• ライバルは巨人でも阪神でもなく「東京ディズニーランド」だ!?――横浜DeNAベイスターズ「第2幕」への新挑戦(後編)

    プロ野球の球団経営は赤字が当たり前で、親会社が赤字を補てんして運営するものと思われている。しかし、東北楽天イーグルスは初年度から黒字を達成し、考え方の転換を図るチームも出てきている。

    従来の球団は広告効果など、本業への間接的な貢献で評価されることが多い。そんな中、横浜DeNAベイスターズは積極的な事業展開で、球団の単独採算を目指している。

    どのような考え方で球団経営を行っているのか。また「第2幕」としてスタートする4年目のシーズンはどのようなものになるのか。第1回(前編)第2回(中編)に引き続き、球団広報の村田喜直さんに聞いてみた。

    「毎試合3万人の動員でも赤字」をどうリカバーするか

    ――球団経営において、球場への観客動員数「以外」に目標としている指標はありますか?

    横浜DeNAベイスターズ・オンラインショップ(C)YDB

    村田:数字で分かりやすいのは、グッズの売り上げですね。今季はオンラインショップを一新させて、ウェブ限定の商品も増えました。年々、オンラインショップの売上も伸びています。

    応援グッズは観戦のときに使うので、今までは球場のショップに来ないと買えませんでした。でも、たとえばニコニコ生放送で観戦するファンが、グッズを身に付けて応援してもいいですよね。あとはファンクラブの会員数。これも2014年度は前年比で約1.5倍、一昨年比では約4倍に伸びています。

    ――球場以外の取り組みも重要になってきているのでしょうか?

    「I☆(ラブ)YOKOHAMA」(C)YDB

    村田:昨季は「I ☆(ラブ)
    YOKOHAMA」というスローガンを掲げて、より地域密着を打ち出しました。他球団ファンも含めて球場全体で、「横浜愛」を打ち出すメッセージが込められています。ポスターやステッカーを、商店など多くの人に貼ってもらえました。

    球場を離れても、ステッカーを貼っているレストランや居酒屋があって、関内エリアを「ベースボールタウン」として盛り上げられれば、観光地としてもっと賑うのではと思っています。

    ――周辺事業に力を入れている理由を教えてください。

    特に女性ファンクラブ会員の伸びが「約4.5倍」と顕著だ(C)YDB

    村田:イベント、グッズ、地域密着の取り組みなど、私たち事業系スタッフの役割は「健全経営」のためにあります。球団事業を全力で盛り上げていくのがミッションです。

    球場に毎試合3万人入って満員になっても、動員収入だけではまだ赤字のままなんですよね。より「健全な経営」を目指したい。でも今の時代、テレビ放映権料を当てにするのも難しくなりました。やはりお客様に球場に来てもらったうえで、グッズ販売、ニコニコ生放送のような新しい放映権料など、新しい収益源を模索していく必要があるんです。

    首都圏球団ならではの「悩みと可能性」

    ――そういえば球場で、イニング間に「鳩サブレー」の豊島屋がイベントをやっていますね。

    スターナイトユニフォームを着用する横浜銀行の皆さん(C)YDB

    村田:スポンサー企業に参画してもらうのも、球場内エンターテインメントの向上であり、収益化施策の一つです。

    応援いただく地元企業の数も年々増えており、今季はボックスシートと「YOKOHAMA
    STAR☆NIGHT」というイベントでのスポンサーという形で、横浜銀行さんにスポンサーになっていただきました。

    球団やイベントが盛り上がって、そこに広告価値があると認めていただければ、球団自体のスポンサーでなくても「イベントスポンサー」のような方法で収入を増やせますよね。そういう状況を全力でつくるのが、事業系スタッフの務めだといえます。

    ――従来の球団経営とは、一線を画して考える必要がありますね?

