• 許せないのは「生涯派遣」、それとも「使い捨て」? 分かりにくい「派遣法改悪反対」の言い分

    労働者派遣法の改正案が、6月19日に衆院で可決された。新聞各紙はこれに激しく反発する労働団体などの声を取り上げているが、ちょっと腑に落ちないところもある。

    例えば19日付けの京都新聞は「生涯派遣、許さない」と言っているが、その一方で20日付けの東京新聞は「派遣、使い捨てなのか」という言葉を見出しに使っている。これって、それぞれ食い違う言い分ではないのか。

    どうしても「正社員」でなければならないのか

    新聞報道ってホントに公正中立?

    反対派は、一生派遣社員として働くことを問題視しているのか、それとも期間制限によって派遣として働けなくなることを問題視しているのか。もし「3年ごとに使い捨てられてしまう」という悲鳴がホンネなのであれば、「生涯派遣」とは矛盾していることになる。

    仮に生涯派遣でも、雇用が安定し、待遇に納得できればそれでもいいという考えもあるのでは。もちろん正社員との理不尽な待遇格差があれば問題だが、会社は「正社員に求める高いハードルをクリアできなければ、同じ待遇にできないのは当然」というだろう。

    19日付けの東京新聞は、56歳の派遣社員の女性が「3年後には辞めてもらうと言われている」と泣き崩れる様子を報じているが、NHKが6月16日に放送した「時論公論」でも、同じような50代の女性の例を取り上げていた。

    この女性は、パソコンでの資料作成を同じ職場で15年間続けてきた。先月、派遣先の会社から「3年後に辞めてもらう」と一方的に雇い止めを通告されたという。

    今後の3年を含めた18年間勤め上げても退職金が出ることはないとして、女性は「自分の人生を踏みにじられたような気がします」「年齢的に次の派遣先が見つかるかどうか不安です」と述べた。しかし3年後といえば59歳、ほぼ定年退職のような年齢だ。

    なぜマシになる可能性があるのに廃案を訴えたのか

    それに中小企業に勤めていれば、退職金が出ないところなんてたくさんある。いまの若者は、自分が辞めるときに退職金が出るなんて期待していない人も多い。50代女性の期待は、青春を謳歌した30年前のバブル感覚のままのようだ。

    また派遣の仕事には、派遣期間に制限のない「専門26業務」と、最長3年の制限がある「一般業務」があるが、今回の改正ですべての派遣業務で最長3年となる。これに対し、これまで専門でやってきた人が「3年でクビを切られる」と反対している。

    しかし、これを改正しなければ、そのまま期間制限なく派遣スタッフとして働き続けることになり、まさに「生涯派遣」の状態が続くことになる。改正に反対している人たちは、果たしてどちらに反対しているのか、よく分からない一因だ。

    それから今回の改正では、これまでになかった「雇用安定措置」を講じるとしている。契約期間が切れる際の「派遣先への直接雇用の依頼」「新たな派遣先の提供」「派遣元での無期雇用」などの雇用安定措置が義務化されている。

    これが本当に実現すれば、「使い捨て」となる派遣社員も減るはずだ。NHKの村田英明解説委員は「これだけで対策は不十分」とし、労働団体も批判の対象としていたが、ないよりはあった方がいいに違いない。これまでよりマシになる可能性もあるのに、野党が廃案にこだわっていた理由が分からない。

    格差を温存したまま「正社員に」と訴えるのは、いびつだ

    村田解説委員は番組の終わりに「所得の低い人たちをこれ以上増やさないためには『同一労働・同一賃金』の導入について正面から議論すべき」と意見を述べた。

    つまり問題は、正社員と非正規雇用との理不尽な格差である。これを温存したまま、派遣社員が「私たちも正社員に」と訴えるのは、どこかいびつな言い分のような気がしてならない。

    それよりもずっと大事なのは、今回の改正にも含まれている「派遣を希望する者の待遇の改善」の方ではないのか。改正案が衆院を通過したことで可決成立は決定的となったが、改正内容がしっかり運用されることを期待して見つめたい。(ライター:okei)

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