家事代行支援が起こす「暮らし向上」のインパクト サービスの第一人者に聞く「日本人はどう変わる?」 2015年4月10日 キャリコネNEWS ツイート 「女性の活躍」を掲げたアベノミクス成長戦略で、一躍脚光を浴びているのが「家事代行サービス」だ。他人に家事を代行してもらうことで、自分や家族のための時間を増やすことができる。「家事は女性がやるもの」という固定観念が強かった日本人にとって、意識の変革を迫られる出来事だ。 「家事代行サービス」の市場規模は大きく拡大すると予想されているが、実際はどうなのか。一般社団法人全国家事代行サービス協会の高橋ゆき副会長に、現在の状況や今後の展望などについて、聞いてみることにした。 夫婦の時間は逼迫状態「介護と同じことが起こる」 野村総研の調査(2014年7月)によると、家事支援サービス自体の認知は73%と高い。しかしその内訳は、「利用したことがある」との回答がわずか3%にすぎず、残りの7割の人たちは「サービスは知っているが、利用したことはない」ということになる。 なぜ、利用したことがないのか。多く回答を集めたのは「他人に家の中に入られることに抵抗があるため」(47%)というプライバシーの問題と、「所得に対して価格が高いと思われるため」(45%)という価格に関する抵抗感だ。 しかし日本では、少子高齢化などで暮らし方の「大きな変革」が求められる。すでに保育、介護分野ではニーズに制度が追いつかなくなり、低賃金、人手不足、サービス供給不足といった負のスパイラルに陥っている感がある。 反面、女性の社会参加が政府によって推進され、夫婦の時間はまさに逼迫状態だ。高橋さんは「親の介護も、わずか20数年前まで息子や娘がみるのが当たり前と思われていた」と振り返り、未来をこう指摘した。 「高齢化が進んで被介護者が急増し、『なぜ他人にお金を出してやらせるのか』と言っていられなくなりました。国は事業者を増やさなければならない。でも、担い手がいない。これと同じことが、家事でも起ころうとしているわけです」 確かに日本人には心理的な障壁として「家のことは自分たちでやるべき」という意識があり、家政婦やお手伝いさんは「金持ちが使うもの」というイメージがある。実際に高橋さんも、香港で仕事をしながらの育児を経験するまでは、そうしたイメージを持っていたという。 利用者アンケートに多い「夫婦ゲンカが減った」の声 しかし、香港で優秀な「家事のプロ」に出会うことで、「帰宅したら部屋は綺麗。アイロンがけも済んである。何もすることがない」といった体験をした。夫や息子との会話も増え、日本に帰国後も利用したいと思ったが、日本には「家政婦」「ハウスクリーニング」「便利屋」といったサービスしかなかった。 「日本で専門の清掃業者は、思い切って頼むものでした。家政婦も、お金持ちが使うもの。夫にそのことを話したら『じゃあ、産業を創ろう』と言ってくれて、1999年に夫婦で、ベアーズという会社を起業したんです」 同社は現在、家事代行のみならず、ベビーシッターや高齢者支援とサービスの幅を広げ、必要なときに必要に応じた家事サービスを受けることができる。利用者は年々増加しており、2014年の案件はベアーズのみで20万件以上。たとえば掃除・洗濯のみなら、1時間2350円とリーズナブルだ。 利用者アンケートには、顕著に多い声が3つある。それは「夫婦ゲンカが減った」「ママが優しくなったと言われた」「(妻が)若返ったと言われる」というものだ。それまでストレスフルだった家庭に、家事代行サービスが余裕をもたらすことが分かる。 最近の利用者の傾向としては、共働きで育児中の家庭のほかに、子どものいない夫婦(DINKS)や高齢者家庭、さらには単身者の利用も増えているそうだ。震災などを機に「暮らし方を変えよう」と行動する人が増えたのでは、と高橋さんはいう。 「プライベートの時間を家族と過ごすなど、『自分でないといけない』ことに使い、自分以外の人でもできる家事はアウトソーシングする。それで得た時間を、お金には代えられない価値のある暮らし方をしたい、という人が増えているんです」 「我が国最大の潜在力」である女性の力を活かすために ニーズの増加を見越して、参入企業も増えている。そうなると大事なのは「サービスの担い手」の地位向上だ。現在ベアーズ社では55歳以上の担い手が多く、人生の先輩が20代・30代の子育て世代を支援する「社会の好循環」ができつつあるという。 確かに50代以上の女性たちは、これまで「家事のキャリア」を苦労して培ってきた。これを活かせる場が新たにできたら、新たな雇用創出にもつながる。 「『お客様は神様』の時代は終わった。これからは『お客様はお互い様』の時代。人生のキャリアを持った人たちが、子育て中・働き盛りの人たちのサポートをしてくれる。血縁を超えた信頼関係ができるし、心の支えにもなる」 政府の「日本再興戦略(改訂2014)」でも「女性が輝く社会」を実現するための方策として、「安価で安心な家事支援サービスを利活用できる環境整備を図ること」を掲げている。 これを受けて協議会では、事業者の取組指針となる「家事支援サービス事業者ガイドライン」を策定し、今後は事業者認証制度などを作成し、より安心して利用できる枠組づくりに注力していく。 さらに、高橋さんは今後国に対して、日常の生活を支援する「暮らし向上支援バウチャー」や税制控除のようなものを国に提案していくという。2010年から実施された「子ども手当」は金銭で支給されたが、東北大学の調査によると73.4%の世帯が「(子どもの生育環境は)実質的にあまり変わらない」と回答している。 「育児から介護まで、経済が新たなフィールドで動く時代になった。日本はこれまでトラブルが起こらないと対処してこなかったが、これから大事なのは『暮らし向上』に着目して、平常時に少しずつ『暮らし』という単位のサポートをすることだと思います」 日本再興戦略は女性の力を「我が国最大の潜在力」とし、これを最大限発揮できるようにすることは「家庭や地域の価値を大切にしつつ、社会全体に活力を与えることにもつながる」としている。足元の家庭や家事、暮らしの見直し・支援・向上がもたらすものは、思いがけなく大きいものになるかもしれない。 あわせてよみたい:出産女性が仕事を続けないのは「おじさん管理職」のせい?
