退職1年後に「未払い残業代」の請求が! もう終わったことではないのか 2015年4月3日 キャリコネNEWS ツイート Aさんは、とある中小デザイン事務所の経営者。1年前に退職したBさんから「未払い残業代」の請求を受け取り、戸惑っています。 Aさんの会社では、3人の創業メンバーが7年前に設立。仕事が増えてきたので、4年前に中途採用を2人迎えました。しかし彼らは、徹夜も辞さずに仕事をこなす創業メンバーのスピードについてこられず、相次いで1年前後で退職していきました。 「月2万円の固定残業代」が慣例なのに その後も採用しては退職することを繰り返していましたが、そのうち丸2年働いたBさんが、退職してから1年も経ってから「残業代を支払って欲しい」といってきたのです。 しかしAさんとしては在籍中ならともかく、辞めて1年も経ってから請求してくることに不信感をぬぐえません。それに会社は月2万円の固定残業代しか支払わないことが慣例になっており、それ以上支払わないのは全員が知っていることです。 そこでAさんは、Bさんに「そんなお金は払えない」と突っぱねましたが、Bさんは「法的措置も辞さない」と連絡してきました。このような請求は正当に認められるのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙弁護士に聞いてみました。 ――残業代を請求する人は、会社を辞めてすぐに請求することが多いですが、Bさんは1年も経ってから請求していますね。会社からしてみたら、1年以上も前のことをいまさら…と思うかもしれません。 会社では、給料の締め日と支給日が決められており、残業代も基本給と一緒に支給日に支払われることが多いです。そして、支給日から2年が経過した後、会社が消滅時効を主張すると、残業代は原則として請求できなくなります。 3つの条件をクリアすれば「固定」でも問題ない 例えば、給料が毎月20日締め、当月28日払いの会社で働いていて、今日が平成27年4月1日だったとしましょう。このときは、平成25年4月1日~平成27年4月1日の間にある各給料支払日に払われるはずだった残業代は請求できます。 これに対して、平成25年3月以前の給料支払日に支払われるはずだった残業代は、2年以上経過しているため請求できないことになります。 Bさんは2年間働いて退職し、退職してから1年経過してから残業代を請求してきたとのことです。前述のとおり消滅時効は2年なので、会社は2年以上前の給料支払日に支払うべき残業代については支払う必要ありませんが、まだ2年経過していないBさんの最後の1年分の残業代は法律上支払う必要がありますね。 ただし、会社は月2万円の固定残業代を支払っているとのことです。固定残業代制度とは、残業代をあらかじめいくら支払うと決めて、基本給に上乗せする賃金体系のことです。この制度は、 (1)固定残業代がカバーする時間と賃金額が把握可能であること(2)残業代と基本給が最低賃金を上回っていること(3)固定残業代制度がカバーする残業時間を上回って残業した場合はその上回った分の残業代を支払うこと という条件をクリアしていれば、問題ありません。 時効が延びたり請求額が倍になったりすることも Aさんの会社では、月2万円の固定残業代しか支払わないことが慣例になっており、それ以上支払わないのは全員が知っていることとのことです。 しかし(3)で述べた通り、固定残業代制度がカバーする残業時間を上回って残業した場合はその上回った分の残業代を支払うことが必要なので、会社が超過分を支払っていないのであれば支払う必要がでてきます。超過してしまっているか知る方法としては、 〔定額残業代=(賃金総額-定額残業代)÷月平均所定労働時間×割増率×時間外労働時間数〕 で計算をしてみるのがよいでしょう。また、(1)および(2)の条件をクリアしているかをAさんは再度確認した方がよいでしょう。 なお、会社が長年にわたって意図的に従業員の労働時間把握を怠った場合などによって、時効が延びる可能性もあります。残業代の未払いが悪質な場合には、残業代の2倍の金額を請求できることもあります。 したがって残業代の未払いは、思いがけず大きな経営リスクとなるのです。残業代を支払うと人件費が増大し、会社の経営を圧迫することは必然ですが、残業代は法律上支払うべきものなので、Aさんには残業代を支払ってでも利益が出る会社経営をしていただきたいですね。 【取材協力弁護士 プロフィール】 岩沙 好幸(いわさ よしゆき) 弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』。ブログ『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。 *2015年4月30日まで期間延長! 弁護士法人アディーレ法律事務所では、残業代に関する完全報酬制のキャンペーンを実施中。 あわせてよみたい:「弁護士に言っちゃうぞ」バックナンバー
