「フン、解体屋か。とっとと持ってけ」 取引先の屈辱的な扱いに奮起した社長の信念 2014年9月9日 キャリコネNEWS ツイート 石川県金沢市にある会宝(かいほう)産業は、自動車部品の取引額で業界最王手の自動車解体業者。工場には「あいさつ日本一、きれいな工場世界一」という言葉が掲げられ、朝は社是を全員で読み上げ挨拶を練習する様子は、まるで接客業のようだ。 2014年9月4日放送のテレビ東京「カンブリア宮殿」では、小さな町工場を世界74カ国と取り引きするグローバル企業へと成長させた会宝産業・近藤典彦氏の取り組みを紹介した。 解体業を「誇りある仕事」にしたい 「汚い所にはお客様は来たがらない」と工場にはチリひとつ落ちておらず、トイレの便器にいたるまでピカピカだ。夏に行われる「会宝リサイクルまつり」では、車の「解体ショー」が大盛況。リサイクルへの貢献をアピールしている。 小池栄子の「社員教育で心掛けていることは?」との質問に、近藤社長はこう答えた。 「我々の仕事は『リサイクル業よりもサービス業』という観念を植え付けたい。皆が『お客様のために何ができるか』と考える会社にしたい」 ここまでするワケは、近藤社長の「解体業を誇りある仕事にする」という強い信念があるからだ。45年前、裸一貫で同社を設立。早朝から夜更けまで身を粉にして働いていたが、世間からは冷たい目で見られる厳しい現実があった。 自動車販売店を訪ねたある日、店員から「フン、解体屋か。とっとと持ってけ」と屈辱的な扱いを受ける。不用品を扱うことでクズ屋のようなイメージがあったのだ。 以来、解体屋のイメージを覆すために、社員教育に力を入れた。挨拶や掃除の徹底から始まり、車の解体技術者の資格を作り、人材育成の研修センターも立ち上げる。 さらに業界に呼びかけ、「RUM(ラム)アライアンス」という団体もつくった。全国18の自動車解体業者が加盟し、よりよいリサイクル方法を研究。環境保全に貢献しようというものだ。 埼玉のある加盟業者は「意識が変わった。車を壊してただ儲ければいい、というところから離れる」と話した。海外からの広いニーズに応えながら利益も増大している。 中東からの顧客に「海外への目が開かれた」 しかし会宝産業は、最初から海外取引をしていたのではなかった。廃車をクズ鉄にして売っていた小さな町工場に転機が訪れたのは1991年のこと。中東のクエートから来た男性が、工場にあった部品を200万円ですべて買い取っていったのだ。 「日本だとスクラップにしかならないのに、海外には中古部品が確実に売れる。これは面白いなということで、海外貿易をはじめた」 近藤社長が世界に目を向けた瞬間だった。そこでエンジンを倉庫に整然と並べ、品質を「見える化」すべく、独自の性能検査でラベル表示。中古部品の在庫情報をネットに公開し、世界中から発注できるようにした。 多言語に対応するため、英語はもちろん、ロシア語やスペイン語、中国語を話すスタッフも揃えた。筆者が会社のウェブサイトを見てみると、「海外営業」を担当する求人も掲載されていた。 自国に自動車メーカーがない国では、エンジンを載せ替えて中古車に乗り続けるのも常識で、日本の中古車部品は世界中から引く手あまたとなる。現在では各国のバイヤーが泊まり込みで良い部品を押さえに来るほどだ。 ロシアのウラジオストクでは、日本からの中古部品が仕入れ価格の3倍で売れる。部品を買いに来た転売会社は、「買うなら日本から来たパーツ。状態がいいからね」と話していた。 「環境を良くすることで成長する経済」目指す 近藤社長は、素材から新車をつくる製造業は、人体に例えるなら「動脈産業」で、廃車を再び資源に戻す解体・リサイクル業は「静脈産業」とのことだ。その意味を改めて村上龍に尋ねられると、こう答えた。 「循環なくして身体が正常に機能しないのと同様に、すべてにおいて循環型にしないと、地球はもたなくなると危惧する。今までは、環境を悪くして経済を成長させてきたが、今度は『環境を良くすることで成長する経済』をつくらなくてはならない」 日本の解体技術を広めるプロジェクトとして、アフリカ・ナイジェリアでは解体技術を実地で教えているそうだ。0から新製品をつくることと同様、もしかしたらそれ以上に中古品を蘇らせるには技術や手間が必要なのかもしれない。解体業をエコ活動と考える高い志と誇りがあることを感じた。(ライター:okei) 最新記事は@kigyo_insiderをフォロー/キャリコネ編集部Facebookに「いいね!」をお願いします
