• ブータンの「幸福度調査」に日本人専門家が協力 「本当の満足度」測れるか

    ブータン政府観光局公式サイトより

    「幸せですか?」という質問に、「幸せ」「どちらかと言えば幸せ」と答える人が国民の97%にのぼるブータン王国。中国とインドの間に位置し、世界で唯一、経済成長よりも幸福度を優先する国策で「幸せの国」と呼ばれている。

    いま、5年に1度の幸福度調査がブータン全土で行われ、日本の専門家も協力している。2015年5月26日放送の「未来世紀ジパング」は、ブータンを現地取材し、その実態を紹介し幸福について考えた。

    幸福度は高くないが「十分ですよ」と答える高齢者も

    調査は調査員が出向き、直接聞き取り調査を行う。標高3000メートルの山岳地帯でも同じだ。27世帯が暮らす典型的な農村の主婦ツェリンさん(38歳)も、一家を代表して調査を受けていた。

    質問は「病気になったらお見舞いに来てくれる人は何人いますか?」「教育を受けたことはありますか?」など多岐にわたり、実に148項目。社会性や治安、環境への関心などを推し測り、足りない部分を強化していくのが狙いだという。

    以前は3択だった「幸せですか?」の質問も、今回から「0から10の10点満点で、あなたの幸福度はいくつですか?」という形式になり、さらに「理想の幸福度」を10段階で答えてもらう。「自分の幸福度」と「理想の幸福度」を訊くことで、本当の満足度が測れるのだ。

    ツェリンさんは、自分の幸福度は「5」、理想は「9」と答え、満足度の低さがうかがえる。ある高齢の女性は、自分の幸福度を「5」、理想も「5」。「10点満点の幸せなんてありえません。5で十分ですよ」と答え、一見低い数値でも十分満足していることが分かった。

    火事で全財産を失い、息子は無職。母の幸福度は…

    この新しい質問は、幸福度研究の第一人者で筑波大学の准教授・高橋義明さんの提案だ。ブータン政府の要請を受け、高橋さんを団長とした専門家チームが日本から派遣されている。高橋准教授は調査についてこう語る。

    「10が良い、と幸福度をとらえてきたが、多角的にみられるようになった。その意味で今回の調査は面白い結果になる」

    市内に住む主婦のチョデンさん(56歳)は昨年火事に遭い自宅が全焼し、賃貸マンションに暮らす。同居する息子のグォンさん(30歳)は高校を卒業してから12年間ずっと無職。

    「親が死んだら、誰が僕の面倒をみてくれるのか。心配です」

    母親であるチョデンさんは、諦めたように「仕方ありません。息子は一生このままでしょう」と語る。10人の大家族だったが、いまではそれぞれで暮らし、一家の家計を支えるのはインドに出稼ぎに行っている夫だ。

    波乱万丈のチョデンさんに自分の幸福度をきくと、「10です。幸せです」「理想も10です」とのこと。悟ったような表情でこう語る。

    「人生で起こるすべては運命で決まっているんです。思い悩んでも仕方ありません。私は本当に、とても幸せなんですよ」

    「幸せの国なんて、口だけですよ」と不満漏らす19歳も

    ブータンはチベット仏教国。来世のために現世がある「輪廻転生」思想で、短期的な利益はあまり追求しないという。番組ナビゲーターで日本経済新聞社編集委員の後藤康浩氏によると、経済的利益よりも「地域・コミュニティとの関係」を最重視しているそうだ。

    その一方で番組では、急速に経済成長するブータンが観光に力を入れる様子や、農村から首都に出てきた若者は警備員しか職がないという現実も映し出していた。

    同僚3人と狭いワンルームで暮らす女性(19歳)は、「私にとって一番大切なのはお金です。お金がないから苦しいんです。幸せの国なんて、口だけですよ」と不満を漏らした。ジャーナリスト竹田圭吾氏のコメントも厳しい。

    「集団で幸せ度を測ったり、こうあるのが幸せ、とするのは抵抗がある。100人が100通りの幸せを追求できるのが幸せな国ではないのかと思う」

    幸不幸は、心の持ち方次第で大きく変わるのも事実だ。しかし人には個々の欲があり、それは思想やコミュニティだけでは抑えきれるものではないと感じた。(ライター:okei)

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