退職1年後に「未払い残業代」の請求が! もう終わったことではないのか
Aさんは、とある中小デザイン事務所の経営者。1年前に退職したBさんから「未払い残業代」の請求を受け取り、戸惑っています。
Aさんの会社では、3人の創業メンバーが7年前に設立。仕事が増えてきたので、4年前に中途採用を2人迎えました。しかし彼らは、徹夜も辞さずに仕事をこなす創業メンバーのスピードについてこられず、相次いで1年前後で退職していきました。
「月2万円の固定残業代」が慣例なのに
その後も採用しては退職することを繰り返していましたが、そのうち丸2年働いたBさんが、退職してから1年も経ってから「残業代を支払って欲しい」といってきたのです。
しかしAさんとしては在籍中ならともかく、辞めて1年も経ってから請求してくることに不信感をぬぐえません。それに会社は月2万円の固定残業代しか支払わないことが慣例になっており、それ以上支払わないのは全員が知っていることです。
そこでAさんは、Bさんに「そんなお金は払えない」と突っぱねましたが、Bさんは「法的措置も辞さない」と連絡してきました。このような請求は正当に認められるのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙弁護士に聞いてみました。
――残業代を請求する人は、会社を辞めてすぐに請求することが多いですが、Bさんは1年も経ってから請求していますね。会社からしてみたら、1年以上も前のことをいまさら…と思うかもしれません。
会社では、給料の締め日と支給日が決められており、残業代も基本給と一緒に支給日に支払われることが多いです。そして、支給日から2年が経過した後、会社が消滅時効を主張すると、残業代は原則として請求できなくなります。
3つの条件をクリアすれば「固定」でも問題ない
例えば、給料が毎月20日締め、当月28日払いの会社で働いていて、今日が平成27年4月1日だったとしましょう。このときは、平成25年4月1日~平成27年4月1日の間にある各給料支払日に払われるはずだった残業代は請求できます。
これに対して、平成25年3月以前の給料支払日に支払われるはずだった残業代は、2年以上経過しているため請求できないことになります。
Bさんは2年間働いて退職し、退職してから1年経過してから残業代を請求してきたとのことです。前述のとおり消滅時効は2年なので、会社は2年以上前の給料支払日に支払うべき残業代については支払う必要ありませんが、まだ2年経過していないBさんの最後の1年分の残業代は法律上支払う必要がありますね。
ただし、会社は月2万円の固定残業代を支払っているとのことです。固定残業代制度とは、残業代をあらかじめいくら支払うと決めて、基本給に上乗せする賃金体系のことです。この制度は、
という条件をクリアしていれば、問題ありません。
時効が延びたり請求額が倍になったりすることも
Aさんの会社では、月2万円の固定残業代しか支払わないことが慣例になっており、それ以上支払わないのは全員が知っていることとのことです。
しかし(3)で述べた通り、固定残業代制度がカバーする残業時間を上回って残業した場合はその上回った分の残業代を支払うことが必要なので、会社が超過分を支払っていないのであれば支払う必要がでてきます。超過してしまっているか知る方法としては、
で計算をしてみるのがよいでしょう。また、(1)および(2)の条件をクリアしているかをAさんは再度確認した方がよいでしょう。
なお、会社が長年にわたって意図的に従業員の労働時間把握を怠った場合などによって、時効が延びる可能性もあります。残業代の未払いが悪質な場合には、残業代の2倍の金額を請求できることもあります。
したがって残業代の未払いは、思いがけず大きな経営リスクとなるのです。残業代を支払うと人件費が増大し、会社の経営を圧迫することは必然ですが、残業代は法律上支払うべきものなので、Aさんには残業代を支払ってでも利益が出る会社経営をしていただきたいですね。
【取材協力弁護士 プロフィール】
岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』。ブログ『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。
*2015年4月30日まで期間延長! 弁護士法人アディーレ法律事務所では、残業代に関する完全報酬制のキャンペーンを実施中。
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