• どこまでやれば「パワハラ」になる? 裁判所が認めた実例とは 弁護士が解説

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    斎藤元彦兵庫県知事の一件をきっかけに、世間では「どんな言動がパワハラに当たるのか」という議論が盛んに交わされている。職場でのパワハラについては、厚労省の定義があるが、実際にこの定義に当てはまるかどうかはパッとわかりにくい。そこで今回は、裁判所が認めた「パワハラ」の実例を、林たかまさ弁護士にわかりやすく紹介・解説してもらった。

    こんにちは。弁護士の林たかまさです。

    今回はホントウにあったパワハラ事件を解説します(東京地裁 R5.1.30)

    上司がやらかしたパワハラは以下の2つ。

    1. メールで叱責(CCに他の従業員を入れる)
    2. LINEでウザイ追及

    会社はこのパワハラ上司にけん責処分を出しました。しかし上司が納得できず提訴。
    結果……パワハラ上司の負けです。裁判所は「上司の2つの行為はダメ!けん責処分はOK」と判断しました。

    以下、わかりやすく解説します。

    ※ 争いを一部抜粋して簡略化し、判決の本質を損なわないように注意しつつ、一部フランクな会話に変換しています。

    登場人物

    ■ 会社
    ・化粧品の製造、販売などを行う会社

    ■ 上司
    ・男性
    ・アジア市場部に所属

    ■ 部下(Aさん・Bさん)
    この2人がパワハラを受けました
    裁判所のジャッジ
    順番に見ていきましょう。

    部下Aさんに対する行為

    上司は、Aさんに「Aさんの言動にも目に余るものを感じております」とメール送信をしました。その際、CCにほかの2名も入れたんです。

    ――裁判所さん、いかがですか?

    裁判所
    「アウトです。『Aさんの言動にも目に余るものを感じております」との文言は、部下であるAさんの言動について客観的な事実を指摘することなく、感情的にAさんを叱責する印象を与えるものであったことは否定し難いです。そしてこのメールは、アジア事業本部長から『Aさんが中心になって検討を進めてほしい』との指示が受けた後に送信されており、しかもCCに他の者がいれられており、業務上必要かつ相当な範囲を超えてAさんを叱責したといえるからです」

    <解説>

    パワハラには以下のとおり6類型あるんですが、メール攻撃のパワハラは【精神的攻撃】にあたります。

     ・手を出す(身体的攻撃)
     ・言葉ぜめ(精神的攻撃)
     ・仲間はずれ(人間関係の切り離し)
     ・無理やん…(過大な要求)
     ・仕事を取り上げるなど(過少な要求)
     ・プライベートに立ち入る(個の侵害)

    厚生労働省の指針にも同じような行為がパワハラにあたると記載されています。具体的には「アナタの能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を複数の社員宛てに送信」することはパワハラにあたると書かれています。

    部下Bさんに対する行為

    タイ出張の時のことです。上司はある一件でBさんを叱りました。Bさんは「理不尽に叱られた」と思ったのでしょう。

    帰国後、Bさんは、パワハラ上司の指導態様について部長に相談しました。部長は、パワハラ上司から事情を聞きました。

    その後、パワハラ上司がBさんにこんなLINEを送りました。

    ====
    ・Bさん 話しづらいのでラインします。私が不在の際に、誰がBさんにカマをかけてきたとしても、今までも、現在も、Bさんを守るのは直属の上司である私の役割で、胸を張ってそうしています。悪いようにはしませんので、その点ご理解頂きたく、どうぞよろしくお願い致します。
    ・そのためにも、何かあったら私に情報を入れてください。
    ====

    ――しごくウザイですね…。何と返信しましたか?

    Bさん「『部長から海外の話を聞かれた件でしょうか』と返信しました。すると上司は以下のように返してきました…」

    ====
    ・何を聞かれたんですか?
    ・もう一度繰り返しますが、Bさんを社内的に守ったり、仕事を教えたりするのは、今の組織では私の役割です。
    ・他から何かを言われたのなら、それも報告してもらうのが筋だと思います。以前はそういうやり方でうまくいっていました。Bさんのために言っていますので少し気持ちを整理してもらいたいと思います
    ====

    ――恩着せがましいですね…。で、何と返信しましたか?

    Bさん「承知致しました。申し訳ござません。宜しくお願いいたします。と返信しました」

    ――華麗なスルーです。

    Bさん「でも……以下のようなLINEがきました」

    ====
    ・僕は質問しているんです。
    ・もう静観しててもいいですか?
    ====

    ――しつこっ!どう返信しましたか?

    Bさん
    「すみません。私の体調を心配してくださって、健康面のことや出張中大丈夫だったか質問頂きました、と返信しました」

    ――ふたたび華麗なスルーです。

    Bさん「しかし・・・さらに以下のLINEが届きました」

    ====
    ・いえいえ、何か聞かれたんですか?
    ====

    ――消えてくれ〜。裁判所さん、いかがですか?

    裁判所「アウトです。パワハラ上司は、上司としての地位を利用してBさんへ嫌がらせ行為をしています。Bさんと部長との面談内容は、パワハラ上司の指導態様についてのものであって、パワハラ上司に開示されるべきものではありません。Bさんの私的領域に含まれる事項でした。にもかかわらず、Xさんは、BさんとEさんとの面談内容を何度もLINEで聞き出そうとしたからです」

    <解説>

    これは、6類型のパワハラの【個の侵害】にあたると思います。プライベートに土足で入ってきたらパワハラなんです。厚生労働省の指針では「継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること」が例として挙げられています。

    ちなみに、業務時間外に連絡することも【個の侵害】にあたります。プライベートに侵入してますから。

    というわけで、裁判所は「パワハラ上司へのけん責処分はOK!」と判断しました。

    さいごに

    多いのは【メールのCCに入れて叱責】ではないでしょうか。メールだけでなく、他の従業員の前で叱るのもパワハラになる可能性が高いです。裁判所は「叱るなら1対1で」と考える傾向があるからです。

    今回は以上です。これからも職場トラブルに対処するための知恵をお届けしていきます!

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