これからのキャリアは「セレンディピティ(偶察力)」で決まる!――PR業界のカリスマ、片岡英彦さんに転職の秘訣を聞く 2016年5月16日 キャリコネNEWS ツイート 最近は単純に年収を上げるためだけではなく、新しい仕事や環境を求めて転職をする人も多い。会社を移ると色々と勝手が違うので大変なこともあるが、やはり新鮮な気持ちで働けるのは嬉しいものだ。 戦略PRプロデューサーの片岡英彦さん(45)は、新卒で日本テレビに入社してキャリアをスタート。その後、アップルジャパンや日本マクドナルドといった会社でコミュニケーション職として働き、iPodやメガマックなど大掛かりなプロジェクトに参加してきた人物だ。そんな片岡さんにキャリア構築の秘訣を聞いた。 終身雇用の時代は終わった。回数は気にしないでもいいのでは? ――ウィキペディアで片岡さんのプロフィールを見ると、職歴が非常にたくさんで驚きます。それぞれの会社でどんなことをやって来たのでしょうか。 日本テレビに在職中の7年半の間、最初は社会部でオウム事件や阪神大震災を取材し、その後、報道番組のディレクターを経て、番組宣伝部でメディアへの出稿計画やパブリシティ活動を行いました。取材や原稿作成を行う報道の仕事だけでなく、取材をしていただく側になる広報の仕事、そして、有料出稿を行う広告の仕事の大きく3つのコミュニケーションに携わる仕事を経験しました。 2001年に違うタイプのコミュニケーションの仕事をしようとアップルジャパンに転職し、カスタマーコミュニケーションという新設された部署の責任者になりました。ちょうどiPodが発売開始されて、クリエイターだけではなく一般の人、それこそ女子高生から年配の方たちまでもがアップル製品を使うようになった時期です。そこで新しいユーザー層に向けて当時はまだ一般的でなかったウェブサポートやメルマガを使った情報発信の企画等を行いました。 04年にMTVジャパンの広報部長となり、企業広報、番組宣伝、イベントPRの他、加入促進のためのコミュニケーション活動を担当ました。06年からは日本マクドナルドのマーケティングPR部長として、メガマックやクォーターパウンダー、えびフィレオ等のマーケティング・PRをしていました。 09年にはミクシィのエグゼクティブ・プロデューサーとなり宣伝広報活動全般を行う部門を担当しました。その後、11年に東日本大震災が起こったのを機に、半年後の9月にフランスに本部を持つ国際NGO「世界の医療団」の広報責任者として参加しました。同時にマーケティングやPR戦略を立案する個人事務所を立ち上げて代表取締役を勤めています。昨年からは東北芸術大学で広報部長と准教授を兼務しています。学生にはPRやプロモーションやメディアについて教えていますね。 ――色んな会社で幅広い仕事をご経験していますが、それって結構すごいことのように感じます。日本企業の中には依然として転職回数が多い人を敬遠する傾向もありますし……。 公務員のように同じ職場で一生働くことも良いことだと思います。しかし一方で、今の時代に転職の回数にこだわることは意味がないとも思います。終身雇用を企業が全社員に約束できる時代はすでに終わっています。会社は変わるが私のように職種は変わらない人のことを「転職」と呼ぶのか、同じ会社内で部署が変わり職種が変わることを「転職」と呼ぶのか、「転職」の「職」というものを、どう解釈するかの違いだと思いますね。 それに、会社内で勤務していても、記者やPRプロデューサーの仕事の時は「個人事業主」という意識で働いてきました。会社は移ってもやっていることは新入社員の頃から基本的にコミュニケーション職ですので「転社はしているけど転職はしていない」と本当は考えています。 「一見すると関係ないこと」が次につながっていく ――転職を重ねる中で、気づいたことはありますか。 若いうちは何かを極めようと思って頑張るのですが、転職を経験すると、会社ごとに求められることも変わるので、転職することで自分の能力というか応用力を広げることができたと思います。 例えばアップルに入った当時、英語はあまりできなかったんです。入社後にこれは大変だと思ったのですが、5年もすればそれなりにコミュニケーションが取れるようになった。若いうちはまず飛び込んで入ってみる。そこからどうすればいいのか逆算する。最初からできなくてもいい。やっているうちにできるようになればいいんです。 逆に自分のキャリアを中途半端に頭の中ばかりで考えると、かえってキャリアの幅を狭めることになってしまう。自分がそのとき面白いと思った方向に飛び込んでみると、意外といいことがあるものです。その際に重要になってくるのが「偶察力」ですね。 ――あまり聞かない言葉ですが、どんな意味なのでしょうか。 英語だと「セレンディピティ(Serendipity)」なんていいます。偶然の中から何かを見つける力ですね。例えばニュートンはリンゴが落ちたのを見て、万有引力を発見したといいます。一見偶然のように見えますが、日頃から万有引力に近いような物理の法則のことを考え続けていたから気づくことができたわけです。 キャリアもそれと同じようなところがあります。私は日テレ時代に「マスではない別のコミュニケーション方法もできないだろうか」と考えていたら、たまたま当時アップルの社長にお会いすることができた。ITという全く未経験だった異業種に15年前、31歳の時に転職することになりました。偶然が次につながっていくわけです。 若いうちは「軽い失敗」を重ねて試行錯誤すればいい ――では、その偶察力を高めるためにはどうすればいいのでしょうか。 色んなことに触れてみることですね。最近は何でもネットで完結してしまいますが、生の芝居やスポーツの大事な試合や有名な歌手のコンサート、あるいは海外旅行でも国内旅行でも、実際に自分で見に行ってみる。お金も投資と思って使う。一見関係ないことが、後々大事になってくることがあります。 それと、連続的な成長を中断してでも、やってみたいこと、挑戦したいことがあれば、これまでの経験を活かそうなんてセコいこと考えずにゼロからチャレンジをしてみる。そうすれば、自分の得手不得手もわかる。そこからまた考えて、次につなげればいいんです。 ――考え過ぎないで興味のある方向に行ってみる、ということですね。片岡さんから若い世代へのアドバイスはありますか? 学生を見ていても感じるのですが、軽い成功でいいのに、10割成功を目指して結局何もできなくなってしまう人が多いですね。「絶対ホームランを打つ」と気負う必要はないんです。プロ野球だって3割ちょっと打てば、それだけで一流選手なんだから。 まずはエイヤーッとバットを振ってみればいいんです。取り返しがつかないような地雷は踏んではいけませんが、軽い失敗を重ねて、軽く傷ついて、その中で試行錯誤すればいいと思います。好き勝手やったところで本当に切腹させられるなんてことはない恵まれた時代なのだから、まずは何でも飛び込んでみることですね。 あわせて読みたい:「ここで頑張れないならどこ行っても同じ」に騙されるな!
これからのキャリアは「セレンディピティ(偶察力)」で決まる!――PR業界のカリスマ、片岡英彦さんに転職の秘訣を聞く
最近は単純に年収を上げるためだけではなく、新しい仕事や環境を求めて転職をする人も多い。会社を移ると色々と勝手が違うので大変なこともあるが、やはり新鮮な気持ちで働けるのは嬉しいものだ。
戦略PRプロデューサーの片岡英彦さん(45)は、新卒で日本テレビに入社してキャリアをスタート。その後、アップルジャパンや日本マクドナルドといった会社でコミュニケーション職として働き、iPodやメガマックなど大掛かりなプロジェクトに参加してきた人物だ。そんな片岡さんにキャリア構築の秘訣を聞いた。
終身雇用の時代は終わった。回数は気にしないでもいいのでは?
――ウィキペディアで片岡さんのプロフィールを見ると、職歴が非常にたくさんで驚きます。それぞれの会社でどんなことをやって来たのでしょうか。
日本テレビに在職中の7年半の間、最初は社会部でオウム事件や阪神大震災を取材し、その後、報道番組のディレクターを経て、番組宣伝部でメディアへの出稿計画やパブリシティ活動を行いました。取材や原稿作成を行う報道の仕事だけでなく、取材をしていただく側になる広報の仕事、そして、有料出稿を行う広告の仕事の大きく3つのコミュニケーションに携わる仕事を経験しました。
2001年に違うタイプのコミュニケーションの仕事をしようとアップルジャパンに転職し、カスタマーコミュニケーションという新設された部署の責任者になりました。ちょうどiPodが発売開始されて、クリエイターだけではなく一般の人、それこそ女子高生から年配の方たちまでもがアップル製品を使うようになった時期です。そこで新しいユーザー層に向けて当時はまだ一般的でなかったウェブサポートやメルマガを使った情報発信の企画等を行いました。
04年にMTVジャパンの広報部長となり、企業広報、番組宣伝、イベントPRの他、加入促進のためのコミュニケーション活動を担当ました。06年からは日本マクドナルドのマーケティングPR部長として、メガマックやクォーターパウンダー、えびフィレオ等のマーケティング・PRをしていました。
