• 日本ストレスチェック協会が「ここだけの話」セミナー実施 新制度の問題点と解決策を専門家が解説

    12月より始まるストレスチェックテスト

    景気の復調に合わせ、メンタルヘルス不調を訴える労働者は減っているという話も聞くが、労災ベースで見ると一貫して右肩上がりになっている。精神障害に関する労災認定件数は、2013年度に436件となったが、この数字は2008年度の1.62倍、2003年度の4.03倍にものぼっている。

    このような状況を改善するために、政府も動き出している。50人以上の労働者を擁する企業は今年の12月1日から「ストレスチェック」と「面接指導」の実施を行うことが、改正労働安全衛生法で義務づけられた。果たしてこの取り組みで、メンタルヘルス不調者を減らすことができるのだろうか。

    ストレスを抱えている人を見つけ出すことが出来るのか

    5月28日、一般社団法人日本ストレスチェック協会が都内で「ストレスチェックテスト指針発表後、ここだけの話」と題したセミナーを開講した。企業の人事担当者や産業医、社会保険労務士ら約24人が来場。企業が注意すべき点などの解説に耳を傾けた。

    まず社会保険労務士の中山寛之氏が、制度の概要を説明。ストレスチェックテストとは、労働者が紙やウェブ上で調査票の検査項目に回答することで、メンタルヘルスに問題を抱えている可能性のある「高ストレス該当者」かどうかを判断するものだという。

    テストによって高ストレス該当者と判定された場合、労働者が会社に申し出れば医師による面接指導を受けることができる。なお法律は、この申出を理由に会社が解雇などの不利益な取扱いをすることを禁止している。

    ただしここには大きな問題がある。自分が「高ストレス該当者」であるのにもかかわらず、そのことを会社に知られたがらない労働者がいるということだ。会社が配慮して業務量を減らしたり部署を異動させたりすることを労働者自身が嫌がり、テストでウソの回答をする可能性もある。

    また、テストの結果は本人の了承を得なければ会社は知ることができないが、医師の面接指導を受けるためには会社に申請する必要があるので知られてしまう。そのため、高ストレス該当者がその段階まで進まないことが予想できる。

    集団分析によって部署ごとのストレスレベルを把握

    会場には企業の人事担当者らが集まった

    このような制度上の問題を解決するために、専門家の間ではさまざまな方策が検討されている。協会理事で医師・産業医・労働衛生コンサルタントの新井孝典医師は「集団分析」を提案する。

    集団分析とは、部や課など職場の一定規模の集団ごとのストレス状況を、分析するもの。法律でも努力義務として推奨されている。この結果をうまく使えば各部署の所属長は、部下たちのストレスレベルを客観的に知ることができ、職場環境の改善にもつながる。

    新井医師が特に集団分析を勧める職場として挙げたのは、「離職率の高い職場」や「専門性の高い職場」「感情労働が主となる職場(医療や接客サービス業など)」「休職者が多い職場」などだ。

    例えば看護師は、感情を押し殺しながら専門性の高い仕事をし、離職率の高いといった条件に当てはまる。ある病院では、看護師を1人採用するのに80万円かけており、労働環境の改善で離職率が下がるのであれば、費用対効果を考えても集団分析は有用なツールとなる。

    ただし、集団分析によってストレスレベルが高いと判定された場合には、すぐに改善に取り組まなければならない。そのまま放置していた職場からメンタルヘルス不調者が出た場合や亡くなってしまった場合には、会社は責任を迫られ、集団分析の結果が裁判の証拠として提出される可能性もある。

    面接指導の前に相談対応でハードルを下げる

    相談対応を提案する武神医師

    もうひとつの「高ストレス該当者が医師の面接指導を回避する」問題について、協会代表理事で医師・産業医の武神健之医師は、調査票によるテストと面接指導の間に、産業医、保健師、看護師若しくは精神保健福祉士又は産業カウンセラー若しくは臨床心理士等の心理職による「相談対応(心理系面接)」を必ず挟むことを提案する。

    会社が任意の相談対応を設けるのであれば、申請や結果を会社に知らせないことも可能となり、高ストレス該当者だけでなく自分のストレス具合が気になる人も足を運びやすくなる。調査票によるテストの結果をさらに掘り下げる効果、テストでは発見できない不調予備軍への効果へも期待できる。

    相談対応の結果、臨床心理士や産業カウンセラーが判断した場合は、会社に結果を開示されることを伝えたうえで「面接指導を受けてください」と勧める導線を作る。高ストレス該当者も促されることで、自身のストレスレベルを認識し、医師の面接指導を受けようと考えやすくなる。

    セルフケアの重要性を指摘

    武神医師は、今回のような新制度はすべての問題を解決するとはいえないが、これをきっかけとして労働者のメンタルヘルスに対する当事者意識が高まっていけば、企業側がケアにもっと力を注いでいく動きが出ることも期待できるという。

    また、メンタルヘルスの不調に陥る原因は職場がすべての原因なわけではない。家庭問題等が原因でうつ病を発症する場合もある。そのため、新井医師は「行き着く先はセルフケアになるだろう」と話した。

    セルフケアの参考になるのが、厚生労働省が運営する働く人のメンタルヘルス・ケアのポータルサイト「こころの耳」。セルフケアを学ぶe-ラーニングのページや、メールでの相談も可能だ。情報も多く、質が良いと協会も勧めている。テスト後に企業がセルフケアの研修を取り入れることで、メンタルヘルス不調者が現れるリスクを低減できる効果も期待できる。

    あわせてよみたい:職場のストレスを解消する5つの方法

     
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