• 中国の「象牙ブーム」がイスラム過激派の資金源に 密猟を取り締まる日本人女性の怒り

    「アフリカゾウの涙」ホームページより

    2015年4月6日放送の「未来世紀ジパング」(テレビ東京)が取り上げたのは、経済発展の著しいアフリカ・ケニア。日本企業が続々と進出し、世界戦略として位置付ける様子を紹介する一方で、野生動物たちを取り巻く環境の異変を伝えていた。

    首都ナイロビの空港を出ると、すぐそばに野生動物が暮らす広大な大地が広がる。遠目とはいえ住宅街が見える距離にキリンが歩き、高層ビルの数キロ手前にシマウマの群れがいる。そんな中、世界中から観光客が訪れ大人気なのが、親を失くした子象を保護して野生に返すシェルドリック動物孤児院だ。

    工芸品店に並ぶ彫刻。600万円もする品も

    親を失った原因のほとんどは、象牙の密猟によるものだ。密猟を取り締まるレンジャーは、「(密猟は)ケニアだけではなく、アフリカ全体の問題なんです」と厳しい表情で話す。

    背景にあるのは、中国の「象牙ブーム」。中国では象牙が高値で取引され、投資目的にもなっている。中国の工芸品店にはおびただしい数の象牙彫刻が並び、600万円の品もあった。

    象牙の国際取引は1989年ワシントン条約により禁止となったが、禁止以前のものは合法。さらに密猟による象牙も広く出回っている。

    多くの野生動物が生息するマサイマラ国立保護区では、密猟者を取り締まる「マラコンサーパンシー」というレンジャー組織があり、日本人女性の滝田明日香さんも属している。

    滝田さんはアフリカの野生動物に魅せられ、2000年ナイロビ大学獣医学部に入学、2005年にケニアで獣医として活動を始めた。2006年には、野生動物を守りたいとレンジャーにも参加。訓練された犬を使って密猟者を追跡するエキスパートだ。

    実態を広く知ってもらうため、「アフリカゾウの涙」という団体も立ち上げた。ウェブサイトには「象牙を買わないでね!」と書かれている。

    「動物を絶滅に追いやるビジネスはいらない。象牙は象のもので、人間のものじゃない」

    滝田さんはパトロールの車を走らせながらこう話し、「牙が地面まで届くような象が昔はいっぱいいた。今はもうほとんど殺されてしまった」と寂しそうに語った。

    一橋大・米倉教授「日本の象牙印鑑ブームが火付け役」

    保護区のパトロールは、ライフルで武装する命がけのものだ。これまで63人ものレンジャーが命を落とした。番組では密猟者が仕掛けたワイヤー式の残酷なワナを映し出した。

    深夜の逮捕劇もあった。逃げ遅れたのは若い男3人だったが、直前まで数百人規模で組織的な密猟をしていた。ケニア東部の大学で148人が死亡した事件の犯人とされるイスラム過激派組織「アルシャバブ」も、象牙密猟を重要な資金源にしているという。

    一橋大学イノベーション研究センター教授の米倉誠一郎氏は、象牙密猟は日本にも無関係ではないとしてこう解説した。

    「1960年代の(日本の)象牙の印鑑ブームが火付け役。本当に全面的に取引を禁止しないと、僕たちの世代で象が絶滅してしまう危機的状況です」

    滝田さんも「アジアの需要を満たすために、アフリカ人レンジャーとアフリカ人密猟者が殺し合いしている。それを多くの人が分かっていない」と冷静に諭すような口調で語っていた。動物たちが犠牲になるのを少しでも食い止めようと、命がけで努力を続ける滝田さんの言葉には、強い怒りが込められていた。(ライター:okei)

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