    球場スタッフや警備員のユニフォームも2015年から一新。より一体感のあるスタジアムになるかも

    村田:チームで言えば巨人や阪神はもちろんライバルです。でも、事業面で球団をエンターテインメントビジネスと考えるならば、首都圏にはライバルとなる魅力的なコンテンツが数多くありますよね。地元・神奈川県の人も、通勤や観光で多くの人が東京に流れています。

    例えば、東京から浦安のディズニーランドに行くのと、横浜スタジアムに行くのと、時間的にはそんなに変わらない。しかし今の時点では、多くの人がディズニーランドを選んでいます。首都圏の球団にとって、「最たるライバルは東京ディズニーランド」と言うこともできるかもしれません。

    ――そういう意味の「ライバル」の多い状況は、地方都市の球団とは違いますね。

    ハマスタキャンプの様子(C)YDB

    村田:地方は地元メディアが強いので、まだ試合が地上波で放送されています。ただ、首都圏の方は情報感度が高いので、価値の高い企画をすればそれだけ反応が返って来やすいというメリットもあります。

    例えばグラウンドにテントを張って家族でキャンプをする「ハマスタキャンプ」という企画も、NHKの全国ニュースに取り上げてもらい、大きな反響がありました。

    さらに「ライバル」から学ぶことも非常に多いです。球場内の誘導や警備も、ディズニーランドのホスピタリティに近づけば、もっと心地よい空間になっていきますよね。イベントや球場演出にも、活かせるところがたくさんあると思います。企画系のスタッフは研修も兼ねて、様々な人気スポットに赴いていますよ。

    「おしゃれな街・横浜」のイメージに球団をリンクさせたい

    ――今季は「第2幕、始まる」と特設サイトもできて、発表会も大々的に行われましたね。

    「+B(プラス・ビー)」。球団名を冠さないグッズ展開は日本球界初の試みだ

    村田:昨季から始まっているのですが、セレクトショップのビームス社と「BAYSTARS with BEAMS」としてグッズを展開しています。

    球場以外にビームス横浜の店舗にも置いてあって、「DeNAベイスターズはよく知らないけど、カッコイイから買っちゃった」という状況が少しでも作れればと思っているんです。

    横浜という街って「おしゃれ」じゃないですか。おしゃれな人も多い。だからコテコテの応援グッズのほかにも、街中でも着られるものがあっていいんじゃないかと。

    なので、今季は新ブランドグッズ「+B(プラス・ビー)」の展開もやっていこうと決まっています。DeNAベイスターズもおしゃれになっていけたらと思いますし、球場・野球でないところからDeNAベイスターズに触れてもらって、野球のほうに少しずつ寄ってきてもらう。そういう取り組みができたらな、と思っています。

    ――新しい取り組みはまさに「継承と革新」というスローガンどおりですね。

    球団マスコットも新ユニフォームに

    村田:参入から3年という区切りがあって、「次の3年」というわけではないですが、球団全体のブランドイメージをまた少しずつ新たにしていこうと考えています。

    もちろんここも「継承と革新」。これまで育ててきたものを捨てるというわけではありません。ただ、いままでやってきたことの繰り返しにはしたくない。3年かけてやっと育ったものを、もっと良くすること。一方で、全く新しいことにチャレンジすること。その両方が大事だと思っています。

    昔からのファンも大事にしています。ファンクラブも充実させています。でも、一人で使える額にはある程度限りがありますよね。だから年に1、2回でも観戦してくれるファンを増やし、ファンの裾野を広げることが球団戦略としては大事になってきます。彼らがやがて階段をのぼって、コアなファンになってくれれば、それもまたありがたいことですからね。

    監督も選手も「アイラブ・ヨコハマ!」

    ・バックナンバー
    【第1回:ITベンチャーの参入で「常にアイデアを生み出せる球団」に変わった
    【第2回:映画『ダグアウトの向こう』が、あえて選手の「聖域」を撮影した理由

    あわせてよみたい:中畑監督がチーム一新で宣言「今年はもう勝つしかない」――横浜DeNAベイスターズ「第2幕」発表会詳報

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