夜はマッサージ、土日はネットビジネス 副業しないとやってられない!―弁護士に言っちゃうぞ(6) 2014年1月20日 弁護士に言っちゃうぞ ツイート T氏(31歳・男性)が勤務するシステム開発の会社では、副業で稼いでいる社員が複数いる。 ある日、T氏の同僚S氏が会社帰りにマッサージに寄ったところ、庶務課の20代女子社員がアルバイトしていたそうだ。「おまけするから内緒にして」と懇願されたそうだが、実はこのS氏自身も副業をしている。 もともと電機メーカーの技術職だった同僚S氏は、週末に近所や知人から不要になった家電を譲り受け、修理してネット販売しているという。T氏はこういぶかる。 「ウチは給料が安いので気持ちは分からなくはないですが、やっぱりこれって問題じゃないでしょうか」 たしかに副業は勤務時間外とはいえ、その収入が増えれば本業に身が入らなくなるのではないか。家電のネット販売は、月に3万程度の収入だそうだが、 「マッサージのバイトなんか、もっと稼いでいるはずです。ウチのヒラ社員の基本給と変わらないかも」 そうなると、どちらが本業なのか、ということになるだろう。加えて副業で疲れたまま会社に来られては、T氏ら他の社員の負担が増える可能性もある。 社員の副業は許されるのだろうか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞いてみた。 会社は余暇の使い方に口出しできる ――昼間はできるOLで、夜は蝶になって舞うNo.1ホステス…昼間はさえないサラリーマンだけど、裏の顔はエリートサラリーマン…なんて設定のフィクションを見た記憶があります。 このように、ひとくちに副業といってもさまざまなものが考えられますが、一般的には、主として働いているところ「以外」から収入を得る手段がある場合、それを「副業」というようです。 したがって、夜の仕事も副業ですし、家電を修理してネットで販売することも副業です。継続的に株式を売買することで儲けている場合もまた副業ということになるでしょう。 「じゃあ休みの日のパチンコや競馬も副業にあたるの?」 という声が聞こえてきそうですが、毎日ならともかく、たまの休みに息抜き程度で副業にあたるというには違和感があります。そもそも企業は従業員の「副業」を禁止することができるのでしょうか。 実は、無制限ではないにしろ、企業は従業員の副業について制限をすることができると考えられています。従業員からすれば、アフター5まで縛られたくないでしょうが、会社もまた業務を円滑に行うため、ある程度は従業員の私生活についても踏み込む必要があるのです。 建設会社の女性社員がキャバレーでアルバイトしていた事例で裁判所は、 「本来、アフター5や余暇というのは、その日の疲れを取って翌日またちゃんと仕事ができるようにするために使われるべきであるので、その使い方に口を出すことも認められる」 と言っています。 会社の信用を傷つけるものも「NG」 とはいえ、企業が制限できる副業の範囲は広くありません。本来個人が自由に使うべき時間に対する制約ですから、一般的に、業務遂行に必要不可欠な範囲で口を出すことができるというべきでしょう。 たとえば、幼稚園の先生が副業でホステスをしていて、園児の親御さんがお客さんで来てしまった場合、空気が凍りつくことは容易に想像できますね。自分のことは棚に上げて「あんな先生のいる幼稚園はダメだ!」などとクレームを付けてくるかもしれません。つまり、雇用する側の信用問題になります。 だとすれば普通の会社なら、女性社員が風俗でアルバイトするのは、当然会社の対外的な信用に影響するでしょう。したがって、こうした副業を禁止し、違反した場合に処分するのは、合理性がありそうです。 他方で、個人的な趣味の範囲で株式の売買をしている者に対してこれを禁止するのは、やり過ぎだということになるでしょう。業務に支障がないのであれば、基本的に何をしようが個人の自由だということです。 なお、就業規則で「副業」を禁止していた場合は、それが合理的な制限であるか否かが、規則の有効性を考える上で大事になります。 規則に違反したとして解雇されると、そもそも禁止自体が違法なため解雇も無効である、として争うことになりますが、そのような場合はむしろ副業が原因で本業の方に支障が生じたかが争われるでしょう。 たとえば「副業で夜更かししたため、翌日の大事な取引に寝坊してしまった」という場合は、副業自体よりそうした勤務態度が問題視されることになるでしょう。節度をもって副業をするよう気をつけてくださいね。 あわせてよみたい: 会社の給与、意味不明な「天引き」が多すぎる! 刈谷 龍太(かりや りょうた)弁護士(東京弁護士会所属)。中央大学法科大学院修了。 司法修習第64期。 弁護士法人アディーレ法律事務所 パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を専門に扱う部署に所属。 問題点を的確についたシャープな切り口が持ち味。趣味はサッカー。 公式ブログ「こちら弁護士刈谷龍太の労働相談所」
