• 「スズキこそ我々ハンガリー人の車」 進出決めた修氏「当時は気の毒な立場にあった」と振り返る

    2014年の軽自動車販売・国内No.1の座を奪還したスズキが、ついに経営者の交代に踏み切った。経営トップを37年間守り続けた鈴木修・現会長兼社長の後継者は、長男の俊宏氏。6月30日の記者会見で修氏は、

    「もうスズキの企業規模からすると、ワンマンだとか独裁の規模を超えている」

    と述べて、今後はチームマネジメントへ切り替えていく意向を示している。しかし前日29日に放送された「未来世紀ジパング」(テレビ東京)の内容は、修氏の先見性と独裁が、いまの会社の発展をもたらしているという印象を与えていた。

    共産時代はダンプしか作れなかったハンガリー

    スズキのウェブサイトより

    東ヨーロッパの中ほどに位置するハンガリーは、知られざる親日国で意外な共通点も多い。苗字と名前の順番が日本と同じで、おじぎの習慣があり、1300カ所以上の温泉が湧く温泉大国。小学校ではそろばんを教えていた。

    ハンガリー人は1000年前に中央アジアから欧州方面へ移動した、アジア人をルーツにもつ民族。スズキはそんなハンガリーで「国民車」の地位を築いている。

    「夢をかなえてくれたのがスズキなんです。スズキこそ、我々ハンガリー人の車です」

    こう語るのは、ブダペスト郊外に住んでスズキの車を3台持っているサボーさん。23年前、ハンガリーで初めて発売されたスズキ・スイフトに乗り込みエンジンをかけて見せた。

    サボーさんは「こんないい車は当時ハンガリーにはなかった。夢の車だった。ハンガリー人の夢の車なんだ」と語る。40年前に乗っていたのはソ連製で、色も形も選べない配給制のうえ、手に入れるまで何年も待たされたという。

    冷戦当時、ハンガリーをはじめとする東欧諸国はソ連の支配下にあり、経済力がつくのを防ぐため国ごとに生産するものが割り当てられていた。乗用車の製造はソ連、東ドイツ、チェコ、ポーランド、ルーマニアで、ブルガリアはフォークリフト、ハンガリーはダンプカーしか作れなかった。

    「小・少・軽・短・美」のスローガンを唱和

    1989年、共産時代が終わると、最初にハンガリーに進出してきたのがスズキだった。サボーさん一家は、初めて買ったスズキの真っ赤な車で家族旅行を楽しんだという。奥さんは、「自由に車が買える。本当に嬉しかったのよ」とにこやかに語った。

    スズキは1991年に進出し、累計250万台を販売。ハンガリーの国民車として親しまれている。人気の理由は、欧米の車が200万円を超えるなか、100万円台で手に入るためだ。いち早くハンガリーに進出した理由を、鈴木修氏はこう語った。

    「共産圏の一国として大変不自由な生活で、非常に気の毒な立場にあった」

    1992年には生産拠点として工場を設立。最初は小規模だったが、いまでは東京ドーム12個分の大きさになっている。一時はハンガリーのGDP5%を担った巨大な工場だ。

    壁には「小・少・軽・短・美」とスローガンが貼られ、工場内でも唱和されていた。部品も小さくし、動線も短くすれば、全体がシンプルで美しい。それがスズキの競争力。特にコスト競争力につながるという考え方だ。

    この言葉どおり、工場内は徹底してムダを省く。斜めに傾けたラインで重力によって部品を流す、天窓から太陽光を入れて昼間は電気をつけないなどの節約ぶりだ。一方、溶接ラインは最新の溶接ロボットが一度に10台以上を仕上げていた。

    従業員「スズキはもう私たちハンガリー人の会社」

    ここで働く99%以上がハンガリー人。工場に長年勤めている従業員の男性は、「車の作り方を一から教えてくれて、本当に感謝しています」と語り、「スズキはもう私たちハンガリー人の会社だと思ってますよ」と笑った。

    2004年、修氏はハンガリー政府から功績を讃えられ、民間人に贈る最高位の勲章を授与された。ハンガリーに進出している日系企業は150社。日清、ブリヂストン、デンソーなどをはじめとする46社が工場を構えている。

    その理由として、一橋大学イノベーション研究センター教授の米倉誠一郎氏は、ヨーロッパの中央にあって周辺国に輸出できる地の利に加え、「教育水準が高く、気質の勤勉な労働力が比較的安く手に入ること、そして、なんと言っても親日的」という点をあげた。

    自由に自動車が買えることを切望していた国に、いち早く進出した修氏の先見の明はさすがだ。安いだけではない品質の良さも、国民車として浸透した由縁だろう。サボーさんのスズキに心酔しきった様子を見ていると、海外進出において「一番乗りで信頼を得ること」の重要性を強く感じた。(ライター:okei)

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