家事代行支援が起こす「暮らし向上」のインパクト サービスの第一人者に聞く「日本人はどう変わる?」
「女性の活躍」を掲げたアベノミクス成長戦略で、一躍脚光を浴びているのが「家事代行サービス」だ。他人に家事を代行してもらうことで、自分や家族のための時間を増やすことができる。「家事は女性がやるもの」という固定観念が強かった日本人にとって、意識の変革を迫られる出来事だ。
「家事代行サービス」の市場規模は大きく拡大すると予想されているが、実際はどうなのか。一般社団法人全国家事代行サービス協会の高橋ゆき副会長に、現在の状況や今後の展望などについて、聞いてみることにした。
夫婦の時間は逼迫状態「介護と同じことが起こる」
野村総研の調査(2014年7月)によると、家事支援サービス自体の認知は73%と高い。しかしその内訳は、「利用したことがある」との回答がわずか3%にすぎず、残りの7割の人たちは「サービスは知っているが、利用したことはない」ということになる。
なぜ、利用したことがないのか。多く回答を集めたのは「他人に家の中に入られることに抵抗があるため」(47%)というプライバシーの問題と、「所得に対して価格が高いと思われるため」(45%)という価格に関する抵抗感だ。
しかし日本では、少子高齢化などで暮らし方の「大きな変革」が求められる。すでに保育、介護分野ではニーズに制度が追いつかなくなり、低賃金、人手不足、サービス供給不足といった負のスパイラルに陥っている感がある。
反面、女性の社会参加が政府によって推進され、夫婦の時間はまさに逼迫状態だ。高橋さんは「親の介護も、わずか20数年前まで息子や娘がみるのが当たり前と思われていた」と振り返り、未来をこう指摘した。
確かに日本人には心理的な障壁として「家のことは自分たちでやるべき」という意識があり、家政婦やお手伝いさんは「金持ちが使うもの」というイメージがある。実際に高橋さんも、香港で仕事をしながらの育児を経験するまでは、そうしたイメージを持っていたという。
利用者アンケートに多い「夫婦ゲンカが減った」の声
しかし、香港で優秀な「家事のプロ」に出会うことで、「帰宅したら部屋は綺麗。アイロンがけも済んである。何もすることがない」といった体験をした。夫や息子との会話も増え、日本に帰国後も利用したいと思ったが、日本には「家政婦」「ハウスクリーニング」「便利屋」といったサービスしかなかった。
同社は現在、家事代行のみならず、ベビーシッターや高齢者支援とサービスの幅を広げ、必要なときに必要に応じた家事サービスを受けることができる。利用者は年々増加しており、2014年の案件はベアーズのみで20万件以上。たとえば掃除・洗濯のみなら、1時間2350円とリーズナブルだ。
利用者アンケートには、顕著に多い声が3つある。それは「夫婦ゲンカが減った」「ママが優しくなったと言われた」「(妻が)若返ったと言われる」というものだ。それまでストレスフルだった家庭に、家事代行サービスが余裕をもたらすことが分かる。
最近の利用者の傾向としては、共働きで育児中の家庭のほかに、子どものいない夫婦(DINKS)や高齢者家庭、さらには単身者の利用も増えているそうだ。震災などを機に「暮らし方を変えよう」と行動する人が増えたのでは、と高橋さんはいう。
「我が国最大の潜在力」である女性の力を活かすために
ニーズの増加を見越して、参入企業も増えている。そうなると大事なのは「サービスの担い手」の地位向上だ。現在ベアーズ社では55歳以上の担い手が多く、人生の先輩が20代・30代の子育て世代を支援する「社会の好循環」ができつつあるという。
確かに50代以上の女性たちは、これまで「家事のキャリア」を苦労して培ってきた。これを活かせる場が新たにできたら、新たな雇用創出にもつながる。
政府の「日本再興戦略(改訂2014)」でも「女性が輝く社会」を実現するための方策として、「安価で安心な家事支援サービスを利活用できる環境整備を図ること」を掲げている。
これを受けて協議会では、事業者の取組指針となる「家事支援サービス事業者ガイドライン」を策定し、今後は事業者認証制度などを作成し、より安心して利用できる枠組づくりに注力していく。
さらに、高橋さんは今後国に対して、日常の生活を支援する「暮らし向上支援バウチャー」や税制控除のようなものを国に提案していくという。2010年から実施された「子ども手当」は金銭で支給されたが、東北大学の調査によると73.4%の世帯が「(子どもの生育環境は)実質的にあまり変わらない」と回答している。
日本再興戦略は女性の力を「我が国最大の潜在力」とし、これを最大限発揮できるようにすることは「家庭や地域の価値を大切にしつつ、社会全体に活力を与えることにもつながる」としている。足元の家庭や家事、暮らしの見直し・支援・向上がもたらすものは、思いがけなく大きいものになるかもしれない。
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