夜はマッサージ、土日はネットビジネス 副業しないとやってられない!―弁護士に言っちゃうぞ(6)
T氏(31歳・男性)が勤務するシステム開発の会社では、副業で稼いでいる社員が複数いる。
ある日、T氏の同僚S氏が会社帰りにマッサージに寄ったところ、庶務課の20代女子社員がアルバイトしていたそうだ。「おまけするから内緒にして」と懇願されたそうだが、実はこのS氏自身も副業をしている。
もともと電機メーカーの技術職だった同僚S氏は、週末に近所や知人から不要になった家電を譲り受け、修理してネット販売しているという。T氏はこういぶかる。
たしかに副業は勤務時間外とはいえ、その収入が増えれば本業に身が入らなくなるのではないか。家電のネット販売は、月に3万程度の収入だそうだが、
そうなると、どちらが本業なのか、ということになるだろう。加えて副業で疲れたまま会社に来られては、T氏ら他の社員の負担が増える可能性もある。
社員の副業は許されるのだろうか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞いてみた。
会社は余暇の使い方に口出しできる
――昼間はできるOLで、夜は蝶になって舞うNo.1ホステス…昼間はさえないサラリーマンだけど、裏の顔はエリートサラリーマン…なんて設定のフィクションを見た記憶があります。 このように、ひとくちに副業といってもさまざまなものが考えられますが、一般的には、主として働いているところ「以外」から収入を得る手段がある場合、それを「副業」というようです。
したがって、夜の仕事も副業ですし、家電を修理してネットで販売することも副業です。継続的に株式を売買することで儲けている場合もまた副業ということになるでしょう。
という声が聞こえてきそうですが、毎日ならともかく、たまの休みに息抜き程度で副業にあたるというには違和感があります。そもそも企業は従業員の「副業」を禁止することができるのでしょうか。
実は、無制限ではないにしろ、企業は従業員の副業について制限をすることができると考えられています。従業員からすれば、アフター5まで縛られたくないでしょうが、会社もまた業務を円滑に行うため、ある程度は従業員の私生活についても踏み込む必要があるのです。
建設会社の女性社員がキャバレーでアルバイトしていた事例で裁判所は、
と言っています。
会社の信用を傷つけるものも「NG」
とはいえ、企業が制限できる副業の範囲は広くありません。本来個人が自由に使うべき時間に対する制約ですから、一般的に、業務遂行に必要不可欠な範囲で口を出すことができるというべきでしょう。
たとえば、幼稚園の先生が副業でホステスをしていて、園児の親御さんがお客さんで来てしまった場合、空気が凍りつくことは容易に想像できますね。自分のことは棚に上げて「あんな先生のいる幼稚園はダメだ!」などとクレームを付けてくるかもしれません。つまり、雇用する側の信用問題になります。
だとすれば普通の会社なら、女性社員が風俗でアルバイトするのは、当然会社の対外的な信用に影響するでしょう。したがって、こうした副業を禁止し、違反した場合に処分するのは、合理性がありそうです。
他方で、個人的な趣味の範囲で株式の売買をしている者に対してこれを禁止するのは、やり過ぎだということになるでしょう。業務に支障がないのであれば、基本的に何をしようが個人の自由だということです。
なお、就業規則で「副業」を禁止していた場合は、それが合理的な制限であるか否かが、規則の有効性を考える上で大事になります。
規則に違反したとして解雇されると、そもそも禁止自体が違法なため解雇も無効である、として争うことになりますが、そのような場合はむしろ副業が原因で本業の方に支障が生じたかが争われるでしょう。
たとえば「副業で夜更かししたため、翌日の大事な取引に寝坊してしまった」という場合は、副業自体よりそうした勤務態度が問題視されることになるでしょう。節度をもって副業をするよう気をつけてくださいね。
あわせてよみたい: 会社の給与、意味不明な「天引き」が多すぎる!
刈谷 龍太(かりや りょうた)
弁護士(東京弁護士会所属)。中央大学法科大学院修了。 司法修習第64期。 弁護士法人アディーレ法律事務所
パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を専門に扱う部署に所属。 問題点を的確についたシャープな切り口が持ち味。趣味はサッカー。 公式ブログ「こちら弁護士刈谷龍太の労働相談所」