• 「早く帰る社員ほど得をする」IT企業のしくみづくり 残業削減で浮いたお金はボーナスで還元

    ここ数年、IT技術者の人手不足が深刻化しており、転職求人倍率は全業種でトップの状態が続いている。需要の高まりに加え、長時間労働や残業代の未払いが横行する業界の風土が敬遠されていることも原因のひとつと見られる。

    そんな中、残業時間を大幅に減らし、退勤時間が早ければ早いほど社員が得するしくみを作ったIT企業があるという。2015年6月29日の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)は、東京・豊洲に本社を置くシステムインテグレーターのSCSKを取材した。

    新任社長が改革決意「これじゃブラック企業だ。未来はない」

    SCSKのCSRレポートより

    SCSKに勤める桑田真吾さん(30歳)は、入社6年目。システムエンジニアとして企業向けの会計ソフトを作っている。社員およそ7000人のうち、IT技術者は6000人。かつては多くの社員が、長時間労働に苦しんできた。1時間の昼休みも、

    「昼食は15分か20分で食べて、あとは(机に突っ伏して)寝てました」

    と桑田さん。寝袋で会社に泊まる社員もいて、システム納品後もトラブル処理があれば土日も出勤し、休みがないような状態だったという。

    変革をもたらしたのは、2009年に親会社の住友商事からSCSKトップに就任した中井戸信英会長(68歳)だ。「ブラック企業と言われるぐらい厳しい労務環境を目の当たりにして、愕然とした。これでは未来はない」と改革を決意したという。

    残業を徹底的に削減するため、残業を減らした部署には「減らした分の残業代をボーナスで支給する」しくみをつくった。「残業が減ると給料が減ってしまう」という社員たちの不安を取り除いたのだ。中井戸会長は決断をこう語る。

    「経営者の覚悟・決断で、残業代の削減で生み出した収益はすべて従業員に還付した」

    すると社員から次々と残業の削減案が出てきた。だらだらと会議を続けないよう立って行う会議、自分の退社時刻をカードで周囲に告知して早く帰宅する罪悪感をなくす方法などが実行されたという。

    平均残業時間は18時間、残業代は「34時間分支払う」

    こうして月に50~60時間あった残業を、2014年度には18時間にまで削減。会社の業績は4年連続増収増益で、増配も毎年実現している。中井戸会長はこう語る。

    「残業問題というのは、経営者が『こうしろ』というようなものではない。社員自らが工夫して残業を減らすための、環境づくりをしなければならない」

    さらに7月からは「残業しない社員にも残業代を払う」新しいしくみを始める。入社7年目以上の社員には1か月34時間、7年未満は20時間という残業代の固定支給が行われるのだ。平均残業時間を大幅に上回る額で、残業をしない社員ほど得をすることになる。

    午前9時に出勤し、午後5時半に帰宅した桑田さんは、奥さんと夕食づくりの機会も増えた。「一緒に晩酌したり、平日が楽しくなった」と奥さんも嬉しそう。7月からは、残業してもしなくても、20時間分の残業代に相当する月6万円が上乗せされる。

    「家庭での会話も増えるし、体調も良くなる。仕事も100%の力を出せるようになった」

    それにしても中井戸会長の「健康で充実した家庭生活があってこそ、仕事でも成果を出せる」という言葉には惚れぼれした。この意識が当たり前になれば、今後IT技術者を目指す人はもっと増えていくだろう。(ライター:okei)

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