09年にはミクシィのエグゼクティブ・プロデューサーとなり宣伝広報活動全般を行う部門を担当しました。その後、11年に東日本大震災が起こったのを機に、半年後の9月にフランスに本部を持つ国際NGO「世界の医療団」の広報責任者として参加しました。同時にマーケティングやPR戦略を立案する個人事務所を立ち上げて代表取締役を勤めています。昨年からは東北芸術大学で広報部長と准教授を兼務しています。学生にはPRやプロモーションやメディアについて教えていますね。
――色んな会社で幅広い仕事をご経験していますが、それって結構すごいことのように感じます。日本企業の中には依然として転職回数が多い人を敬遠する傾向もありますし……。
公務員のように同じ職場で一生働くことも良いことだと思います。しかし一方で、今の時代に転職の回数にこだわることは意味がないとも思います。終身雇用を企業が全社員に約束できる時代はすでに終わっています。会社は変わるが私のように職種は変わらない人のことを「転職」と呼ぶのか、同じ会社内で部署が変わり職種が変わることを「転職」と呼ぶのか、「転職」の「職」というものを、どう解釈するかの違いだと思いますね。
それに、会社内で勤務していても、記者やPRプロデューサーの仕事の時は「個人事業主」という意識で働いてきました。会社は移ってもやっていることは新入社員の頃から基本的にコミュニケーション職ですので「転社はしているけど転職はしていない」と本当は考えています。
「一見すると関係ないこと」が次につながっていく
――転職を重ねる中で、気づいたことはありますか。
若いうちは何かを極めようと思って頑張るのですが、転職を経験すると、会社ごとに求められることも変わるので、転職することで自分の能力というか応用力を広げることができたと思います。
例えばアップルに入った当時、英語はあまりできなかったんです。入社後にこれは大変だと思ったのですが、5年もすればそれなりにコミュニケーションが取れるようになった。若いうちはまず飛び込んで入ってみる。そこからどうすればいいのか逆算する。最初からできなくてもいい。やっているうちにできるようになればいいんです。
逆に自分のキャリアを中途半端に頭の中ばかりで考えると、かえってキャリアの幅を狭めることになってしまう。自分がそのとき面白いと思った方向に飛び込んでみると、意外といいことがあるものです。その際に重要になってくるのが「偶察力」ですね。
――あまり聞かない言葉ですが、どんな意味なのでしょうか。
英語だと「セレンディピティ(Serendipity)」なんていいます。偶然の中から何かを見つける力ですね。例えばニュートンはリンゴが落ちたのを見て、万有引力を発見したといいます。一見偶然のように見えますが、日頃から万有引力に近いような物理の法則のことを考え続けていたから気づくことができたわけです。
キャリアもそれと同じようなところがあります。私は日テレ時代に「マスではない別のコミュニケーション方法もできないだろうか」と考えていたら、たまたま当時アップルの社長にお会いすることができた。ITという全く未経験だった異業種に15年前、31歳の時に転職することになりました。偶然が次につながっていくわけです。
若いうちは「軽い失敗」を重ねて試行錯誤すればいい
――では、その偶察力を高めるためにはどうすればいいのでしょうか。
色んなことに触れてみることですね。最近は何でもネットで完結してしまいますが、生の芝居やスポーツの大事な試合や有名な歌手のコンサート、あるいは海外旅行でも国内旅行でも、実際に自分で見に行ってみる。お金も投資と思って使う。一見関係ないことが、後々大事になってくることがあります。
それと、連続的な成長を中断してでも、やってみたいこと、挑戦したいことがあれば、これまでの経験を活かそうなんてセコいこと考えずにゼロからチャレンジをしてみる。そうすれば、自分の得手不得手もわかる。そこからまた考えて、次につなげればいいんです。
――考え過ぎないで興味のある方向に行ってみる、ということですね。片岡さんから若い世代へのアドバイスはありますか?
学生を見ていても感じるのですが、軽い成功でいいのに、10割成功を目指して結局何もできなくなってしまう人が多いですね。「絶対ホームランを打つ」と気負う必要はないんです。プロ野球だって3割ちょっと打てば、それだけで一流選手なんだから。
まずはエイヤーッとバットを振ってみればいいんです。取り返しがつかないような地雷は踏んではいけませんが、軽い失敗を重ねて、軽く傷ついて、その中で試行錯誤すればいいと思います。好き勝手やったところで本当に切腹させられるなんてことはない恵まれた時代なのだから、まずは何でも飛び込んでみることですね。
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