にしていることに耐えきれなくなって話してしまった場合、会社は痴漢で捕まったことを理由にAさんを解雇できるのでしょうか。 解雇をするには、解雇を相当とする正当な理由が必要なのですが、痴漢をして捕まったことのみでは、正当な理由と認められない可能性が高いです。今回の相談者さんは痴漢をしたことを認めていますが、本人が痴漢を否定している場合には、企業側には特に慎重な配慮が求められます。 裁判例では、痴漢をした社員に対する解雇が有効とされた事例が存在しますが、これは、社員が鉄道会社の社員であったこと、半年前にも痴漢で処分されていることという特殊な事情があったからだと思われます。 今回はそうした特殊な事情が存在しないようですので、たとえ痴漢で捕まったことを報告しても解雇となる可能性は低く、仮に解雇になったとすれば、違法な解雇として争っていけるでしょう。そもそも業務に支障が出ていないのであれば、報告する必要はないと思いますよ。 あわせてよみたい:社員の始末書や反省文 実は逆効果? 【取材協力弁護士 プロフィール】 刈谷 龍太(かりや りょうた)弁護士(東京弁護士会所属)。中央大学法科大学院修了。 司法修習第64期。 弁護士法人アディーレ法律事務所 パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を専門に扱う部署に所属。 問題点を的確についたシャープな切り口が持ち味。趣味はサッカー。 公式ブログ「こちら弁護士刈谷龍太の労働相談所」 頼れる刑事弁護なら≪http://www.adire-bengo.jp/≫
痴漢で逮捕されちゃった… これも上司にホウレンソウ?【弁護士に言っちゃうぞ(5)】
「思わず魔が差してしまいました」とうつむくのは、都内の広告代理店に勤めるA氏(29歳・男性)。新年会で酔っぱらい、電車の中で20代の女性会社員に痴漢をしてしまった。周りの男性客に取り押さえられ、駆けつけた警察官に突き出されたという。
さいわい被害者が示談に応じる意思を示してくれて、翌日に処分保留で釈放された。会社には遅刻はしたが出社できたため、今回の件は社員の耳に入っていないが、もしバレたらと思うと気が気でない。
昨年には娘が生まれ、30年ローンでマンションを買ったばかり。昇任試験も控えている。正直に報告してクビになったらたまらないし、潔癖症の妻も離婚を言い出しかねない。
はたして、こういうときはどうすればいいのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞いてみた。
「業務外のトラブル」は報告する義務なし
――痴漢、アカン。痴漢はれっきとした犯罪です。絶対にやめましょう。しっかりと反省しているようですが、もう二度としないでくださいね。被害者の女性の心に深い傷を負わせることになりますし、中には通勤電車に乗ることが出来なくなってしまう女性もいるようです。自分の恋人や娘がされたときのことを考えて、しっかりと理性を保ってくださいね。
さて、今回のご相談ですが、痴漢をして警察に捕まったことを会社に報告する義務はあるのでしょうか。
今回のように、会社の業務とは関係なく問題を起こした場合、それは個人の私生活上のトラブルということになります。そして、従業員には、私生活上のトラブルについてまで会社に報告すべき法的義務はありません。したがって、会社に対して痴漢で捕まったことを報告する義務はないことになります。
とはいえ、突然逮捕されると会社を遅刻や欠勤しなければならず、業務に支障がでることは明らかでしょう。遅刻や欠勤について何も連絡もしないとなると、無断遅刻、無断欠勤となり、懲戒処分をされたり、最悪の場合クビになったりするかもしれません。
そうならないためにも、遅刻や欠勤等により業務に支障が出る場合は、会社に連絡を入れるべきです。理由を必ず聞かれることとなりますしね。
逮捕された場合には弁護人を選任することができますから、そうした場合は会社に対する関係を選任した弁護人へ任せてしまった方がよいでしょう。その場合、弁護士には守秘義務がありますから、いたずらに痴漢したことを会社に伝えることはありません。
今回は、結局処分保留で釈放されたとのことですから、そのあたりの会社への報告等は無事に済んだということなのでしょう。会社も遅刻・欠勤等の報告さえあればそこまで深入りしてこないはずです。もしも、しつこく何があったのか聞かれたとしても、答える必要はありません。
「痴漢だけでの解雇」は難しい
とはいえ、内緒にしていることに耐えきれなくなって話してしまった場合、会社は痴漢で捕まったことを理由にAさんを解雇できるのでしょうか。
解雇をするには、解雇を相当とする正当な理由が必要なのですが、痴漢をして捕まったことのみでは、正当な理由と認められない可能性が高いです。今回の相談者さんは痴漢をしたことを認めていますが、本人が痴漢を否定している場合には、企業側には特に慎重な配慮が求められます。
裁判例では、痴漢をした社員に対する解雇が有効とされた事例が存在しますが、これは、社員が鉄道会社の社員であったこと、半年前にも痴漢で処分されていることという特殊な事情があったからだと思われます。
今回はそうした特殊な事情が存在しないようですので、たとえ痴漢で捕まったことを報告しても解雇となる可能性は低く、仮に解雇になったとすれば、違法な解雇として争っていけるでしょう。そもそも業務に支障が出ていないのであれば、報告する必要はないと思いますよ。
あわせてよみたい:社員の始末書や反省文 実は逆効果?
【取材協力弁護士 プロフィール】
刈谷 龍太(かりや りょうた)
弁護士(東京弁護士会所属)。中央大学法科大学院修了。 司法修習第64期。 弁護士法人アディーレ法律事務所
パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を専門に扱う部署に所属。 問題点を的確についたシャープな切り口が持ち味。趣味はサッカー。 公式ブログ「こちら弁護士刈谷龍太の労働相談所」 頼れる刑事弁護なら≪http://www.adire-bengo.jp/≫