• 【弁護士が解説】こんな「内定取り消し」は違法?! 知っておきたい「内定」のアレコレ

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    いったんは内定を出した会社側に「やっぱり不採用」と言われてしまった……。新しい職場への期待が一転、将来への不安に変わってしまう「内定取り消し」。人生を狂わせかねない深刻な問題で、経済的・精神的ダメージにつながるケースも少なくない。

    本来、気軽に取り消されたらたまったものではないのだが、世の中にはてのひら返しをしてくる会社もあるようで……。では「内定取り消し」は、法律的にはどんな扱いになるのだろうか? 実際の裁判例をもとに、弁護士に分かりやすく解説してもらった。

    こんにちは。弁護士の林たかまさです。今回は【内定取消が違法】となった事件を解説します。

    ※ 争いを一部抜粋して簡略化し、判決の本質を損なわないように注意しつつ、一部フランクな会話に変換しています。

    事件のあらまし

    転職先の会社から内定をもらったXさん。

    会社
    「ハローワークから紹介状をもらってきてください」

    Xさん
    「はい」

    〜 数日後 〜

    Xさん
    「ハローワークが紹介状を出せないと言ってます」

    会社
    「補助金が受給できないじゃないですか。あなたの給料を下げていいですか」
    Xさん
    「(え…)2万円までなら」

    〜 数日後 〜

    会社
    「不採用にします」

    ーーー 裁判官、こりゃダメでしょ!

    裁判所
    「だね。この内定取り消しは違法。177万+慰謝料50万をはらえ」

    以下、わかりやすく解説します。

    登場人物

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ▼ 会社
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ・紡績糸、織物の製造販売などを行う会社

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ▼ Xさん
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ・おそらく60歳手前
    ・再就職先を探していた

    どんな事件か

    Xさんが転職を考えていたところ、ある人物の紹介で今回の会社の社長と会うことになりました。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ▼ 会社訪問1
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    H23.12.15
    Xさんは会社を訪問して、社長と面談しました。面接みたいなものです。およそ2時間。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ▼ 前の会社を辞める
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    H24.2
    Xさんは前の会社に退職届けを出しました。3.20で辞めると記載していました。なのに3週間後に、転職が決まった会社から内定を取り消され、絶望です。詳しくはのちほど。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ▼ 会社訪問2
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    H24.3.17
    Xさんは会社に履歴書を持っていきました。社長は自分の息子と従業員をXさんに紹介しました。4人の打ち合わせは約40分ほど。社長はXさんに対して具体的な仕事内容を説明しました。そして社長は「ハローハークからトライアル雇用の紹介状をもらってきてほしい」と伝えました。

    しかし、ハローワークは「その体裁の紹介状を交付できない」と言いました。前の会社の職種と転職先の職種が同じという理由で交付できなかったようです。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ▼ 会社訪問3
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    社長は、トライアル雇用の紹介状を持ってこれなかったXさんを非難しました。理由は「その紹介状がなければ補助金を受けとれない」というものでした。社長は「かわりにあなたの給料から補助金分を差し引かせてほしい」と言いました。Xさんは「月額2万円までしか出せない」と回答。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ▼ 不採用通知
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    H24.4.12
    会社はXさんに不採用通知を出しました。補助金を受給できないことが理由だと思うんですが、通知書には以下の理由が記載されていました。

    ====
    ・前の会社を辞めた理由について質問したところ、Xさんが前の会社の社長を中傷した
    ・前の会社でのXさんの素行が悪かった
    ・期限切れの紹介状を持ってきた
    ====

    Xさんは会社に電話しましたが、社長は「通知書に書かれとおりだ」と答え電話を切りました。

    Xさんが提訴。

    裁判所のジャッジ

    裁判所
    「内定の取消しは違法」
    「会社はXさんに177万円払え(得られたであろう賃金)」
    「慰謝料も50万円はらえ」

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ▼ こんな理由で内定を取り消せね〜
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    会社が挙げたこの理由。

    ====
    前の会社を辞めた理由について質問したところ、Xさんが前の会社の社長を中傷した
    前の会社でのXさんの素行が悪かった
    ====

    裁判所は「その事実が認められたとしても、それらはどちらも内定の際に社長が知ることが期待できた事実」と一蹴しました。

    以下の理由についても。
    ====
    期限切れの紹介状を持ってきた
    ====
    裁判所は「内定を解約する合理性を基礎づける事実とは到底いえない」と一蹴。

    会社からの内定の取消しはゲキムズ

    まず、会社が内定を取り消しても裁判所で違法になるケースがほとんどです。

    なぜなら、内定の取消しは解雇とほぼ同じだからです。日本の法律では解雇するのはメチャクチャ難しいのですが(労働契約法第16条)、それに匹敵するくらい内定の取消しも難しいんです。

    Q.
    なぜ、内定の取消しと解雇はほぼ同じなんですか?

    林.
    内定=契約だからです。正式名称は「始期付解約留保付労働契約」と言います。かまずに言えたことがありません。【内定を取り消す=契約を一方的に破棄する】なので、そんなカンタンには認められないのです。

    Q.
    どんな場合に内定の取消しがOKになるんですか?

    林.
    「こいつ、こんなヤベー奴だったんだ!知らなかったわ…」って時です。裁判所はこんな時に内定取消しはOKになると言ってます → 「採用内定当時、知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的に認められ社会通念上相当して是認することができる場合」です。

    内定者からの辞退は基本OK

    会社が内定を取り消すことはゲキムズなんですが、内定者からの辞退は基本OKなんです。

    ====
    民法627条第1項
    当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
    ====

    Q.
    え?会社の承諾はいらないんですか?

    林.
    はい。「辞退します」と一方的に告げるだけでOKです。恋人と別れる時と同じです。

    Q.
    「内定を辞退したら違約金を支払う」という書面にサインしたのですが…

    A.
    安心してください。そんな書面は労働基準法16条違反なので無効death。 
    ====
    使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
    ====

    さいごに

    内定はチョー強ぇぇです。内定取消のトラブルにあった方は、労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。

    労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。

    今回は以上です。これからも職場トラブルに対処するための知恵をお届けしていきます!

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