毎朝のラジオ体操 「仕事じゃないから労働時間外」っておかしくない? 2014年4月7日 弁護士に言っちゃうぞ ツイート 「これって、一種のタダ働きじゃないですか…」 そう首をひねるのは、都内の中小メーカーで働く20代男性Sさん。会社の就業時間は8時半から17時半まで。始業時には会社指定の作業服に着替えて整列し、みんなでラジオ体操をして社訓を唱和します。 その後、当番社員が達成課題を述べる「決意表明」を行います。これが終わると各自が担当する業務に就き、これに要する時間は30分ほどです。入社当初は「意味あるのかな…」と思っていましたが、いまは慣れてしまいました。 ところが最近、社長が始業時間を9時に後ろ倒しにし、就業時間も18時までにしようと言い出しました。ただし、体操や唱和の開始は同じ時間のまま。仕事前の「ならし運転」に過ぎないのだから、労働時間から外そうというわけです。 Sさんは「本当?」と驚きましたが、他のベテラン社員は、社長が言うことに逆らえないと諦め顔です。こういうことは、コンプライアンス的に問題にならないのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に聞いてみました。 会社指定の作業服に着替える時間も「労働時間」 ――どこからどこまでが就業時間として認められるか、というのは難しく思われがちです。就職した企業によって違っていたり、「何となく周りがそうしているから」と、きちんとした基準が分からないまま、なあなあになってしまってはいないでしょうか。 実際に何かを生み出していない時間は、就業時間として認められないのではないかと思ってしまう方もいるかもしれませんが、実はそうではありません。 労働時間とは、使用者の指揮命令下で、労働力を提供した時間をいいます。労働契約、就業規則等で定められていなくても、客観的に使用者の指揮命令下で労働力を提供したといえるのであれば労働時間となります。 まず、作業の準備・整理等を行う時間は労働時間となります。裁判例でも、作業服、保護具の装着及び更衣、実作業終了後の作業服等の脱離の各時間について、労働時間制を認めています。今回のケースでも、会社指定の作業服に着替える時間は労働時間にあたります。 社内イベントも「事実上の強制」なら労働時間になる また、社内のイベントでも参加の強制がなく自由参加のものは、労働時間にはなりませんが、事実上参加を強制されるイベントは労働時間となります。 今回のケースでは、みんなでラジオ体操して社訓を唱和し、その後、各社員がその日の達成課題を挙げる「決意表明」が行われるということですが、強制参加が義務づけられているため、これらの時間は労働時間にあたります。 社長は、着替えなんて実際の業務ではないし、社訓唱和や決意表明は仕事前の「ならし運転のようなもの」だと説明し、会社はこれらを行う時間を今度から「非労働時間」として扱おうとしていますが、これらが労働時間にあたることが明白なので、会社はこの時間に相当する賃金を支払う必要があります。 これらの念入りな準備段階があってこそ、初めて業務が成り立っているという事を会社側はきちんと理解するべきですね。 逆に言えば、給与を支払わないのであれば、一連の朝の会は強制参加の義務を強いることはできなくなります。遅刻者や欠席者が出ても、会社側は文句を言えません。しかしそれでは、従来のような円滑な業務運営に支障をきたすでしょう。 「企業側はきちんと企業としての義務を果たし、労働者も自らの義務を果たす」 この信頼関係があってこそ、初めて業務が成り立つという事を改めて認識できるいい事例ですね。 あわせてよみたい:会社の「天引き」が多すぎる 【取材協力弁護士 プロフィール】 岩沙 好幸(いわさ よしゆき)弁護士(第二東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。頼れる労働トラブル解決なら≪http://www.adire-roudou.jp/≫
毎朝のラジオ体操 「仕事じゃないから労働時間外」っておかしくない?
そう首をひねるのは、都内の中小メーカーで働く20代男性Sさん。会社の就業時間は8時半から17時半まで。始業時には会社指定の作業服に着替えて整列し、みんなでラジオ体操をして社訓を唱和します。
その後、当番社員が達成課題を述べる「決意表明」を行います。これが終わると各自が担当する業務に就き、これに要する時間は30分ほどです。入社当初は「意味あるのかな…」と思っていましたが、いまは慣れてしまいました。
ところが最近、社長が始業時間を9時に後ろ倒しにし、就業時間も18時までにしようと言い出しました。ただし、体操や唱和の開始は同じ時間のまま。仕事前の「ならし運転」に過ぎないのだから、労働時間から外そうというわけです。
Sさんは「本当?」と驚きましたが、他のベテラン社員は、社長が言うことに逆らえないと諦め顔です。こういうことは、コンプライアンス的に問題にならないのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に聞いてみました。
会社指定の作業服に着替える時間も「労働時間」
――どこからどこまでが就業時間として認められるか、というのは難しく思われがちです。就職した企業によって違っていたり、「何となく周りがそうしているから」と、きちんとした基準が分からないまま、なあなあになってしまってはいないでしょうか。
実際に何かを生み出していない時間は、就業時間として認められないのではないかと思ってしまう方もいるかもしれませんが、実はそうではありません。
労働時間とは、使用者の指揮命令下で、労働力を提供した時間をいいます。労働契約、就業規則等で定められていなくても、客観的に使用者の指揮命令下で労働力を提供したといえるのであれば労働時間となります。
まず、作業の準備・整理等を行う時間は労働時間となります。裁判例でも、作業服、保護具の装着及び更衣、実作業終了後の作業服等の脱離の各時間について、労働時間制を認めています。今回のケースでも、会社指定の作業服に着替える時間は労働時間にあたります。
社内イベントも「事実上の強制」なら労働時間になる
また、社内のイベントでも参加の強制がなく自由参加のものは、労働時間にはなりませんが、事実上参加を強制されるイベントは労働時間となります。
今回のケースでは、みんなでラジオ体操して社訓を唱和し、その後、各社員がその日の達成課題を挙げる「決意表明」が行われるということですが、強制参加が義務づけられているため、これらの時間は労働時間にあたります。
社長は、着替えなんて実際の業務ではないし、社訓唱和や決意表明は仕事前の「ならし運転のようなもの」だと説明し、会社はこれらを行う時間を今度から「非労働時間」として扱おうとしていますが、これらが労働時間にあたることが明白なので、会社はこの時間に相当する賃金を支払う必要があります。
これらの念入りな準備段階があってこそ、初めて業務が成り立っているという事を会社側はきちんと理解するべきですね。
逆に言えば、給与を支払わないのであれば、一連の朝の会は強制参加の義務を強いることはできなくなります。遅刻者や欠席者が出ても、会社側は文句を言えません。しかしそれでは、従来のような円滑な業務運営に支障をきたすでしょう。
この信頼関係があってこそ、初めて業務が成り立つという事を改めて認識できるいい事例ですね。
あわせてよみたい:会社の「天引き」が多すぎる
【取材協力弁護士 プロフィール】
岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
弁護士(第二東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。頼れる労働トラブル解決なら≪http://www.adire-roudou.jp/≫