「フン、解体屋か。とっとと持ってけ」 取引先の屈辱的な扱いに奮起した社長の信念
石川県金沢市にある会宝(かいほう)産業は、自動車部品の取引額で業界最王手の自動車解体業者。工場には「あいさつ日本一、きれいな工場世界一」という言葉が掲げられ、朝は社是を全員で読み上げ挨拶を練習する様子は、まるで接客業のようだ。
2014年9月4日放送のテレビ東京「カンブリア宮殿」では、小さな町工場を世界74カ国と取り引きするグローバル企業へと成長させた会宝産業・近藤典彦氏の取り組みを紹介した。
解体業を「誇りある仕事」にしたい
「汚い所にはお客様は来たがらない」と工場にはチリひとつ落ちておらず、トイレの便器にいたるまでピカピカだ。夏に行われる「会宝リサイクルまつり」では、車の「解体ショー」が大盛況。リサイクルへの貢献をアピールしている。
小池栄子の「社員教育で心掛けていることは?」との質問に、近藤社長はこう答えた。
ここまでするワケは、近藤社長の「解体業を誇りある仕事にする」という強い信念があるからだ。45年前、裸一貫で同社を設立。早朝から夜更けまで身を粉にして働いていたが、世間からは冷たい目で見られる厳しい現実があった。
自動車販売店を訪ねたある日、店員から「フン、解体屋か。とっとと持ってけ」と屈辱的な扱いを受ける。不用品を扱うことでクズ屋のようなイメージがあったのだ。
以来、解体屋のイメージを覆すために、社員教育に力を入れた。挨拶や掃除の徹底から始まり、車の解体技術者の資格を作り、人材育成の研修センターも立ち上げる。
さらに業界に呼びかけ、「RUM(ラム)アライアンス」という団体もつくった。全国18の自動車解体業者が加盟し、よりよいリサイクル方法を研究。環境保全に貢献しようというものだ。
埼玉のある加盟業者は「意識が変わった。車を壊してただ儲ければいい、というところから離れる」と話した。海外からの広いニーズに応えながら利益も増大している。
中東からの顧客に「海外への目が開かれた」
しかし会宝産業は、最初から海外取引をしていたのではなかった。廃車をクズ鉄にして売っていた小さな町工場に転機が訪れたのは1991年のこと。中東のクエートから来た男性が、工場にあった部品を200万円ですべて買い取っていったのだ。
近藤社長が世界に目を向けた瞬間だった。そこでエンジンを倉庫に整然と並べ、品質を「見える化」すべく、独自の性能検査でラベル表示。中古部品の在庫情報をネットに公開し、世界中から発注できるようにした。
多言語に対応するため、英語はもちろん、ロシア語やスペイン語、中国語を話すスタッフも揃えた。筆者が会社のウェブサイトを見てみると、「海外営業」を担当する求人も掲載されていた。
自国に自動車メーカーがない国では、エンジンを載せ替えて中古車に乗り続けるのも常識で、日本の中古車部品は世界中から引く手あまたとなる。現在では各国のバイヤーが泊まり込みで良い部品を押さえに来るほどだ。
ロシアのウラジオストクでは、日本からの中古部品が仕入れ価格の3倍で売れる。部品を買いに来た転売会社は、「買うなら日本から来たパーツ。状態がいいからね」と話していた。
「環境を良くすることで成長する経済」目指す
近藤社長は、素材から新車をつくる製造業は、人体に例えるなら「動脈産業」で、廃車を再び資源に戻す解体・リサイクル業は「静脈産業」とのことだ。その意味を改めて村上龍に尋ねられると、こう答えた。
日本の解体技術を広めるプロジェクトとして、アフリカ・ナイジェリアでは解体技術を実地で教えているそうだ。0から新製品をつくることと同様、もしかしたらそれ以上に中古品を蘇らせるには技術や手間が必要なのかもしれない。解体業をエコ活動と考える高い志と誇りがあることを感じた。(ライター:okei)
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